2—25 日米親善とハルキ・ムラカミ

 げ、ナオの戦闘力が上がってる!

 ドリブルが上手くなってるじゃん!

 まだ技までは使えないみたいけど、姿勢が低いし、ボールを力強く突いている。ボールが生き生きと弾んでいる。

 だけど俺だって負けてない。フリースタイル・バスケから盗んだトリッキーな技で、オツを翻弄。そして、華麗なレイアップシュート! もちろん、ゴーーール。

「なんだ。今のは? 何をした?」

 オツが絡んでくる。

 なんか、今日の俺、絡まれやすい?

「いや、ちょっとフリースタイル・バスケっていうのを動画で見て、練習してみたんだけど……」

「すごいじゃないか。それ、試合でも使えるんだよな?」

「たぶん」

 美那は口を挟んでこない。そうか、前田俊がらみだもんな……。

 駐車場から、8人くらいの集団がバスケコートに向かって歩いてくる。

「隣はまだ割と来たばっかりだし、俺たちが譲るか?」

 と、オツが美那に訊く。

「そうですね。戦術のことをもう一度どこかで話してから、帰りましょうか?」

「ああ、そうするか」

 ちょっと名残惜しげに、俺たちはボールを突きながら、コートを後にする。

 俺はドリブルでもう一度コートに戻って、レイアップシュート!

 よっしゃ、決まった!

 ちょっと遅れて、3人を追いかける。

 俺たちがコートを譲ったことに気づいた8人組の先頭が、オツに会釈する。やっぱ、オツがダントツ貫禄あるもんな。

 アメリカ人の3人もそれを見ている。日本人の譲り合いの精神とか感じてるのかな。

 って、それに気を取られていた俺は、突いていたボールを足に当ててしまう。

 俺のボールは、プレーを止めてゴール下にいた、そのアメリカ人たちの方に転がって行ってしまったぁ!

 やべっ。俺、英会話とか、あんま得意じゃないし。

「ソーリー」と言いながら、ボールを拾いにいく。

 ポニーテールがボールを拾ってくれ、俺を見る。

「サンキュー」

 と、俺は言ったけど、え? ボールを投げ返してくれない?

 ポニーテールは、俺のボールを突き始める。

 やべ。

 もしかして、アメリカじゃ、人のコートにボールを入れたら、挑発していることになるとか??

「それは美那からもらった、それはもう大切なボールですから、返してください」とか、例え英語で言っても、意味が通じねえだろうしな。

 って、ドリブルで向かってくるぅー。

 なんなんだよー!

 そして、ペイントエリアまで踏み込んでいた俺の後ろに回り込む。

 でもって、ポニーテールはドリブル技で俺を挑発し始める。

 でも、顔は意外とにこやかだったりする。

 なんなんだよ、このシチュエーションは!

 ポニーテールが、すっと横に動くと、つい、俺は反応してしまったぁ。

 そして、ポニーテールは俺をもて遊ぶようにくるりと向きを変えて、反対側に加速する。

 だめだ、体が勝手に反応してしまう。つい、ディフェンスしてしまうぅー。

 ポニーテールが回転して、ジャンプしながら、シュートを放つ。

 俺はつい、ジャンプしながら手を伸ばして、ブロックしてしまうっ。

 ボールに手を当てる。

 ょっしゃー! じゃねえか……。

 ボールは残念ながら、男たちの方に転がっていく。

 あーあ。

 サラサラ金髪男がそれを拾う。

 すると、普通に歩いて、ボールを俺に渡してくれる。

「サ、サンキュウ」

「ドンチュ、プレー、ウィズ、アス?(一緒にプレーしないか?)」

「へ?」

「ユアチーム、プレイズ、ウェル。ウイワナ、プレイアゲームウィズユー(君たちのチームはうまいね。一緒にゲームを楽しみたいんだ)」

 なんか、俺たちとプレーしたいとか言ってる?

 俺が答えずに突っ立てると、例の白いワンピースの子が立ち上がって、近づいてきた。

「この人たち、あなたの、チームと、一緒に、ゲームしたい、と言ってます」

「へ?」

「え? あなた、日本語、わからないんですか?」

「あ、え、ああ、わかります。俺たちとプレーしたいってこと?」

 この子、日本語が話せるのか……。

「はい。いい、チームだから、試合を、したい、みたいです」

 ポニーテールがその子に話しかけて、何かをやりとりしている。

「あなたたち、スリー・エックス・スリーのチームですよね? ボールが、、だから、そう思っているそうです。違いますか?」

「あ、ああ、そうです。スリー・エックス・スリーのチームです」

「この3人もスリー・エックス・スリーでプレーします。コートを、譲るために、帰るなら、一緒にやりましょう、と言ってます」

「オー、リアリィ?」

 なぜか、英語で言ってしまう。

 この場合はなんて言うんだ?

 焦ると簡単な言葉も出てこなくなる。

 ホールド・オン・プリーズ? それは電話の時か。ウエイト・ア・モーメント、だっけ? だな。

「ウェイト・ア・モーメント、プリーズ?」

「オー、ヤァー」

 ワンピースの子が微笑む。笑うと結構可愛い。

「おーい、美那ぁー!」

 駐車場に入りかけていた3人が振り返る。

 美那が小走りにやってくる。

「どうしたの?」

「なんか、この人たち、俺たちと試合したいらしい。コートを譲るために帰るなら、一緒にやらないか、って」

「どう、しますか?」

 と、ワンピースの子が訊く。

「リユ……」

「え、まずい?」

「違うよ。あんたって、やっぱりなんかってるよね……」

「じゃあ、やるってことか?」

「もちろんよ!」

 オツさんとナオさんも戻ってきた。

「先輩、この人たちが私たちとゲームしたいそうです。もちろんやりますよね?」

「ほんとか? プレーを見てて、是非やってみたいと思ってたんだ」

「よかった、です」

 ワンピースの子が、ポニーテールに伝える。

「ワォー、グレイト! よろしく、おねがい、します」

 ポニーテールが笑顔で片言の日本語を言うと、少し離れて見ていた男2人もやってきた。

「アイム、ペギー。よろしく、ね」

 続けて、赤毛のヒゲもじゃが、「アイム、ジャック。」と、名乗る。

「ボクハ、テッド、デス。アイム、ヒズ、ブラザー。よろしく、、します」

 サラサラ金髪はイケメンな笑顔で言うと、小さく頭を下げる。

 最後はワンピースの子。

「わたしは、ルーシーです。日本の、文化が、好きで、日本語、少し、話せます」

「アイム、ミナ。アイアム、ア・キャプテン、オブ・ザ・チーム(わたしはミナ。チームのキャプテンです)」

 美那が堂々と名乗る。

「マイネームイズ、コウタ。コールミー、オツ」

 オツはちょっと照れ気味。

「アイム、ナオ。アイワズア、バレーボールプレイヤー、イン・ハイスクール。アフターエンターカレッジ、イン・ディス・エイプリル、アイハブスターテッド、トゥープレイ、バスケットボール(わたしはナオ。高校ではバレーボールの選手でした。この4月に大学に入った後、バスケットボールを始めました)」

 うわ、ナオさん、結構、英語話せるんだ。

「アイム、リユ。アー、アイアム、ア、ビギナーオブバスケットボール、トゥー。アンド、アイアム、ア・ライダー。ハイスクール・スチューデント。ミナ・アンド・アイ、ゴートゥー・ザ・セイム・ハイスクール(僕はリユ。僕もバスケットボールの初心者です。そしてライダーです。高校生。ミナと僕は同じ高校の通っています)」

 とりあえず、負けじと、俺も思いつくことを並べてみた。

 美那が俺を見て、笑ってやがる。でもイヤな笑い方じゃねえな。

「アー・ユー・リアリィ・ア・ビギナー?(あなた、本当に初心者なの?)」

 ポニーテールのペギーが俺に疑いの目を向ける。

 うー、またか。仕方ねえだろ、上手くなっちゃたんだからよ!

「イエス! アイ・スターテド・イン・ジュン、ディス・イヤー(おう! 今年の6月から始めたんだ)」

 ペギーは話が噛み合っていないと思ったのか、ルーシーに通訳を頼んだみたいだ。

「彼女は、あなたが、ビギナー、というのは、本当か、と聞いています。自分の、攻撃を、止めた、とても、そうは、思えない、そうです」

「ほんとうに、6月からバスケットボールを始めたんだけど……」

「そう、なんですか? 私から、見ても、とても、上手に、見えました。タレントが、あるのですね」

「え? いや、そんなこともないと思うけど」

 ルーシーがペギーに通訳する。

 ペギーは目を見開いて、肩をすくめる。

「ソー、ホワッツユアチームズ、ネーム?(チームの名前はなんていうの?)」

 と、ペギーが美那に訊く。

「アー、ゼット・フォー」

「ゼッド、フォー? Zed for?」

「ノー、アー……」

 美那が困っていると、ナオさんがバッグから俺たちのユニフォームを取り出して、広げて見せる。

「ゥワオー、クール・ユニフォーム! ズィー・フォァー(わー、カッコいいユニフォームじゃない。Z―Fourね)」

「イェス! ズィー・フォー!」

 美那とナオが声を揃えて言う。

 やっぱ、英語だと、ズィーって発音するっぽいな……。

 で、美那もバッグからユニフォームを取り出し、オツも取り出し、え、俺は?

 持ってきてねぇー!

 あー……。

 すると、美那が自分のユニフォームを投げてよこす。

 じゃあ、お前はどうすんだよ。

 って、もう一枚取り出した。

 あ、これ、連番バージョンの16番Riyuじゃん!

 ペギーがルーシーにまた何か言っている。

「ピックアップゲームを、しようと、思っていましたが、チームで、戦いましょう、と言っています」

「ピックアップゲーム?」

 と、俺が訊く。

「アー、つまり、その場所に、集まった、人たちで、適当に、チームを、作って、ゲームを、するのです。でも、あなたたちは、ひとつの、チームなので、わたしたちの、チームと、対決しましょう」

「へー、そういうのがあるんだ」

「はい。アメリカの、ストリート・バスケットボール、では、よくやる、ゲームです」

「それって、リユが松本でやったやつじゃない?」と、美那。

「あー、そうか! アイ・ハブ・ダン・イト・ビフォー」

 で、俺たちはTシャツの上から、Z―Fourのユニフォームを着る。

「ルーシー?」

 と、美那が話しかける。

「はい、なんでしょう?」

「わたしたちは、4人で交代しながら、アー、メンバーチェンジ? しながら、ゲームをしたいけど、あなたはプレーしないみたいから3人だけですけど、それでもオーケーですか?」

 ルーシーがペギーに訊いてくれる。

「オー、ノー・プロブレム! ドン・ケア・アバウティト」

 と、ペギーが美那に直接言う。

「問題ない、ので、気になさらないで、ください、ということです」

「ありがとう、ルーシー」

「どう、いたしまして」

「もしかして、ルーシーも、ハイスクール・スチューデント?」

「イェス。はい、そうです」

 ルーシーは、にこり、と美那に笑いかける。

「ペギーはお姉さんなの?」

「そうです。姉です。ジャックは姉の恋人で、テッドはジャックの弟です。ジャックとテッドのアンクルが、横須賀のベースで働いていて、夏休み、みんなで、遊びにきました」

「日本の文化が好きって言ってたけど、アニメとか?」

「アニメも、見ますけど、日本の、文学が、好きです。ハルキ・ムラカミ、とか」

「へー。リユ、文学なら、あんたの分野でしょ?」

「まあ、それほどでもないけど。村上春樹はノーベル文学賞候補とか言われてるもんな」

「イェス。あなた、リユ、は、どんな、作者が、好き、ですか?」

「ロバート・B・パーカーは、知ってる?」

「アー、はい、名前は、知ってます。少し、前の、探偵、小説の、作家、ですね?」

「イエス。僕の母親が好きなので、僕も読むようになりました。村上春樹も何冊か読んだことがあって、割と好きです」

 ルーシーが嬉しそうに微笑む。

「フィッチ、アー、ハルキの、どの作品が、好き、ですか?」

「そうだなぁ、羊をめぐる冒険と、世界の終わりとハードボイルドワンダーランド、かな? あ、日本語のタイトルだけど、わかりますか?」

「はい。 "A Wild Sheep Chase" and "Hard-Boild Wonderland and The End of the World"、ですね。初期の、頃の、ワーク、ですね。わたしも、好きです。ふたつとも、少し、探偵小説に、似ていますね」

「ああ、確かに!」

「ミナ、あなたは、どんな、本が、好きですか?」

「わたしは……あまり小説は読まないです。あ、でも最近読んで面白かったのは……」

 そこで言葉を止めて、美那は俺を見る。

 まさか、お前……。

「覆面作家の、カワサキ・ゼット、という人の小説ですね!」

 やっぱり……。

「カワサキ、ゼッド? フクメン、作家? イケメン?」

「ノー、フクメン。覆面、作家、というのは、自分の正体を隠して、作品を発表している小説家です」

「ああ。わかります。でも、その人は、知りません」

「そうでしょうね。まだ、無名の、アー、、イズ、ノット、ア、フェイマス、ライター」

「そう、なん、ですか……」

 ルーシーはたぶん、あまり小説を読まないはずの美那が、なんでそんな無名の覆面作家の小説を読んでいるのかを理解できないのだろう。

 ま、そりゃそうだろうな。

「おい、美那、リユ、そろそろ始めるぞ」

 と、オツが声をかけてくる。

「ミナ、リユ、もし、よかったら、あとで、e-mail address を教えて、ください。日本に来て、初めて、ともだちに、なれそうな人に、会うことができました」

「もちろん! ね、リユ?」

「ああ。よろこんで」

「ペギーは、バスケットボール、のことに、なると、待てないです」

「うん。じゃあ、あとでね、ルーシー」

「はい。ありがとう、ございます、ミナ」

 みんなの方に歩きながら、美那が俺に肩をぶつけてくる。

「やっぱ、読んでやがったか」

「そりゃ、読むよ。わざわざ聞き出したんだから」

 美那はニヤついている。

 でも、まあ、悪い感じじゃないな。少なくともバカにした感じじゃない。

「これって、約束を破ったことになるの?」

「どこまでの約束だったか、よく覚えてねえよ」

「なぁーんだ。でも、感想は言わないよ」

「まあ、それは確かに約束したな」

 今となっては、ほんとは、聞きたいけど……。

 5人に合流すると、ペギーが俺と美那にニコリとする。

「3x3の公式ルールでやることになった。ボールは俺たちのを使う。ショットクロックは、スマホのアプリがあるそうだ。さっき見せてもらった。なんでも友達がアプリを作ったくれたらしい。な、ナオ?」

「はい。すごいよね」

 と、ナオさんが美那に言う。

「へぇー、いいな。わたしも探してみたけど、5人制用のアプリしかなかった」

「ヘイ、ミナ! レッツスタート、ア・ゲーム!」

 美那に声をかけたペギーの手のひらには100円玉が載っている。

「ア・フローラル・パターン・サイド、イズ、ヘッズ。ディ・アザー・サイド・イズ・テイル。オーケー?」

 ナオさんが、「花の絵の方が表でヘッズ、数字の方が裏でテイル、って言うみたい」と助けてくれる。

「オーケー」

「グッド。ヘッズ・オア・テイル?(表? それとも裏?)」

「うーん、ヘッズ!」

 ペギーがピンとコインを指でげる。

「イェス、ヘッズ。ソー、ユー・ウィル・オフェンス・ファースト(うん、表だわ。じゃあ、あなたたちの攻撃からね)」


 ※英語の部分はかなり適当です。すみません。

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