第3話 両替に行こう

 ある日のことです。

 リヨンとセレナはノワール村からシュタルクに向かっていました。足りないものを買うために町に行きます

「屋根のわらが足りない。どうしよう」

「買えばいいよ」


 アウィスの背中に乗り込んだリヨンが手綱を引っ張りました。

 リヨンは盗賊と戦えるように短剣をぶら下げています。セレナはエルフの特徴的な耳を隠していました。白いずきんで。

「ハイヨー シルバー! 」


 荷馬車がゆっくりと石畳の道を走り出します。

 石畳の道が土へと変わる頃には、一面に畑がある風景が広がっていました。周囲には農家がちらほらと点在しております。

「買い物が楽しみ。おいしいものはあるかな? 」

「銀貨は好きなだけ使っていいよ。節約しろってセコいことは言わないよ」


 町へ続く道には大きな川がありました。セナ川は運河としても使われていますし、人や物が運ばれてる重要な場所です。

 川の渡し守が指差した方向に橋があるようです。さすがに渡し船には荷馬車が乗りませんから。

 遠回りする必要があります。

「荷馬車が通れる橋はあっちさ」

「助かったよ」


 シュタルクは川沿いにある港町です。二人の門番が開けた扉の向こうには栄えた町並みが広がっていました。

「わぁ。人が多い」

「始めて来た町だから。見るものすべてが新しい」


 シュタルクは魔王領から一番近い街でした。

 大勢の兵士が町を歩いています。噂では辺境伯は四百人ほどの私兵を抱えているそうです。本当か、知りませんけどね。

 リヨンから見れば、シュタルクは都会から離れた地方の町といった印象です。

 村で作った農作物を売れればお金になるだろうとリヨンは考えていました。

「両替に行こう」


 橋の上に必ず両替商がいる。これはセレナとリヨンが旅で学んだことでした。

 リヨンは橋に座った老人の両替商に声をかけ、ユリの花が刻まれたシャルル金貨を手渡します。

「シャルル金貨1枚をデニエ銀貨に両替したい」

「わかった」


 金貨一枚でデニエ銀貨九十枚と交換できるそうです。グロス銀貨なら十八枚ですね

「デニエ銀貨90枚でいかがでしょうか? 」

「それでいいよ」



 二人は橋を離れて、露店が立ち並ぶ広場に行きました。どこからか良い匂いがしますね。セレナの腹がひとりでに鳴りました。

「パンが食べたい。美味しそうな匂いがする」


 セレナはパン屋の露店に興味があるようです。蜂蜜がたっぷりかかったパンがお目当てのようですが。昼を過ぎた今からでもパンはあるのでしょうか。

「そなたは銀貨を渡してくれぬようだが」

「パンはリュート銀貨2枚で充分だろ」


 二人は蜂蜜はにみつをたっぷり塗った細長いパンを食べながら歩きました。セレナは口の周りに蜂蜜をつけています。リヨンはそんなセレナをかわいいと思いました。

「口についてるぞ」

「取ってくれ」

 

 ある店に立ち寄ったリヨンは毛布を見つけます。リヨンは中央に十字架が刻まれた銀貨を握りしめました。幸い、デニエ銀貨はたくさん持っていましたから。

「テントを作りたいんだけど。毛布5枚あるかな」

「デニエ銀貨で払ってくれ。純度の高いグロス銀貨なら1枚だな。リュート銀貨での支払いはお断りだ」

「デニエ銀貨10枚で払います」


 リヨンは隣にあるパン屋の扉をたたきました。

 店主は苦々しい表情で夫婦を見ます。一見してよそ者とわかる風貌の夫婦ですから。よそ者はパンの相場を知らないと見ています。

「大きい小麦パン 8個ください」

「男の人、リュート銀貨24枚を頂くよ」

「小麦パン8個でリュート銀貨16枚のはず」


 普段はパン一個がリュート銀貨二枚のところ、今年はリュート銀貨が三枚必要になったのです。

「今年は魔物が散々暴れたから 小麦が値上がりしてね。24リュートで頼むよ」

「デニエ銀貨で4枚か…… 」


 

 パン屋で買い物を終えたリヨンは石屋に向いました。木造建築の一階部分に店があり、年配の厳しそうな職人が入口まで歩いて来ました。

「小さい石臼はありますか? 」

「うちで一番上等の石灰岩はデニエ銀貨10枚。安いものは銀貨8枚でいい」

「安い方で」

「ところで2人はご夫婦さん? 」

「ええ。まぁそんなところです」


 二人は最後にわらを買いに行きます。高圧的な商人を前にして値段交渉をする余裕はなく、デニエ銀貨八枚でわらを購入する破目はめとなりました。

「なんてひどい人」とセレナがつぶやく。

「必要なものだから仕方なかったんだ。酒でも飲んで気分を変えよう」


 馬車に荷物を積み込んだ二人は酒屋に入ります『犬も歩けば亭』の番人にリュート銀貨を二枚渡すと、番人はアウィスをわらき屋根の馬屋に連れていってくれました。

アウィスは馬ではありませんがね。


『犬も歩けば魔法使いの杖に当たる亭』は町でも人気の酒屋のようです。その証拠に大勢の人でにぎわっています。二人はエールが入った木製のジョッキをぶつけて乾杯しました。

「乾杯!」

「家作りの成功を祈って。乾杯」


 グビグビとエールを飲む二人。エールを豪快に飲み干したセレナに周囲が驚きます。

「ワン・モア《おかわり》」


 リヨンは酒屋での会話に注意深く耳をかたむけました。もうすぐ魔王領への大遠征が開始されるとか、武器と防具の値段が上がるなといった噂が飛び交っています。

「村は魔王領に近いから心配」

「ノワール村とベルン村が最前線だからね」


 リヨンは手づかみでソーセージを口に入れます。固いライ麦パンに飽き飽きしてきたので。口は肉が恋しくてたまりません。

 一方、セレナは燻製くんせいベーコンを挟んだ惣菜パンを食べていました。

「食べ終わったら出よう。暗くなったら危険だ」

「盗賊に襲われても助けてくれるな」

「セレナ。何でも倒してやるから」


 シュタルクを出たリヨンは橋を渡ります。アウィスが走らせる荷馬車は順調に来た道を戻っていった。

「セレナ。村作りが一段落すれば仲間に会いに行こう」

「ドワーフの都市は遠いから。無事にたどり着けるか心配」






 ※日本円換算

 リュート銀貨→180円

 デニエ銀貨→2000円

 グロス大銀貨→10000円

 シャルル金貨→30000円


 

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