元勇者 今は村長やっています ~リヨンの辺境開拓記
阿野シュウ
むらを復興しよう
第1話 勇者は魔王を倒した
星暦1345年3月
リヨンとその一行が王都に戻った頃、季節は春を迎えていた。
戦士リヨンはシャルル王国の宮殿に足を進めている。
魔王を討ち倒した報告をするために。
「やっと王都に戻ってきたね、リヨン」
「5年ぶりだよ。ほんと」
リヨンの肩に寄りかかったセレナが言う。
「報酬の金貨が楽しみ」
「それしか頭にないのか、セレナは」
荷馬車には銀髪のリヨン、金髪の魔法使いセレナ、黒髪の僧侶レジアス、ドワーフの戦士アトレーが座っていた。
共に魔王を倒した仲間たちだ。
リヨンはふと三人に「これからどうする?」と問いかけた。
魔王を倒しても人生は続いてゆく。
彼は四人がそろうのはこれが最後になるだろうと、考えていた。
最初に口を開いたのはセレナだった。
「私はリヨンについていく」
「ワシはドワーフが住む故郷に戻る。ちと遠いが家族が待ってる」
「私は司祭として再び神に仕えます」
セレナは前から決めていたことだが、リヨンと一緒に暮らすことに。
アトレーは妻子が待つ故郷に帰る。
僧侶のレジアスは王都で司祭に戻る。
「今日で勇者パーティーは終わりだな。リーダーの俺も故郷に帰るよ」
やがて、王都の門が見えた。
立派な石造りの門の前で兵士が槍を構え、行く手を
全身をメイルで固めた門番が槍で地面を叩いた。
「きさまら、名を名乗れ!」
リヨンは一瞬ツバを飲み込んで、名乗りを上げた。
「おれたちは魔王を倒したパーティーだ。名はリヨン、セレナ、アトレー、レジアス」
「証拠はあるのか?」
「この魔剣をみろ!」
リヨンはそう言って黒い魔剣を
両刃の剣が生々しく輝く。
「噂は冒険者から聞いている。証拠があるなら通れ」
ギギギ……と重い音を立てながら門の両扉が開く。
「報酬はフローリン金貨がいいなぁ。耳長よ」
「金は大事にしないとね。アトレー」
玉座の間に四人が通されると、玉座に国王が座っていた。
あごひげを生やした国王はよく通る声で話を始めた。
「よくぞ魔王を倒した。勇者パーティーに銀貨を授けよう」
国王からはパーティーにデニエ銀貨千枚が渡された。
一人あたり銀貨二百五十枚。
信じられないほどの大金だ。
王国の兵士に魔剣を渡し、彼らは城を後にした。
その夜、リヨンは王都の広場に仲間を集め、銀貨が詰まった革袋を掲げた。
「みんな、今夜は居酒屋を貸し切って飲もう」
「私は賛成っ。みんなは?」
「私もセレナに賛成ですよ。酒は好きですから」
「金貨はたんまりあるからな。レジアス」
僧侶のレジアスも一番に賛成した。
「僧侶のくせに飲み過ぎるなよ。僧侶が酒に飲まれてどうする?」
「その通りですね。リヨン」
リヨンはこじんまりした居酒屋を銀貨二十枚で貸し切りにした。
店内にはぶどう酒の匂いが
「さっそくだけど店を借りたい」
「わかりました」
さっそく、マスターに酒を持ってくるよう要求する。
「この店で一番高いぶどう酒をくれ」
「すぐにお持ちします」
リヨンはぶどう酒入りの杯を傾けながら、自身の半生を思い出していた。
フォレ・ノワール村がゴブリンの集団に襲われ、両親とも離れ離れになった日。
十二歳から父の形見である魔剣を手に、冒険者を始めた日を。
酒屋ではハーフエルフに出会い、冒険者としての基礎を叩き込まれた。
三年をシュタルクで過ごし、王都攻防戦に参加した。
仲間と出会ったのは王都攻防戦で即席のパーティを組んだときだ。
早くも酔っ払ったセレナはリヨンの顔をのぞいた。
「どうしちゃったの? リヨンはぼーとして」
「なんでもないよ。ちょっと考え事」
セレナがリヨンの肘を引っぱり、かまってほしそうにしてる。
「リヨン。いつ村に帰るの?」
「あさってだよ。明日は買い物に行こう」
「ぶどう酒と…… 大きな白パンも欲しいな」
「小麦のパンは高い」
「それぐらいわかっておる。リヨンこそ、金貨の使い方はわかってないわ」
「耳が痛いな。セレナ」
リヨンは内心葛藤していた。
剣をクワに持ち替えて、未来を切り開いていけるのか。
明日から勇者の立場を捨て、農村で地味に暮らしていけるのか。
翌日の夕方、リヨンとセレナは荷馬車に荷物を積み込み、仲間に別れを告げた。
レジアスはリヨンと別れの挨拶をした。僧侶は名残惜しそうな顔を隠せない。
「たまには王都に遊びに来てください。必ず会いに行きます」
「レジアスがいなくなって
「レジアスとアトレー、買い物を手伝ってくれてありがとう」とセレナが笑った。
ムチを入れると黄色い鳥が走り出し、二人は荷馬車で門を潜った。
仲間と過ごした五年間が、走馬灯のように二人の脳裏をかすめる。
「名残惜しいな。別れが」
「春は出会いと別れの季節だね」
誰にだって、仲間と離れたくない気持ちはある。でも、旅に別れは付きものだから。
「戻ってこられるのは何ヶ月後だろう」
「王都に戻ってきたら、レジアスに会いたいね」
「必ず会いに行く。必ず」
「もし、子どもが生まれたらレジアスに名前をつけてもらおう」
「いい考えだよ。 賛成」
二人を乗せた荷馬車は、夕焼け空の中に小さくなっていった。
夕焼けに照らされたリヨンの横顔を、セレナがじっと見つめている。
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