神の声が聞こえるようになった結果
わだち
第1話 神の声が聞こえた日
『死ぬぞ』
「え?」
何の変哲もない平日の昼。
突然、俺の頭に可笑しな声が響いた。
「どうした? 神崎、何かあったのか?」
授業をしていた先生が、授業を止めて俺に問いかけてくる。
さっきまで静かだったせいで、余計に俺の声が響いてしまったらしい。
「いや、大丈夫です。すいません」
先生に一言謝りを入れて、考え込む。
さっきの声は何だったんだろう? いや、気のせいか。
『一週間後、お前は死ぬ』
気のせいではない。今度ははっきりと聞こえた。
誰かの悪戯だろうか?
いや、誰かの悪戯だとしたら俺以外にもこの声が聞こえるはずだ。
辺りをきょろきょろと見回すが俺以外の生徒は皆、詰まらなさそうな表情で授業を受けている。
誰も声が聞こえているようには見えない。
だとすれば、やはりこの声は俺にだけ聞こえているらしい。
てか、ちょっと待ってくれ何で俺は一週間後に死ぬんだ?
『一週間後、お前はトラックに轢かれそうになっている美少女を助けようとして死ぬ』
ほう。
それは中々に興味深い。
こんなどこにでもいる平凡な男子高校生代表のような俺に、アニメの主人公のようなことが出来る度胸があるとは驚いた。
『一週間後、お前はトラックに轢かれそうになっている美少女を助けようとして、走り出した瞬間に、足元のバナナに足を滑らせ頭をコンクリートに強打して死ぬ』
「死因トラックじゃねーのかよ!」
突如、大声を上げた俺に、クラス内の全ての人の視線が集まる。
あ、やべ……。
「神崎……? 確かにKの死因はトラックじゃなくて自殺だが……。大丈夫か?」
「あ、いえ! 大丈夫です! 失礼しました」
現代文担当の先生に一言謝罪してから、席に座る。
席に座っても周りからの不審がる視線が消えることは無かった。
くっそ……。変な声のせいで恥かいちまったじゃねーか。
それから変な声が聞こえることは無くなった。
そして、あっという間に一週間が経過した。
本当に俺は死ぬのだろうか? と疑いつつも、普通に学校に通い、普通に授業を受け、気付けばいつもの帰り道。
そういえばバナナに足を滑らせて死ぬんだったなと思いつつ足元に注意していたら、バナナが落ちていた。
それも綺麗に交差点付近の歩道の上に。
更に、俺は気付いた。右の方から俺が通う学校で有名な美少女の一人、氷川さんが来ていることに。
そして、俺の脳内にあの声が響く。
『十秒後、お前は死ぬ』
ここで、俺が死なない方法はただ一つだ。それは、ここから動かないこと。
だが、それをした場合、氷川さんは……俺の死因に関わっている美少女はどうなる?
そうこうしている間に向かい側からものすごい勢いトラックが近付いてくるところが見えた。
信号が赤になっているにも関わらず。
ここで、俺は完全に理解した。
氷川さんは、ここで青になっている歩行者用の信号に従い横断歩道を進む。だが、そこに赤信号にも関わらずトラックが突っ込んできて氷川さんと衝突する。
そして、俺はそんな氷川さんを救おうとして足元のバナナに足を滑らせて死ぬ。
氷川さんを死なせたくない。だが、当然俺も死にたくない。
そう思った俺は一か八かの行動に出る。
落ちているバナナを素早く拾い、氷川さんの足元にシュート!!
「へっ!? ひゃあ!!」
普段のクールな雰囲気からは想像できないほど可愛らしい悲鳴を上げて氷川さんが転ぶ。
「ちょ、ちょっとあなた――」
俺がバナナを投げるところが見えたのだろう。
転んだ氷川さんは俺に文句を言おうとする。
だが、その言葉の続きは氷川さんの目の前をもの凄い勢いで通過していったトラックによって遮られた。
「……え?」
放心状態の氷川さんの姿を確認する。
見る限り怪我はなさそうだ。強いて言えば、バナナで足を滑らせて転んだことでスカートが少し汚れたかもしれない。
だが、命に比べれば安いものだろう。
とにかく、これで氷川さんが死ななくて良かった。
そう思いながら、俺は家へ帰った。
「……もしかして、助けてくれた? いや、でもまさか……。偶々、よね」
***
「ちょっとちょっと何でだよー!!」
神界と呼ばれる神たちが暮らす世界。
そこで、一人の神が地球と呼ばれる世界で起きた出来事に対して怒っていた。
「くっそー。折角、いい感じに適性のある女の子だったのにー。はあ、仕方ない。他世界への過度な干渉は禁止だし、今回は諦めるかぁ」
その神は奇跡的に生き残った氷川という美少女の姿を見て、ため息を一つ着いた後、部屋を後にした。
神の世界にも序列が存在する。
神は自分が統治する世界でどれだけ信仰されるかによって、己の力が変わって来る。
そして、様々な宗教があり、更には神を信じない人も多い地球における神の力は恐ろしく弱かった。
結果、他世界の神から地球人の魂が引き抜かれると言う事態が次々に起こる。
勿論、地球の神としても自然の摂理として死んだ人間の魂を他世界に貸す分には許してもいいと思っている。
だが、最近の神は自世界に転生させるのに丁度いい人間を見つけると、直ぐにトラックなどを使ってその人間を殺そうとするのだ。
これには地球の神も激怒である。
しかし、地球の神と他世界の神では、神としての力の差が凄すぎて、抵抗しても返り討ちにあってしまうだけだった。
悩みに悩んだ地球の神は考えた。
そうだ。同じ人間に救ってもらおう――と。
そんな時、神は丁度よい人間を見つけた。
その人間は、何故か他世界の神が地球の人間を殺そうとする場面に出くわしてしまうという不可思議な運命を持っていた。
これは使える。
そう思った地球の神はその人間に話しかける。
『死ぬぞ』
この物語は、神の声が聞こえるようになった人間がなんやかんやあってたくさんの人の命を救ったり、助けた人に気に入られたりする物語である。
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