渡りきったら

「七夕ほど下らない行事は無い」

2人がけのソファに寝転がったままテレビを消して、黒田は言った。左手を伸ばしてリモコンを机に置く。白野はソファに戻ろうとしたその手を取って、「は?」と言った。黒田の骨張った左手を握る右手に力を込めて、さらに力を込めてもう一度、「おい」と言った。

握り返しながら黒田は答える。

「七夕はアホ。笹に願いを吊り下げて何なんだ。雨も降るし最悪」

白い角ばった六畳の部屋に黒いため息と湿気が充満している。白野は黒田の顔にリモコンを投げつけた。

「そうじゃなくて勝手に消すなよテレビを」

ソファの座面にリモコンが落ちる。黒田は仕方なくテレビをつけた。七夕の特番をやっている。

「たしかに七夕はくだらないよ」

白野はそれだけ呟いた。

願うことなんてなにも無いのだ。

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