・第五夜

 儂も豊臣秀吉として天下を取ってから随分と経った。もう結構な歳じゃ。木綿のように丈夫と言われた昔のようには流石にいかぬ。


 按摩や鍼、灸や薬、体に気を遣う為、医者にもかからねばならぬ。


 じゃが、今日に限ってはそれが嬉しい。どういう訳かお市様が医者としてやってきたのじゃ。何たる役得! 挨拶に頭を下げたお市様が今にも顔を上げ……


「で、あるか?」


 え。顔を下げたままの医者のその声はお市様ではなく男の声でというかこの声は。


「お市が何故か医者をしておる。そんな事がありうると何故思える?」


 でーっ!? そそそその声その顔は殿!? あわわ、信長様が何故ここに!?


「夢だからに決まっておろう。大体お市は死んでおろうが、勝家諸共」


 そ、そうであった。だが夢だったら尚更会えぬお市様に会いたいではないか! 嫌じゃ嫌じゃ、お市様をもう一度見るまで儂は目覚めとうない!


「余の顔では不服か?」


 不服というか怖いのじゃ! だって……


「生意気を言うようになったのう猿。金柑頭みつひでを討ったついでに余の子供達から天下をちょろまかした故か?」


 あーっ、やっぱりそれ言われたぁ!? それを言われたくなかったんでござる!


「急に昔の口調に戻りおって、あざといわ! 相も変わらず人誑しよのう」


 てへぺろにござりまする。


「萌えんわうつけぇ!」


 あっはいすいませんでござる。


「ともあれ、今晩の夢にお市は出さん。とっとと目を覚ますがよいぞ、どりむりいぱあ殿、これへ」


 殿が手を叩くと女性にょしょうが現れた。日月、昼空の青と夜空の黒、時の流れを表すのか?そんな見事な打掛を纏った……何とも驚くべき、南蛮人にも居らぬ七色の髪の、途方も無く美しい女じゃ。天女様か。


「お目覚めを告げに参りました、関白殿下。残念ながら、夢は終わります」


 い、いや結構結構! お市様では御座らぬがそれ以上に眼福!


「お市に言ってやろ」

「言ってやりませ」


 あ゛ーーっ!?


 「それでは、夢は終わりで御座います」


 そうか、夢は終わるか。夢は何時か終わるのじゃなあ。一つ句を思いついたわ。

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