第27話 しあわせ*ジュリア視点


 お父様とお母様からお許しをもらって、自分で選んでお買い物ができるようになった時、すごくすごく嬉しかった。たぶん13歳くらいの時かな。


 ノーランド家は裕福なお家だけど、わがまますぎる令嬢にならないようにってことで、使っていいお金は月ごとに決められた。

 だからアリーも私も、決められたお金の中で何が欲しいのか一生懸命選んでた。金額は他のおうちのお小遣いよりも多いかもしれないけど、うちにくる商人達の品物はみんなすごく高い。だから月に何個も何個も買えるわけじゃなかった。


 初めてお買い物をした時、私はガラス製の大きな蛙の置物を買った。自分のお小遣いで、自分で選んだもの。それが部屋に飾られた時の高揚感はいまでも覚えてる。結局その蛙は、私がダンス中にぶつかって壊れちゃったんだけど‥。


 アリーははじめてのお買い物の時、何も買わなかった。使えるお金を貯めたかったんだって。だからアリーは次の月に2つ買ったの。「そういう使い方もできるんだ‥」ってすごくびっくりした。やっぱりアリーは天才。


 その時アリーが買ったのは、可愛らしい葉と共に白い花々や白い宝石が一面に施されたリース2つ。


「‥‥お姉様のお部屋、センスが悪すぎですわ!これでも飾って少しは運気を上げたらどうかしら?要らないならドブに捨てて貰って結構よ!!」


 そう言って渡されたリース。


「‥‥え?」


 思わず声が揺れた。だって思いもしなかったの。アリーからプレゼントを貰えるだなんて。


 アリーは顔を真っ赤にして部屋から出て行った。

だけどスーザンが去り際にコソッと教えてくれたの。


「‥このリース、幸せが永遠に続くようにって意味らしいんですよ」


 私は2人がいなくなったあと、だばーっと涙が溢れて、鼻水もびろんと伸びて大変だった。侍女たちが慌ててたけど、私は心が温かくなって声を上げて泣いた。


 アリーとお揃い。永遠の幸せのリース。アリーがくれたリース。見るたびににやけて、見るたびに幸せになる。


 お花は加工がされていて枯れないの。いまもお部屋に飾ってあるんだ。


 だから私はその時から、どうやったらこの気持ちがお返しできるかずっと考えてた。


 前に、アリーに幸せになる鼻毛抜きをプレゼントしたらその場で捨てられちゃったから、どんなプレゼントだったら喜んでくれるかすごく悩んでるの。


 クラリッサ嬢は「幸せな気持ちになれる枕」や「幸せになれる指圧棒」とか、「幸せに満ち溢れる発毛剤」を紹介してくれた。他にもたくさん幸せになれるものを、いっぱい。

 でもアリーがその場に駆け付けて、クラリッサ嬢に詳しく聞くと、アリーはガラクタだと言って毎回怒る。


 私はアリーに、あの時の幸せいっぱいになった気持ちをお返ししたい。

だけど私はアリーを幸せにできるものを探すのが下手くそなの。


 そうだ‥、あのヘアブラシもそう。あれはーーーーー




「ジュリア様!!お目覚めですか!!」


 視界がぼやけてよく見えないけど、侍女たちが泣いていた。

私も寝ながら泣いていたみたい。ぼろぼろと涙が頬を伝ってる。


「‥‥‥アリー」


 そう言って立ち上がると、みんな私を支えてくれた。

一緒にアリーの部屋へ向かう。


 アリーの部屋には沢山の人がいた。

レックス様やデリック男爵やクラリッサ嬢もいた。牧師さんや、全身黒装束の怪しげな人もいた。


「ジュリア嬢!!」


 元気な声が聞こえてびっくりした。マティアス殿下だ。どうしているんだろう‥。私は目覚めの“鍵”を思い出したから、少し冷静になれてた。


「‥マティアス殿下、どうしてここへ?」


「たくさん泣いたんだな、可哀想に‥。あの例のヘアブラシの原産国が隣国だったらしくてな。俺が留学していた国だったから何か知らないかって呼ばれたんだよ、レックスに」


「そ、そうだったんですね」


 レックス様はアリーを切ない顔で見てた。

よかった‥レックス様、アリーのこと好きになってくれたのかな。


「マティアス殿下が、わざわざお越しにならなくても‥クラリッサ嬢はぜんぶ知ってますよ」


 私がそう言うと、クラリッサ嬢は目を見開いた。

あれ?なんだろう、この空気‥


「クラリッサ嬢が何も知らないっていうから、マティアス殿下を呼んだんです」


 レックス様が静かに声を落とした。その声には、いつものような柔らかさは感じられなくて‥あぁ、怒ってるんだなぁってしみじみ思った。


「それは、どうしてでしょう‥?

クラリッサ嬢から私、説明を聞きました。‥幸せを、見つけられる素敵な商品なんですもんね。よかった、思い出して‥。クラリッサ嬢は、どうして知らないと言ったんですか?これ買ったの、つい最近なのに‥」


 何故かわからなくて首を傾げると、クラリッサ嬢の顔がみるみる青くなっていった。‥どうしたのかな?


「大方、取引を中断させようとするアリー様に良い感情を抱いてなかったのでしょう。だから知らないふりを貫いた。違いますか?」


 スーザンがクラリッサ嬢に詰め寄った。

ど、どうしたんだろう‥空気が怖いよ‥。

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