第3話 出発
<関西連合の本部の一室>
黒い皮のソファに深く座っている男がいる。
グラスに入っている飲み物を飲むと、机の上に置いた。
「おい、特区の住人やがな・・きちんと帰したんか?」
「へい、それはもちろんです。 きちんとわかるように写真もつけてます」
「さよか・・まぁ、これであの特区の市長も少しはわかるやろう。 人には決して触れてはあかんものがあるということがな」
男はそう言いながらニヤッと笑う。
「社長、それで少しお耳に入れておきたいお話があるのです」
ソファの横から男が言う。
「何や?」
男は社長の前に来て頭を下げる。
「はい、私の事務所のところでいる奴の情報なのですが・・」
「お前には岡山を任せてあったな、山室」
「へい・・それで、その者が言うには特区の奴の右肩の部分に入れ墨がなかったかと言っておりました」
「入れ墨?」
「はい」
社長は周囲を見渡す。
1人の男がスッと前に出て来て、茶色の封筒を渡す。
社長がその封筒から何枚かの写真を取り出した。
何枚かめくりながら嫌な顔をする。
「こりゃ、あかんな・・食べる気ぃ・・なくなるで」
そこで1枚の写真を見つめていた。
「これのことか?」
社長はそう言って山室に見せる。
山室は覗き込むように写真を見ると、社長に頭を下げていた。
「社長、自分もどんな入れ墨かは知りません。 ただ、特区の中で右肩に入れ墨があるのは、特区の隊員だそうです」
「隊員? ワシの弟をやった張本人やな?」
社長はそう言うと、写真を差し出したやつに渡す。
「えっと・・その入れ墨の入っとる奴・・それがどしたんや、山室?」
「い、いえ・・ただ自分も聞き伝えなので良くはわかりませんが、特区の隊員と言えば、凄まじい戦闘能力の持ち主と聞いております。 それで少し社長のお耳に入れておこうと思ったまでです」
山室は暑くもないのに、額に汗が流れていた。
「さよか・・でも、特区の中でのことやろ? ワシには特区の人間の区別はでけへんよ。 山室、情報ありがとさん。 えっと・・誰が責めたんや?」
「佐山です」
「あぁ・・あいつか・・」
「社長、佐山に責められて正気を保てたものはいません。 それに最後まで何もしゃべらなかったと聞いています」
「さよか・・まぁ、詳しいことはわからんが、どの道特区の連中は調子に乗ってるからな・・ちょうどええ薬やろ」
社長は深く椅子に座り直すと、お昼の食事のメニューを聞いていた。
◇
山室と写真を手渡した男が部屋の外で会話する。
「山室・・社長は別に気にしてなかったな」
「あぁ、俺も寿命が縮むかと思ったぜ。 でも知っている情報は提供しておかなきゃな。 後で社長に怒られるしな」
「全くだ。 だが、あの佐山が拷問したんだ。 俺ならすぐに殺してくれって言うね」
「同感だ。 だが、最後までしゃべらなかったって・・口がきけなかったのかな?」
「だが入れ墨はあったな・・高い確率で隊員だな」
「あぁ、俺もそう思う。 だが特区の外の話だ・・」
「わかっている。 だがな・・あの拷問・・」
二人はそれ以上言葉が出て来なかった。
「どうなるかわからんが・・警戒度を引き上げた方がいいことは間違いないな」
山室と男はうなずくと通路を歩いていく。
◇
<菊池たち>
菊池、村上、山下が戦闘服に身を包んでいた。
そしてその上に普通のラフな服を着る。
見た目には少し緩めの服を着ているおやじたちだ。
ぽっちゃりとした体形と言われればそう思える感じがする。
見送る隊員たちの中からクスクスと笑い声が聞こえて来た。
「ププ・・た、隊長・・もうダメだ。 はっきりいいますよ。 どう見てもおかしいです」
「だはは・・はい、確かにおかしい。 メタボおやじのはずなのに、その精悍な顔・・ありえねぇ・・ププゥ・・」
菊池はニヤッとすると姿勢を正す。
「お前らなぁ・・もう少し緩い顔つきがいいのか?」
菊池はそうつぶやくと鏡の前に立つ。
・・・
「確かに・・変だな。 だが、顔は変えれないしなぁ・・」
菊池のその真剣な仕草を見て、隊員全員が爆笑した。
ドワッハッハッハ・・・。
「た、隊長・・もういいです。 そのままでいいですから・・」
お腹に片手を当て、皆笑いをこらえるのに必死のようだ。
菊池は苦肉の策で付け髭をした。
まぁこれで不自然さは取りあえず防げそうだ。
ただ、隊員たちはなおさら笑いを堪えるのに時間が必要なようだが。
「ふぅ・・よし、お前たち、後はよろしく頼む」
菊池の一言で、今までの空間が一瞬で引き締まる。
「「「はい! お気をつけて」」」
隊員の声を受けて、菊池たちは部屋を後にする。
◇
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