3—55 美那に会いたい!

【前回のあらすじ】

 リユの美那への想いを悟った真由。なんとか真由を傷つけまいとするリユに対して真由は「残酷だけど、誠実で優しい」と言う。そして真由から遊歩道が終わるまで恋人つなぎをして歩いてほしいとお願いされたリユは迷った末に受け入れる。その終わりとともに真夏は終わってしまったとリユは感じる。




 特急が動き出して、香田さんの姿はすぐに見えなくなる。

 あー、なんかなぁ。やっぱり今日はキャンセルした方がよかったのかな?

 なんか結果的にはさんざん思わせ振りな態度を取っておいて、いざ香田さんから誘われたら、フったみたいな感じになっちゃったよなぁ。

 ひでえヤツなのかな、俺?

 でも俺は美那を選んだんだ。

 そうなんだよ。俺には美那しかいない。

 もうずっと前から美那とそうなるのをあきらめていたから気付かなかったんだ。本当は無理だとしても行くべきだったんじゃないのか? 自分がダメな人間だと思って、美那を避けるようにしてきたからな。

 ほんと、情けねえ。

 と、ポケットのスマホが震える。

 え、香田さんからメッセージだ……。


——>森本くん、今日はありがとう。なんか変な感じになっちゃって、ごめんね。ちょっと変に思うかもしれないけど、わたし的には楽しかったよ。無理言って手をつないだりしてもらって、ごめんね。これからも今までみたいな友だちでいてくれる?


 あー、2回も「ごめんね」とか。なんで香田さんが謝らなきゃいけないんだ? 謝るのは俺の方だろ? だけど、ちょっとポジティブな感じで安心した。

 それにしても、なんて返信しよう。難しすぎる。そう言われても仕方がないとはいえ、残酷とか言われちゃったしな。香田さん的には、慎重にも慎重に検討を重ねて、たぶん俺なら、さほどの障害もなくボーイフレンド的な感じで付き合えると考えて誘ったところが、その直前になって俺が翻意ほんいしたようなものだろうからな。


——香田さんは俺にとって数少ない友だちだから、こちらこそよろしくお願いします。それに謝るのは俺の方だし。


 いや、なんか違う。俺が謝るとかえって香田さんを傷つけそうな気がする。

 もうここはシンプルに行こう。結局何を言っても傷つけてしまいそうな気がする。


――香田さんは俺にとって数少ない友だちだから、友だちでいてくれると嬉しいです。信じてもらえないかもしれないけど、俺にとって今日は夢のような1日でした。憧れの香田さんとデートできて(俺が勝手にそう思い込んでいただけだけど)、しかも恋人つなぎで歩けて。たぶん今日のことは一生忘れないと思う。


 ありゃ? 全然シンプルじゃない……でも本音ほんねではある。問題は香田さんがどう受け取るかだよな。

 てか俺の思いがシンプルじゃないんだから、シンプルに書けるはずないか……。憧れの香田さんとのデートを前に美那を女性として愛していることに気付いて、それでいて香田さんは憧れの女子のままだったし、な。

 やっぱ香田さんとは小説つながりなんだろうな。

 そういや香田さんの小説はなんてタイトルだったっけ?

〝ヨミカキ+αプラス・アルファで作家になる!〟のサイトを開く。

 神田悠真で検索。

 そう、これ、『あおい花』だ!

 うわ、すげー、もう18話まで行ってんじゃん! しかもPV1200超えてるし。流行りのジャンルじゃないのにスゴイ。俺のとか、その10分の1くらいだもんな。まあ俺の小説はすっかりエタってるからな……現実に追い越されてしまった感タップリだし。


<——香田さんは俺にとって数少ない友だちだから、俺の方こそこれからも友だちでいてくれると嬉しいです。信じてもらえないかもしれないけど、俺にとって今日は夢のような1日でした。憧れの香田さんとデートできて(俺が勝手にそう思い込んでいただけだけど)、しかも恋人つなぎで歩けるなんて! たぶん今日のことは一生忘れないと思う。小説なんかを通して、また話をしたいです。神田悠真くんの『あおい花』、もう18話まで進んでて、しかもスゴい読まれてますね。俺もまた読ませてもらいます。


 うぇ、めちゃ長いじゃん。でもいいか。

 えい! 送信。

 即、既読がついて、数分後に返信が来た。


——>ありがとう。なんか自分と想像していたのは違う方向進んじゃったけど、森本くんとたくさん話せてよかったです。そうですね、お互いバレちゃったし、これからはもっと深く小説の話もできますよね!(こっそり) あ、それから、前に別のサイトで女子高生と自己紹介していたら、ちょっと変な人に絡まれちゃって……だから男子のフリしてます。どうか内緒にしておいてください!

<——了解です! じゃあ、また学校で。

——>じゃあ、また学校で。


 あー、なんか決着がついた感じ?

 香田さんと俺が連絡先交換して、美術館で会ったことは誰も知らないし、ふたりが同じ小説投稿サイトに投稿していることも誰も知らない。少なくとも学校で変な噂を立てられることはなさそうだ。なんとか新しい関係を築くことができればいいんだけど。

 わかぎわはかなり気まずい状況だったけど、少しはベクトルがいい方向に向いた感じ? これも香田さんの方から歩み寄りのメッセージをくれたからだよな。美那にしても、香田さんにしても、俺なんかよりずっと大人だよな……。


 美那。

 あー、なんか、急に美那に会いたくなった。

 会ってどうするのかよくわからないけど、とにかく会いたい。

 美那の顔が見たい。

 4時半か。まだサスケコートに行ける?

 でも今日はそういうんじゃないよな?

 会って、気持ちをはっきりと伝えるべきなんじゃ?

 あ、でも、そういや、美那も今日はなんか用事があるとかだったよな。

 それに気持ちを伝えるって、そう軽いことじゃないよな。

 やっぱちゃんとデート的なのに誘うべきなのか? プロポーズとかなら間違いなくそうだけど、告白の場合はどうなんだろ?

 本当はデートに誘ってそれなりの雰囲気で伝えた方がいいのかもしれないけど、俺と美那の関係だしな。それに「善は急げ」ということわざもある。

 あー、わからん。

 そうだ、帰りにそのままサプライズ的に美那の家に寄ってみるか。

 美那に好きだって伝える決意はできている。

 もしいなかったら、そのときはあらためてデートに誘うというのもありだろう。美那は変に思うかもしれないけど。

 うん、そうしよう!




【作者よりお知らせ】

 今回で(想定していたより長くなってしまった)第3章は完結です。

 次回から第4章が始まります!

 どうぞお楽しみに!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る