第14話 男子トーク*レックス視点
俺の隣にいるジュリアさんはずっと不安気で、落ち着かない様子だった。アレクサンドラ嬢と一緒に見たいんだよね。だからエスコートする時も少し戸惑ってしまったけど、アレクサンドラ嬢にああ言われたら断るわけにもいかない。
気が利かないわね!とでも言いたそうな勢いだったけど、ジュリアさんがこうなるのは見え見えだったから、気を利かせて離れて歩いてたんだけどなーと心の中で苦笑いだ。
アレクサンドラ嬢の一言で俺たちはそれぞれペアになって動いていたのに、ジュリアさんは元気がないしアレクサンドラ嬢はジュリアさんのことばっかり見ているし。反応的にアレクサンドラ嬢はグレンに随分と好印象っぽかったのに、ジュリアさんには勝てないんだなー。
本人はクールにジュリアさんを連れ出したつもりなんだろうけど‥顔を真っ赤にして上目遣いしちゃって。いや、見上げてる‥というか本人的には睨みあげてるって感じなんだろうけど。そもそも別に俺睨まれることしてない筈なんだけど。先程のアレクサンドラ嬢の必死さが面白い程にグッときている。‥なんていうのかな。可愛い小動物がシャーー!っと威嚇してるっていうか‥まぁそんな感じ。
「姉妹仲がいいことは素晴らしいな」
グレンの言葉に頷いた。ジュリアさんとアレクサンドラ嬢は俺たちのところにまだ戻ってきそうもない。
「仲良いけど特殊だよね」
もじもじした姉に、ツンケンした妹。
「ああ。本当昔から変わらないなー」
グレンがケロッとそう言ったので俺はグレンを見た。
「昔?」
「ああ。俺は彼女たちの兄とアカデミー時代に同級生だったから、昔ノーランド家の屋敷に遊びに行ったことがあるんだ」
あぁ。なるほど。
この国では7歳から18歳までの男児がアカデミーという寄宿学校で様々な学問を学ぶ。ちなみに俺は17歳だけど飛び級で卒業済みだ。姉妹の兄の名はギル・ノーランド。無愛想でクールな兄だ。
「そうだったんだ」
「ああ。随分昔だし俺も今とは全然違うから、姉妹は俺のこと覚えていないと思うがな。お友達の令嬢たちを呼んで、テラスでお茶会みたいなのをやっててな」
「ほう」
「具合が悪かったのか真っ青な顔したジュリア嬢がその場で戻してしまったんだ。俺とギルはその様子をたまたま窓から見てて‥」
「それはそれは」
恐らくかなり大惨事だろう。ジュリアさん、トラウマになっているんじゃないか‥?
「令嬢たちはジュリア嬢がその場からいなくなったあとも暫くなんやかんや騒いでいたんだが、アレクサンドラ嬢が突然立ち上がって‥」
「‥立ち上がって?」
「ジュリア嬢を悪く言っていた令嬢たち全員の顔面にケーキやらゼリーやらをぶち撒けていってな‥。侍女たちも止められない程の勢いで、その‥フットワークも軽いうえに命中率もよくて‥」
「‥‥ほう」
「あら貴女たちもお戻しになったんですのー?!オホホホって。まぁみんなクリームやらスポンジやらゼリーやらで凄まじいことになってて」
「‥怖」
「令嬢たちの家が皆ノーランド家よりも立場が低かったり、ノーランド侯爵が頭を下げたりで‥まぁ子どもの悪ふざけってことで処理されたらしいが。当時まだ6歳くらいだっただろうしな‥」
「‥今と全然変わらないんだな‥」
「ああ‥」
そしてふと思う。アレクサンドラ嬢はそうやって敵を作り上げてきたのではないかと。‥だから社交会でアレクサンドラ嬢を悪く言う声が聞こえてくるんだろうな、と。
絵画はどれも素晴らしく、俺たちはじっくりと鑑賞を楽しんだ。ちらりと姉妹を見て、ふっと笑う。ジュリアさんがずっと幸せそうな笑顔を浮かべているし、アレクサンドラ嬢は扇子で口元を隠し続けている。たぶんあの扇子照れ隠しだろ?
「ジュリア嬢を泣かせたらアレクサンドラ嬢に刺されそうだな」
グレンが真面目な顔をして言うから、俺は小さく笑った。
「刺されないように善処するよ‥」
いくら政略結婚とはいえ、ずっと眉を下げられたままじゃ困る。こうやって何度も会って、ジュリアさんに懐いてもらえるようにしないと‥。
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