3—41 チャレンジングな少年
【前回のあらすじ】
祭りまで時間があるので、鎌倉・小町通りのカフェに入ったリユと美那、ルーシーの3人。そこで、ルーシーが美那の言っていたカワサキZの小説を読みたいと言い出す。美那が困った顔を見せるも、検索して読み始めるルーシー。リユは自分の小説を無心に読むその姿に嬉しさを感じる。ルーシーはこれは両片思いの話なのかとふたりに問いかける。
※今回バスケのシュート・チャレンジ・イベントでDJが登場しますが、マイクを通したアナウンスは〈 〉で
15時に始まった祭りは、割と
それが終わると、
最後は、
儀式が終わると、一般の参拝者も「茅の輪くぐり」が出来たので、俺たちも手順を教わりながら、やってみる。くぐったからといって、何かが変わった感じもしないけど。でも、まあ、なんか気が軽くなった気はする。
「ウーン、なにか、不思議な味です」
「ごめんね。あんまり好きじゃないみたいで」
「アー、そうですね、でも、いい体験です。面白いです。それより、さきほどのセレモニー——儀式ですか? 着物がとてもキレイで、素敵でした。あれは、昔の人が着ていた服でしょうか?」
「どうなんだろ。わかる、リユ?」
「いや、俺も知らない。神社の
ちょっとネットで調べてみる。
「正確かどうかわかんないけど、どうも平安時代の貴族の服装みたいだな」
「そうなんだ。ルーシー、わかる?」
「貴族は、昔の、身分の、高い、人、ですね?」
「うん、そう」と美那。
「ヘイアンジダイはなんですか?」
「なんて説明したらいいんだろ。リユ、うまく説明できる?」
「うーん、そうだな……アー、ワン・オブ・ヒストリカル・ピリオド。アバウト・ア・サウザンド・イヤー・アゴー(歴史の時期。1000年前)。ベーリー・ピースフル・タイム(とても平和な時代)。そして、
俺は、それらしい言葉を並べてみる。最後は日本語だけど。
「オー、ヒカル・ゲンジ! 昔のイケメンですね。ヤー、わかりました。すごく、昔の、服装なのですね」
おー、やった、通じたっぽい。それにしても、日本のことを英語で説明するのって、結構大変。
ふと気がつくと、隣の美那がちょっと尊敬のまなざしで見てるし。しかも、今日は一段とキレイだし。
「え、なに?」と、俺は
「え、あ、うん、リユ、すごいな、って思って」
やっぱ、そうか! ちょっと、
「そうです、リユは、すごいです。とても、わかりやすい、説明、です。お箸の、使い方も、わかりやすかったです。ペギーに、同じように、教えてみたら、ペギーも、かなり、
そう言ってルーシーが俺に笑いかける。
「あ、うん、よかった」
俺は照れまくりだ!
ぼんぼり祭りが始まる頃を
昼間の儀式の時よりもずっと人が多くなっている。
それぞれの〝ぼんぼり〟には、有名人とかが絵とか書とかを描いている。それが内側の、たぶんロウソクの光で浮かび上がる。
だけど、ルーシーと出会わなかったら、こんな祭りを知らないまま過ごしていたんだろうなと思って、なんか不思議な気持ちだ。
ただ、俺は今、ちょっとそわそわしている。
そろそろ7時。例のバスケ・シュートイベントの受付はもう始まっている。受付終了は午後8時だ。
さっきちょっと移動方法を調べたら、どうもタクシーは近距離は使えそうになくて、バスも不便そう。
「美那、ちょっといいか?」
「え、なに?」
俺は、由比ヶ浜への移動について、美那に説明する。
「あ、タクシーは使えないっぽいんだ。じゃ、もう行った方がいいね」
「ああ」
今度は美那がルーシーに伝える。
「オー、そうです、次はショット・パーティーです。行きましょう!」
ルーシーも超ノリ気だし。
鎌倉駅に戻って、レトロな江ノ電に乗る。由比ヶ浜駅で降りて、住宅地の中を歩いていく。
数分行ったところを右に曲がると、ちょっと視界が
そこは照明で明るくなっているし、DJ風のアナウンスと会場の盛り上がりの声が、少し離れたところからも聞こえてくる。
参加料無料だし、なんか音楽も鳴ってるし、引き寄せられるように人が入っていく。
「うわ、結構盛り上がってるみたいね」と美那。
「わたし、興奮、してきました」とルーシー。
会場に到着すると、30人ほどの行列ができている。
受付の近くに、昼間、ちらしをくれたおじさんがいた。
「お、君は、昼間の」
「あ、はい」
「もしかして、友達って、この
「ええ」
「じゃあ、頑張んないとな」
「はい」
受付では、簡単な自己紹介文を書かせられる。見ていると、投げる前に、DJに読まれるらしい。
適当に、「カイリーユ 、16歳。バスケ歴2ヶ月」と書く。
順番待ちの列に入ってから気づいたけど、ボールはなんと3x3用も選べるみたいだ!
見ていると、やっぱ、パーフェクトは難しいっぽい。特に3
「ねえ、わたし、あのクマのぬいぐるみが欲しい」
美那が突然、俺の
クマのぬいぐるみ?
「え、なに、賞品? どこ?」
「ほら、あそこ。受付の横」
ちらしをくれたおじさんと話したりして、気がつかなかった。
身長50cmくらいの、確かに結構可愛いクマさん。他にも五千円から一万円くらいしそうな家電とかある。
フリースローラインからの方は、身長30cmくらいのパンダとか、もうちょっと安めの家電だ。
つまり、3Pを2本はハードルが高いってこと。
「え、まじで? あれ、3Pシュート用の賞品じゃん」
「リユは、3Pで行くでしょ?」
「え、難しくね?」
「リユなら、きっとできます」とルーシー。
「ね、お願い」
「わかった」
ま、ダメ元だな。いや、そういう気構えじゃ、ダメだ。前田俊との試合だと思って、気合い入れていくか。
〈お、次は、バスケ歴10年のキノハタさん。本日、3人目の3P狙いダァ!〉
と、DJが叫ぶ。
って、まだ3人目かよ。
〈3Pはまだ、成功者ゼロだよ。さあ、キノハナさん、最初の成功者になれるかぁー?〉
DJの
なんか、美那と
「そういやさ、俺たちが出る大会って、こういうDJとか無いよな?」
「予選を勝ち上がった準決勝からは、DJ付きらしいよ」
「まじか」
「こういうのもいい練習じゃん」
「ま、そうだけど……」
いや、動画を観てても、3x3の18歳以下の全日本選手権でもDJみたいのあったからなぁ。やっぱ、あるのか。
そうこうしているうちに、俺たちの順番に。
まずは、美那からだ。
〈お次は、浴衣の美少女だ! えー、ミナ、17歳、カイリーユ ? ラブ? ん、このカイリーユってのはなんでしょうか。ま、いいか。行ってみよ。ミーナァー!〉
マジか。なんだよ、「カイリーユ 、ラブ」って。カイリーならわかるけど。
え、ちょっと待てよ。
ヤバ。俺、自分の自己紹介文にカイリーユって書いちゃったじゃん!
美那は3x3のボールを選んだ。
まずは1投目。
ゴールの正面だけ、板が敷き詰められていて、一応
一度だけボールを突くと、ちょっと投げにくそうに美那がシュートを放つ。
決まった!
会場からも拍手や歓声が上がる。
〈おー、浴衣美少女のミナちゃん、1投目は成功! フォームもきれいだぁっ!〉
DJもノリがいい。
2投目。
これも成功。
〈おお、すっげえ。浴衣で投げにくそうにしながらも、2本目も決めた! さあ、あと1本で賞品ゲットだ。3本目が決まったら、インタビューさせてもらうよぅ!〉
まじ、インタビューとかもあるのかよ……。
3投目は、リングには当たったものの、手前に弾かれる。
〈おー、残念、無念。インタビューしたかったのにぃ! って、趣味丸出しで、すみません。〉
会場から、笑いが漏れる。そして、大きな拍手。
美那も手を上げて、応える。
「ルーシー、頑張って!」
美那が戻ってきて、ルーシーに声を掛ける。
「もちろん、です」
〈続きまして、なんと、金髪の浴衣美人だぁ。ルーシーさん、アメリカ人です。ミナちゃんとカイリーユくんのともだち、ですかぁ。カイリーユくんって、誰なんでしょうか? さあ、ルーシーさんは、どんなシュートを見せてくれるのか。〉
ルーシーも気合が入っているのがわかる。
フリースローラインからの1投目。
奥側のリングに当たりながらも、ボールは中に落ちる。
〈ワァーオ、やった。1投目は決めました。こちらも、なかなかビューティフルなフォームだ。さあ、2投目は?〉
2投目は、浴衣の
〈ああ、残念。こちらもインタビューしたかったのにぃ! って、俺、英語、あんま話せないんだけど。〉
「大丈夫、です。日本語、少し話せます」と、ルーシーが反応する。
〈マジかっ。惜しかったです。でも、参加してくれて、ありがとうぅぅっつ!〉
会場から、盛大な拍手が起こる。
で、いよいよ俺の番。当然、3x3用のボールだ。
〈さあ、お次は……お、彼が噂のカイリーユくん、16歳です。
いや、DJさん。告白されてねえし、射止めてもねえし。ま、チャレンジングなのは確かだけど。
このシチュエーション、めちゃ、緊張するんだけど。
「カイリーユっ!」
美那の声援が飛んでくる。
そしたら、なんか、急に気持ちが落ち着いた。
よし、1投目。
〈おお、これはいい軌道だ。入るかぁ? 入ったぁぁ!〉
うっっし。思わず、小さくガッツポーズしてしまう。
〈やるねぇ、カイリーユくん。バスケ歴2ヶ月とかほんとかなぁ。次を入れれば、本日初の3Pの成功者だ。カイリーユくん、自信のほどは?〉
って、インタビュー、ここで入れてくんなよ、DJ。
俺は適当にサムアップで
〈お、自信、あるみたいだね。よし、じゃあ、行ってみようかぁ!〉
「カイリーユ!」
またまた、美那の声援。なんか、精一杯の声をくれてる。
ほっ、と心が落ち着く。なんだろ、これ。
俺は、サスケコートにいるみたいに、力を抜いて、スッと、黄色に青の帯と赤のラインが入ったお
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます