4—3 かーちゃんにサプライズ

【前回のあらすじ】

 初めてのディープキスの気持ち良さに頭がしびれるリユ。美那はもっと先に進んでいいと言ってくれるが、リユは避妊具がないことに気付く。ドラッグストアへの往復もラブラブなふたりは、素直に自分の心をさらけ出せるようになってくる。ところが家の前まで戻った美那がいずれ手放すこの家ではリユとシたくないと言う。すぐにシなくてもいいと考えるリユは、自分の家に行こうと提案する。




「あ、リユのバッグを取ってこなきゃ」

「あ、そうだった」

 とりあえず美那の家の中に戻る。

 人目がないので、またキス。ごく軽いヤツだけど。

 いや、舌と舌がちょっとだけ触れ合った!

 で、すぐに離れる。

 あ、やば、美那、カワイイ。

「リユは玄関で待ってていいよ。自分の荷物もちょっとまとめてくるから」

「え、着替えとか俺んにあるんじゃん?」

「そうだけど……いろいろあるの、女の子は!」

「ま、いいけど」

 美那の家から俺の家まではほんの2、3分。

 足繁あししげく通うようになってから2ヶ月。

 なんか、風景がまったく変わっちまった!

 ここをこんな風に手を繋いで歩くのは、たぶん幼稚園の時以来だ。

 家の近所で手を繋いで歩くのは、確かサスケコートを借りられることになった杉浦さんの家からの帰り道だったな。あの時は普通に手をつないだだけだけど、今はもう当たり前のように恋人つなぎ。というかそれが自然な感じ。

「どうする? このまま、家に入る?」と俺。

「このままって?」

「手、つないだまま」

「うん」と、美那に迷いはない。

「なんで? 加奈江さんに報告するんでしょ?」

「いや、どうやって、サプライズにしようかと思って」

「そっちか」

「さんざん、早く彼女作れとか、お前と付き合わないのかとか、いろいろ言われてきたしな。まあ、別に変にプレッシャーを掛けてくるわけじゃねえけど、願望を一切隠さない感じだったし、俺的にはちょっと驚かしたいんだけど」

「そうか……でも仕事中じゃない? あ、この時間だと夕飯の準備かな」

「そういや、今日はこんな格好だし、かーちゃんに会わないように早めに家を出たから、メシをどうするとか言ってなかったな」

「そのシャツ、買ったんだ?」

「あ、ああ……一応、香田さんに失礼のないように有里子さんに相談した」

「へぇ……やっぱ、デートのつもりだったんだ……」

 う、なんか、ちょっとヤバい雰囲気?

「ま、まあ、誘われた時は、な。だけど、これも有里子さんのアドバイスだけど、その前にお前との関係をよく考えてみた方がいいって忠告されてさ。それで、いろいろ気持ちの行き違いがあって、お前との関係はずっと付かず離れずで、こういう方向に発展しなかったわけだけど、今週ずっと考えてて、やっぱ俺にはお前しかないんだ、って思った」

 美那の表情が緩む。

「ごめん。ちょっと嫉妬しっとした。だってわたしと会う時は服とか無頓着むとんちゃくだし……」

「それは……もともとあんま服とか気にしないし、それにお前を友だちだって思い込もうとしてたし……」

「うそ。いいよ、リユはリユの好きな格好で。必要な時はわたしがお願いするから」

「あぁ、ごめん。でもこれからは少しは気をつかうよ」

「うん。ありがと」

 一応周りに誰もいないことを確認して、家の前で軽いチュッ。

 やべ。美那の照れ感、めちゃ可愛いいっ! そして幸せそうな微笑み。

 俺もとっても幸せな気分。あー、人生で一番の、最高の日だ!

「Z250、お前には悪いけど、お前を手に入れた日以上だ。ごめん。でも、わかってくれるよな⁈」と、すぐそこの、ホンダ・フィットの奥にいるZ250に心の中で話しかける。近いうち、3人でお出かけしようぜ!

 結局、手を繋いだまま、玄関を開ける。

「ただいま。美那、連れてきた!」

 俺はいつもよりちょっと大きめな声を出す。台所にいたら聞こえるはずだ。そのさらに奥の書斎で扉を閉めて仕事に集中しているとまず聞こえないけど。

「仕事中かな? それとも買い物にでも出かけたのかな?」

 と俺が呟くとほぼ同時に、二階から「おかえり」と、かーちゃんの声が飛んでくる。

「ま、いいか。言葉でちゃんと報告しよう」

 そう言って、俺は美那を見る。

 美那が笑顔でこたえる。

 そしてかーちゃんが降りてこないのをいいことに、また接吻キス

 今度はちゃんとしたやつ。舌は入れないけど。

 しかし、想像していた以上に、キス、しまくりだな……。

 そして、キスをし終わった時の美那の表情がまたスッゲー可愛いんだよな。

 居間に行って、とりあえずソファに座る。身体からだを寄せ合って、かーちゃんが来ても見えないところで恋人つなぎ。

 ようやっとかーちゃんが二階から降りてきた。

 座ったままふたりで振り返る。

 と、思ったら、余所行よそゆきの格好してる。お気に入りのカルバン・クラインのパンツスーツに化粧もちゃんとしてる。

「美那ちゃん、来てくれたのにごめんね。これからちょっとお出かけなの」

「あ、いえ」

「なんだよ、ずいぶんおめかししてんじゃん」

「あ、ちょっとね、友だちと食事してくる。里優、最近、忙しそうにしてたから、言いそびれた」

「それはいいけどよ。俺もさんざん夕飯の連絡すっぽかしてたし」

「そうね。あ、帰り、遅くなると思うから、先にお風呂入っておいて」

「今日、美那が泊まっていっていい? 園子さん、実家に帰ってるんだって」

「あー、そうなのね。そうか……」

「なんで? それだけでわかんのかよ」

「そりゃ、わたし、経験者だもの」

「ま、そうか」

「ごめんね、美那ちゃん。一緒にご飯食べたかったのに」

「あ、気にしないでください。また、今度」

「うん」

 そろそろこの辺でブチ込むか!

「ところで、俺たち、付き合うことになったから」

 居間にある鏡の前で髪型をチェックしてたかーちゃんの動きがピタリと止まり、俺たちを振り返る。

 上半身だけ振り返ったまま、しばらく俺たちを凝視ぎょうし。俺たちはソファに座って、手をつないだままだ。

 2、3秒してようやく俺たちの方に歩いてくる。

 ソファに合わせた一人掛けの低いスツールを引っ張ってきて、俺たちのすぐ近くに座る。

 かーちゃんは俺たちを交互に見る。

「こういうときはなんて言ったらいいのかしら?」

「知らねえよ」

「そうね、やっぱり、おめでとう、か。おめでとう、里優、そして美那ちゃん」

「ああ」と、俺はちょっと無愛想に答えてしまう。

「はい。ありがとうございます」

「うん。よかった。言うまでもないけど、ちゃんと大切にしなさいよ」

「わかってるよ」

「どっちから、告白したの?」

「かーちゃん、そんなこと、くなよ」

「彼の方から……」

 そう言って、美那が嬉しそうな瞳で俺を見る。思わず頬が緩む。この〝カレ〟は正真正銘の彼氏の彼じゃん!

「そうか。頑張ったね、が息子よ」

「なんだよ、その古い小説みたいな言い回し」

「正直言って、喜びをうまく表現できない。この日を待っていたけど、思いのほか、衝撃だった」

「ま、いいけどよ……」

「美那ちゃんのおかげでようやくこの子も美那ちゃんとバランスが取れるようになったもんね。ありがとうね、美那ちゃん」

「あ、いえ」

「わたしにはなかなか引き出せなかったから、この子の能力」

「いえ、わたしはたまたまきっかけになっただけで……」

 なんか、美那のやつ、神妙な感じ。そうか、美那とかーちゃんとの関係も新たなステージに入ったってことか。

「うん、ありがとう。これからも、よろしくね」

「はい、こちらこそ」

「あ、ちょっと時間が。そろそろ、出なきゃ」

「あ、ごめん」

「ま、いいわよ。少し遅れるかも、って連絡入れとくから」

「あ、うん」

 かーちゃんが立ち上がり、俺たちは玄関まで見送りに立つ。

「じゃ、いってらっしゃい」

「はーい、行ってきまーす」

 俺たちが手を振ると、かーちゃんはようやっと素直にうれしそうな顔を見せて、家をあとにした。

「加奈江さん、なんかちょっと戸惑とまどってた?」

「てか、驚きじゃねえの。かーちゃん的には、お前のおかげで最近俺もだいぶマシになってきたし、そろそろ釣り合いが取れてきたみたいな手応てごたえはあったみたいけど、もうちょっと時間がかかると思ってたんじゃねえかな。それと、たぶん嬉しすぎて、パニック気味?」

「そうだと、うれしい」

「嬉しすぎは間違いないぜ。美那ちゃん、美那ちゃん、って、うるさいくらいだったから。あっ!」

「え、どうかした?」

「いや……有里子さんのバイト行ったじゃん?」

「うん」

「その初日に、俺がやたらとお前の名前を口にしてたらしいんだ。そしたら、限りなく彼女に近い、幼馴染の親友の女の子、って、有里子さんにちょっとからかわれた」

「へぇー」

 それだけ言うと、美那がぴたっと寄り添ってくる。

 俺が肩を抱き寄せると、美那が俺の肩に頭を預けてくる。

 あまりに可愛くて、美那の髪をそっとでる。

 そしたら美那が顔を上げて、俺を見つめる。

 そして、またまた唇を重ねる。

 自然と正面を向き合って、互いを抱きしめる。

 あー、やばい、やばい。

 俺、美那を好きすぎる!

 このままだと、あれだな……。

 え? かーちゃんが出かけちゃったってことは、しばらくふたりきり?

 だーー!!

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