4—2 あれが、ない……

【前回のあらすじ】

 ふたりきりの美那の部屋でリユは遂に告白。涙を流した美那がリユに抱きついてきて、真由と付き合うと言われるのだと覚悟していたと明かす。美那は真由の恋愛相談を受けていて、リユと真由が会うことを知っていたのだ。互いの気持ちを確かめ合うと、リユは美那に唇を重ねる。




 うゎー、なんだ、この感覚!

 美那の舌が俺の口の中で暴れて、舌と舌が絡み合う。

 脳みそがしびれて、何も考えられなくなるっ!!

 美那の舌の力がゆるむと、今度はまるで引き入れられるように俺の舌が美那の口の中に入っていく。勝手に。

「んっ……」

 美那が吐息といきらす。

 ああ、やばい。美那がいとおしすぎる。

 気持ちよすぎて、やめられない。

 でもさすがにお互い息が苦しくなってきて、どちらともなく離れる。惜しみながら……。

 それでもまだ互いの腕の中。

 上気した美那が上目がちに俺を見る。

 うぅぅー、なんて可愛い表情。

「美那、好きだ」

「うん」

 ああ、ダメだ。抱きしめずにはいられない。

 俺はギュッと美那を抱きしめる。美那も俺に抱きついてくれる。

「うれしい……」

 美那が呟くように言う。

「うん。俺も。こうやってずっと抱き合っていたい」

「うん。わたしも」

「俺は、お前の笑顔を見ている時が一番幸せなんだって気がついたんだ」

「うん」

 美那の俺を抱きしめる力が強くなる。

「リユ、好き。愛してる」

「うん」

「ねえ、もっとスル?」

「え、もっと、って?」

「だから、アレ。わたしは、いいよ……」

「あ、うん。あ、でも、俺、あれ持ってない」

 やっぱちゃんと着けないとまずいよな。高2で美那を妊娠させるわけにはいかない。

「さすがにわたしも……買いに行く?」

「ああ、そうだな……」

 離れて、顔を見合わせて、笑う。

 ああ、なんて、幸せな気分。

 視線が合うと、またどちらともなく近づいて、唇を合わせる。

 今度はディープじゃないやつ。でもなんか唇を吸い合う感じ。これはこれで……。

 たぶん10秒ほどで離れると、また見つめ合う。

「じゃあ、行こうか?」と美那が言う。

「だな」

 立ち上がると、また抱き合う。

 座ってる時とはまた感じが違う。

 美那が全部俺の中にすっぽり収まる感じ。

 ああ、やっぱ、俺は美那と付き合わなきゃいけなかったんだ。俺には美那しかいないんだ。今までなにやってたんだろ、俺。


 家を出ると、自然と手をつなぐ。もちろん恋人つなぎ、だ。

 やべ。なんだ、この幸せな感じ。そして、なんというか、自然というか、当たり前というか、いつこうなってもおかしくなかった感じ。もうずぅーーーと前から用意されていたような感じ。

「なんか、あれだな。こうやって歩くの、もちろん新鮮な気分なんだけど、なんかずっと前からこうやっているみたいな気持ちもするんだ」

 左を歩く美那が俺を見る。

「そうだね。なんか、不思議だね」

 そう言って、美那はおだやかに微笑む。そして、ちょっとだけ強く手を握ってくる。

 駅の近くのドラッグストアに入る。

「あれって、どのコーナーにあるんだろ」と、俺。

「さあ? さすがにちょっときにくいよね……」

「まあ、衛生用品とか?」

「うん。その辺、行ってみよ?」

 お目当めあての商品たちはすぐに見つかった。店の奥の、たなのちょっと下の方。

 だけど結構種類がいっぱいあるじゃん。

「あ、この〇〇〇・オリジナルってやつ、ある子が彼氏が気に入って使ってるって言ってた。その子の名前は言えないけど……。なんか、ゴムくさくなくて、しかも薄くてお互いの体温を感じやすいんだって」

「それって、同じクラスのやつ?」

「それも言えない」

「そりゃそうだよな。超デリケートな個人情報だ」

「うん」

「それよりMとLがあるのか……どっちが合うんだろ。服のサイズとは違うよな?」

「そんなこと、わたしに訊かないでよ……わかんないよ」

「そうだよな。ごめん。どうしよ」

「とりあえず、両方買えば? 合わなかったら困るし……」

「あ、そうか、そうすっか」

 というわけで、両方のサイズを購入。さすがに美那はレジには一緒に並ばない。

 店を出て、また手を繋ぐ。美那のすべすべの肌が腕に触れて気持ちいい。

 遠くには積乱雲が立っているらしく、急にかげって、夕暮れが早まった。でもこの辺は雨の降りそうな気配はない。

「やっぱ、女子同士って、そういう情報交換とかするわけ?」

「まあね。でもいつもそんな話ってわけじゃないよ」

「まあ、そうだろうけどな」

「それは男子でも同じじゃないの?」

「そうだろうけど、俺はそういう話するような友だちもいないしな」

「ああ、そうか。でもそうとこも、リユらしいよね」

「俺らしい、っていうのもよくわかんないんだけどな」

「わたしはリユらしいところ、いっぱい知ってるよ」

「あ、うん。俺はどうなんだろ? お前らしいところ、いっぱい知ってるのかな?」

「知ってるに決まってんじゃん。たぶん誰よりもわたしらしいところをいっぱい知ってる」

「そうか。そうだよな」

「うん」

 なんだよ。美那、彼女になったら、めちゃ可愛いじゃん! いや、まあ、最近はちらちらと可愛いところを見せてたけどな。タンデムはリユじゃなきゃイヤ! みたいな。

「お前、ほんとはめちゃ可愛いのな、性格」

「え? そう?」

「うん。あ、別に性格が悪かったとかじゃなくて、なんかちょっと刺々とげとげしいところがあったじゃん」

「あー、それはまあ、素直になれなかったからじゃない? リユに対して」

「そうなのか。まあ、俺もシャキッとしてなかったしな……」

「そうだね。ちょっとリユに対してイラついていたかも。ほんとはもっとスゴいはずなのになんで? とか思って」

「それこそ、買いかぶりすぎなんじゃね?」

「そんなことない。リユはほんとはカッコいいやつだ、って、わたし、知ってるもん」

「なんかお前にそんなこと言われると、めちゃれる」

「今だから正直にいうけど、わたし、リユに負けないように頑張って勉強してたんだから」

「え、そうなの?」

「うん。だって、小学校に入って、リユ、ナチュラルにすごく勉強できたじゃん。もともとわたしも負けず嫌いだし、お母さんにも言われたし。そしたら、リユが停滞して、わたしがずっと良くなっちゃってさ……リユはお父さんのことがあったからだろうけど」

「まあ、それは、な。そういや、お前の負けず嫌いといえば、自分の名前が二文字でくやしいからって、俺のこと、リユって呼び始めたんじゃなかったっけ?」

「あ、それ? 実はね、ほんとは違うの」

「え、じゃ、なんで?」

「こうしてリユが手を繋いでくれるようになったから言うけど、ほんとは、わたしだけの呼び方をしたかったの……」

「え、マジ?」

 美那が恥ずかしげにうなずく。

 やば、まじカワイイ……。

 キスしてぇっ!

「美那」

「なに?」

 美那が顔を上げた瞬間、俺は美那の唇を奪う。

 ま、人通りがあるから、ほんの一瞬だけど。

 その反応がまたスッゲェ〜可愛いし!

 恥ずかしげにちょっと甘い笑みを浮かべてやがる。

 しかし、それにしても、美那がどんだけ俺のことを好きだったんだと思うと、なんか今まで悪いことをしてきたな、って反省してしまう。俺には俺の事情があったとはいえ、俺がもっと頑張ってれば、もっと早く美那も素直になれたんだろうな。でも、今俺は美那のおかげで本来の自分を取り戻しつつある。これからは美那も素直な気持ちでいられるはずだし、そうなるようにしなきゃいけない。

「美那、ありがとう」

「え、なに、急にあらたまって」

「いや、美那のおかげで、本来の自分を取り戻しつつあるな、って思って」

「ま、わたしのおかげかどうかはわからないけど、確かにリユは本来の姿になりつつある。そういう気がする」

 なんていちゃついているうちに、美那の家に着いていた。

 だけど、美那の表情がどことなく硬い。

「どうかした?」

「あ、うん。あのさ、リユと初めてする時、この家はイヤかなって思って」

「なんで?」

「だって、このままいくと、誰かの手に渡るか、取り壊されちゃうか、たぶん、どっちかだもん」

「あー、確かにな……」

「まあ、お母さんがいないから、シやすいといえば、シやすいけど……」

「あー、うーん、それはそれで、なんか園子そのこさんのいないスキに、みたいな感じもあるよな」

「とはいえ、リユの家というのも、ね?」

「まあな、かーちゃんがいるしな」

「だよね」

「あ、でも、俺はさ、すぐに美那とそういうことしなくてもイイよ。あ、もちろん、そりゃ、したいことはしたいけど……したことないし。だけど、今日、お前に告白するのだって、ほんとはもっとちゃんとデートしてムードのあるところの方がいいと思ったくらいで。ただ、まあ勢いもあって、お前の家に押しかけちゃったんだけど……」

「うん……ありがとう」

「じゃあ、とりあえずウチ来る? 俺たちが付き合うことになったってかーちゃんに報告したら、すっげー喜ぶと思うし」

「そうだね。だけどリユはほんとにそれでいいの?」

「ああ。まあ、あとは流れで……あれも買ったし」

「……うん」

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