第6話  挑め! ゴブリン軍団に

 ノワール村になだれ込む新たなゴブリン。

 ゴブリンチャンピオンが雄叫びを上げると、ゴブリンたちも雄叫びを上げた。


 ゴブリンの集団を見たアーテルがリヨンにつぶやいた。

「さっきのゴブリンはただの偵察だったか。してやられたな」

「アーテルさん。今なんと?」

「リヨン殿。このゴブリンの集団は本隊だ。さっきのは斥候ていさつだった」



 ゴブリンが構える弓がリヨンに向けられていた。

 リヨンはまったく気づいていないが、農家の屋根にいるディオからはよく見えていた。

 ディオが間髪入れずに弓矢を放つ。リヨンが顔を上げると、矢がゴブリンの頭に突き刺ささっていた。

「助かったよ。ディオ」

「礼を言うのは勝ってからですよ」


 ディオは背中の矢筒に手を伸ばすが、弓矢が全く足りない。

 彼が「矢をくれ! 」と叫ぶと、リヨンはゴブリンから奪った矢筒を投げた。


 背中にゴブリンを乗せた犬型の魔獣が村に迫っていた。二匹が前衛を突破。セレナが杖を構えたが、奴らの数は多い。

「ゴブリンライダーが来たぞ! 」とリヨンが叫ぶ。


 セレナが放った雷撃トニトゥルスはゴブリンを一撃で倒す威力だった。ゴブリンが乗っていた魔獣が地面に転がるほどの。


 村人とゴブリンの間には圧倒的な戦力差があったが。エルフたちがその戦力の差をくつがえしてしまった

「信じられない! たった八人でゴブリンに勝っているんだ」

「そなたはまだまだ知識が足りぬな。ゴブリンを倒しただけで、ぬか喜びしよって」


 二人の前衛は次々と襲いかかってくる敵を撃退する。

 セピアはショートソードでゴブリンを両断。リヨンは短剣をゴブリンの胴体に刺し、足元に落ちていた短剣を投げつけました。

「リヨン。ゴブリンソードがいるぜ」

「わかった。最優先で倒す 」


 ゴブリンソードは皮の鎧と剣を身につけていた。まるで人間の剣士のような見た目だ。肌は緑色だが。


 突然、ゴブリンソードがセピアに切りかかった。オールドバックの男は無言のまま剣を振りかざします。ゴブリンソードの首がフットボールのように落ちた。


 たったの一撃で、セピアはゴブリン部隊のリーダーを倒した。ゴブリンソードを葬ったことから、他のゴブリンは彼が最強の戦士であるという判断をしたようだ。

「ゴブリン剣士などという下等生物が場をわきまえろ! 」


 セピアの挑発にゴブリンは怒り狂った。弓矢が一斉にリヨンたちに降り注く。ゴブリンが放った弓矢がアストラの足に刺さる。


 ゴブリンがチャンスと言わんばかりに短剣を振り下ろす。ミスル銀の鎧に剣が当たると、鉄の剣は簡単に砕け散った。ミスル銀の鎧は硬すぎて簡単には破壊できない。


 アストラは闇魔法を放って窮地きゅうちを脱する。彼女は一人で立ち上がろうとするが、ストラーダが肩を持って支えた。

「アストラ。一旦戻りましょう」

「私はまだ戦える。弓矢が撃てるのに! 」

「強がらないでっ! アストラ」


 セピアとリヨンが前に出るしかない。リヨンは腰の鞘からミスル銀のつるぎを抜きました。

「ストラーダとアストラが抜けた分を埋めないと」

「貴様に言われなくてもわかっている」

「セピアに背中を任せる」

「任せてくれ。死ぬなよ小僧」


 そうして、戦い続けているとゴブリンシャーマンが魔法で攻撃を開始した。

 シャーマンが炎の球を放つと、リヨンは炎の球を避けながら近づいた。彼は邪魔するニ体のゴブリンを切り捨て、ゴブリンシャーマンを真っ二つに切り裂いた。


 リヨンの耳にセレナが叫ぶ声が聞こえた。

「戦って村を守るのはそなたの役目。ゴブリンチャンピオンを倒しなさい」  

「わかったよ。セレナ」


 ゴブリンチャンピオンは、ゴブリンの親玉といった存在だ。鍛え上げられた筋肉質の体を持っているが手にも斧を持っており、頭にはヘルムを被っていた。

 

 ディオが弓を構えた。狙いはゴブリンチャンピオンの目にある。ディオは視界を封じれば仲間が戦いやすいと考えていたからだ。

 弓矢が飛ぶ、真っ直ぐに。チャンピオンの左目から血が流れた。

「ぐぬぬ」


 斧と剣がぶつかり、周囲に金属音が響く。リヨンは重い斧の一撃を剣で受け止め、三度の攻撃を防ぐ。

「さすがミスル銀の剣だ。なんともねぇな」


 ゴブリンチャンピオンが斧を構え、上から振り下ろす。リヨンは懐にできた大きな隙を狙って、剣で胴体をつらぬく。  

「チャンピオンを倒したぞ」


 残ったゴブリンは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。リヨンがときの声を上げると、ダークエルフも続いた。


 フォレ・ノワール村のあちこちにはゴブリンが残した剣や槍が点在していた。リヨンとセレナは魔石を丹念に拾い上げる。

「ゴブリンが魔石になったよ。高く売れそう」

「町に行って売る気? 」

「買いたいものがあるから。ダークエルフ達にも何か買ってあげたいし」



 その日の夕食はまさにお祭り騒ぎだった。ダークエルフは飲めや歌えやの大騒ぎ。今日捕獲した鹿肉をメインにお酒を堪能たんのうしている。

「イヤー。酒がうまい。酒がうまいわ」

「ちょっとアーテル。飲みすぎよ」

「いいんだ。アストラ姉さん」


 アストラの足はすっかり元通りになっていた。セレナの治癒魔法はまさに神業級。並大抵のエルフではこうも簡単に治せないので。ハイエルフだからこそ可能な芸当です。

「アーテル。勝ったからって調子に乗るんじゃないよ」

「わかったよ。姉さん」


 ストラーダはセレナとおしゃべりの真っ最中。

「あなた500歳を越えているの。どうりで強いと思った。私は300歳よ」

「300歳でも立派。強さは年齢と比例しないから」


 リヨンはディオて会話に興じている。

「こうして話ができるものリヨンさんのお陰です」

「いやいや。ディオさんが弓を放ったから俺は命拾いしたんだ」




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