自由な道
@TUMPM
第1話 迷路ー暗闇
息つまる状況をこれまで経験したことは多くはない。
広場を抜け、狭く、暗い路地をいくら走っても後ろから迫る足音がなり止む気配は無く、自分の足を止めた瞬間そこで終わってしまう。
あの言葉は、きっとこんな時に使うのだろう。
必死に酸素を体に循環させ、ただいつか終わる時までひたすら逃げる。
たとえ自分が捕まってしまうとしても。
(しまった!)
己の運が尽きたことを示すように、正面には越えることが不可能と悟るほどの壁がたっていた。
いや、この地域をよく知らない自分がここまで逃げれただけでも十分運が良かったと言える。
止まってはいけない足ももう動かす事はできなくなっていた。肩で息を吐きながら振り向くことをせずに立っていると、背後からの足音も落ち着いてくる。
「手こずらせやがって、もうお前は終わりだ」
背後からそんな声が聞こえる。カチャカチャとなる音は恐らく拳銃。複数構えているのかは分からないが、そんなことは関係がない。
ホーホー 鳥の声がただこの夜を楽しむように聞こえる。
あと数秒で彼らが引き金を弾いてそこで僕は絶命するだろう。
悔いはないといったら嘘だが、今回の目標は達成したし別にいいとも思える。
呼吸も落ち着き目を瞑った。
「こんばんは。今日の月夜はこんなにも輝いているのにどうしてあなたの心は暗いのですか?」
突如、聞き覚えの無い言葉。しかしこの場には相応しくない飄々とした男の声が聞こえる。
「え!?」
思わず驚きの声がでる。何故ならその声は、頭上から聞こえたのだから。サッと顔をあげるとそこには一人の男が浮いていた。
訳が分からず見ていると、
「う、撃て!」
背後から明らかに動揺している声が聞こえた。
拳銃の発砲音が辺りを染める。
撃たれたのは、頭上に浮いた男だった。男がよろける。が、すぐに立ち直ると
「私の自由の邪魔をするな」
身の毛もよだつ怒気を放った声。先程と雰囲気とは全く違う。
パチン。彼が指を鳴らす素振りをする。
背後から何かが倒れた音がした。恐る恐る男を見るのを止め振り向く。
そこには10名ほどの屈強な男達が地面に倒れていた。
唖然として立ち竦んでいると、目の前に頭上にいたはずの男が降りてくる。
年齢は20代頃の若く整った顔をした男は、こちらをじっと見つめていた。
(夢でも見ているのだろうか?)
状況の理解が追いつかずについ現実逃避へ走ってしまう。
「**********?おっとすまん。確かヨーロッパならこっちの方だったな。」
男は、何事も無かったかのように笑顔で喋り始める。
「では、少年。君の抱えているその闇はなんだ?」
訳の分からない事を言いだした。何を言っているか分からない。そう言おうとしたが口が動かない。緊張の解けたその体は、すでに限界を迎えていたのだ。そのまま僕の視界が回り始め、やがて暗転した。
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