第34話 キャベツとライ麦を収穫しよう

 六月になり、野菜が収穫できる時期になった。村人が管理する畑の収穫が始まろうとしていた。今日収穫するキャベツは煮込み料理に使えそうだ。


 昨日、ターナーは五個のビーツを分けてくれた。赤くて丸い野菜はどう料理しようか。今からセレナに聞いてみよう。

「真っ赤なビーツはどうする? けっこう数があるけど」


 リヨンは丸くて赤い野菜を手に持って聞いた。セレナはそっけなく答える。

「ブドウの果汁酢でけよう。漬物にするんだ」

「例えばキャベツの漬物みたいに? 」

「そう。漬物にする」


 セレナはパウロをだきかかえて、一緒に手を降った。パウロはおとないし、泣かない。いい子どもだ。

「それじゃあ、畑仕事をがんばってね」

「うん!」



 リヨンはセレナのはげましに答え、畑仕事をするために外に出る。畑に到着すると、すでに何人かの村人がいた。

 畑の水やりは欠かさずにやってきた。なのにキャベツの葉は穴だらけ、青虫に食べられた跡が痛々しい。

「おはよう、ブレイ」

「うん、おはよう」

「今日はキャベツの収穫だな」

「はい。今日中にやってしまおう」

 


 冒険者のブレイは畑の片隅にキャベツを積み上げていった。この場に四人の村人がいる。実は一番作業が早いのはブレイだ。

「さすがだ。早い」

「俺は農家の三男だ。冒険者は地方上がりが多いからな」


 村人となったブレイは畑仕事がすっかり板についてきた。用心棒として村にいるより、隣町で冒険者をやった方が稼げると思うが。本人に理由は聞いてない。気まずくなるだろう。


 ご老人 フィリポも手慣れたものだ。シワだらけの手に握られたナイフでキャベツを切り離す。ご老人は球体に弾力があると言っている。どうやら食べごたえのあるキャベツのようだ。

 足で葉を押さえながらキャベツを右手でつかみ、根元にナイフで刃を入れて一気に切る。傷がないキャベツは高く売れる。


 キャベツについた虫を取り除く。そして一カ所に葉を集める。腐った野菜はくさい。そうなる前に処分したいので火をつけて燃やす。灰は肥料として使えばいい。


 作業が終わったのでリヨンは共同の畑を見にいく。五月にえんどう豆とレンズ豆を収穫した。今は玉ねぎが収穫時期を迎えつつある。ニンジンは七月から八月、小麦は七月に刈り取れるだろう。

「玉ねぎも少しだけ持って帰ろう」

「俺も持って帰るわ」



 家に帰るとセレナが出迎えてくれた。リヨンとブレイは何も言わず食卓に座る。ブレイは冷えたエールが心地いいと言う。リヨンは一気飲みした。

「いやー 疲れた」

「体がこたえますね」


 セレナが野菜のごった煮を持ってきた。玉ねぎやビーツが入ったスープ。素朴そぼくな味かする。

「最近 ジョンを見ないね 」

「ジョンは牧草地の草刈りで忙しいから。それに今の時期は干し草作りをやってるよ」


 ライ麦で作った黒パンをみちぎってのどに入れる。二人は早めの昼食を終えてライ麦を収穫する作業に行く。


 四人の移住者は切り開いた森の開墾かいこんを始めていた。土地がもらえると聞いて、はりきった奴もいる。

 四人はフェルト帽をかぶり、亜麻布で作られた灰色の服を身につけ、靴紐でしばった茶色い革靴をはいている。農民らしい服装だ。


 一人はスコップで切り株を掘り下げ、二人は体に巻き付けたヒモで切り株を引っ張りあげている。切り株を抜いて畑を作るつもりだろう。


 リヨンは手前にある畑に用があった。今日は黄金色に輝くライ麦の収穫をする。ブレイは大鎌、リヨンは小鎌でライ麦を刈り取り始めた。湾曲わんきょくした鎌で根元に刃を入れる。

「後で牛に食わせるから根本は残すか」

「あぁ」


 ライ麦をつかみ、地面すれすれに切る。刈り取った麦は地面に倒して次にいく。穂をさわると実がまっている。実にいい、収穫に適した時期だ。


 ブレイはライ麦を刈って束にしている。リヨンも手を動かす。二人はその作業を終始しゅうし無言で行っている。

「…… 」

「リヨン どうした?」

 リヨンは無言で空を見上げていた。ブレイも視線を追うと青空の中に黒い点を見つける。それはこちらに向かってきている。鳥にしては大きいし、くちばしが目立つ。


 リヨンは「魔物だ!」と叫んだ。

 黒い点は魔物だった。羽ばたく音が大きくなっている。ブレイは即座に大鎌を振り上げた。

 鋭い爪を持つたかのような魔獣グリフォンが急降下。グリフォンはリヨンに目もくれない。


 リヨンはまるで手斧を投げるように小鎌を武器にした。あわてたグリフォンは羽ばたきながら逃げて行った。

「危なかった。やられると思ったぜ」

「道具をなくした。セレナにしかられる」


 二人はたばねたライ麦をかかえて倉庫に行った。真っ先に暗い倉庫から出てきたブレイは声に出して笑った。

「俺たち 死にかけたな」

「一人前の戦士は剣がなくても戦えると聞いた。君は本当の戦士だ」

「リヨン ほめるなよ。はずかしい」


 リヨンが家に帰ると、セレナが待っていた。机の上にはソーセージや黒パンが並べられている。

「ソーセージか? 珍しいな」

「近所からもらった」

「今日は煮込み料理作らないのか。先に食べていい? 」

「いいよ」


 ソーセージは皮がパリッとしてうまい。手が油まみれになってしまったが気にしない。せめて貴族が持つような二本差しのフォークが欲しい、とセレナに言っても理解されない。

「これ食べたら寝るわ」

「おやすみ、リヨン」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る