第57話 最終回 この海を護るもの

最終回 

この海を護るもの



 イリーゼは64門の戦列艦を仕留めるようだ。


 蛇行していたスループ船が、戦列艦の前から横に逸れた時、“アーサー王の復讐”号の船首のダブルカノン砲二門が火を吹いた。


 なんと、ダブルカノン砲に散弾のぶどう弾なのか?

「まるで、拡散波○砲だ」

「ミーナちゃん、それはアンドロメダ?」


 すると、散弾を喰らった64門鑑は、皮を剥いた果物の様に、装甲が剥がれてしまった。


 貫通力は無いが、これは、もう、この船は使えないでは!


 クルーたちがボートの用意をしているのだ。もう戦闘不能ということだ。


 さて、私たちは100門鑑を沈めるつもりだ。

 そして、あの船のクルーは、キャリアの浅い者が多いという事が、理解できた。

 大佐が死んで艦長がいないのだろう。

 チャンスだ!


「攻撃力の弱い艦尾に付けろ。船側はハリネズミだ。気をつけて」


 そして、もたつく100門鑑の背後を取ると、

「突っ込め! 乗り込むぞ」と、船首を敵艦のケツに突っ込んだ! 


 それは、まるで敵艦が、飛び跳ねるようだった。


 船首を伝い、ある者はロープを投げ入れ、スペインご自慢の戦列艦へ乗り込んだ。

 そして、カノン砲弾をすべて頂いたのだ。


 略奪が終わると、船首を抜き、後退する。

 そしてトドメは、

「ダブルカノン砲、撃てぇー」

 ドオオオォーーーン!


 敵の艦尾は砕け散り、火を吹いている。


 これによって、長い戦いに終止符を打つことが出来たのだ。


 そして、あの“誰それのリベンジ”号と共にドーバー港へ帰還する。

 あぁ、“アーサー王の復讐”号か!

 変わった名前の船だな。


 カランカランカラン!と入港の鐘がなる。


 港には、ジャスミンの父が迎えに来ていた。

「おーい!」

「父さん! ただいま」

「また、こっぴどく壊したな」


 ジャスミン親子を見て、マリーがソワソワしている。

 父親を探しているのだろう。

 突堤には来ていないようだ。


 海軍は退役出来たのだろうか?

 無事だろうか?


 しかし、どこにもいないようだ。

 

 いや!


 突堤ではなく、アインス商会のスループ船から降りてきたのは、マリーの父親だった。

「お父さん!」

「マリー!」

 なんと先のスペイン戦列艦との戦いにいたのだな。


「なあ、クリスちぃ。皆、帰るべき所に帰っていくよなぁ」

「うん、そうね」

「私は、例の『海の孤児院』と『海の保険』とやらをやってみるよ」

「海賊船を孤児院にするの?」

「それも良いな」

「今回の旅の収益で商会を作るのは、どう?」

「それ良いね。ドーバーにロッテルダムに支店を作るか?」

「船の修理が終わったら、ロッテルダムに店舗を探しに行きましょうよ」

「よし、そうしよう」


 保険で得た収益は孤児院へ回す、そんな感じかな。

 上手く行けば、良いけど。


 すると!


“じゃら~ん”とギターの音が!

「孤児院の音楽の先生は、ワタクシに、お任せ下さいませ」

「あっ! 頼むよ。アン」


 ロッテルダムのアインス商会の支店に行くと、なんと、ベネディクタがいた。

「ベネ、ここで何をしている?」

「み、ミー…… どちら様でしたか? おほほ」

「ふられたんだな」

「な、何をおっしゃいます……」と泣き出すベネディクタ。


 すると、イリーゼが奥から出て来て、

「ああ、追い出されたんだよ。インドから」と、説明をしてくれた。

 バーナーからは、相手にされなかった様だ。

 そして、陸路でオスマン帝国を通り、先に帰ってきたとのことだ。

 笑うわ!

 もっと、泣け!

 ガハハ!


 さて、その後、ヴィルヘルミーナたちが始めた、ジパングの海賊をヒントにした孤児院のための『海の保険』事業は、次の世紀、つまり18世紀に入り、海賊には労災保険があるのは当たり前となった。


 そして、20世紀になり、海賊に限らず、海に出る者たちに保険をかけるのが、あたり前の時代が来る。


 労災保険に医療保険に老齢年金や遺族年金などを一括する保険。※1

 その保険の名前を、“船員保険”という。

 大海原をかける者たちを守るための保険なのである。

 その保険は、ある貴族令嬢が命を燃やして、そのキッカケを作ったなど、誰も知るまい。



 そして、時は17世紀後半!


 それは、海賊が最も輝いていた時代!

 カリブの海賊こと、バッカニアの時代が始まろうとしていた。


 それを見守る一人の老婆が言った。


 私の胸に宿る『真紅の火』が灯る限り、この海を守る者となろう。

 そう、炭が燃え尽きるまで、『真紅の火』を灯すように。


 私は、ヴィルヘルミーナ。

 女海賊団のキャプテン、キーナ・コスペルなのだから。



第二章 完


『お転婆令嬢、海賊になる』

 ヴィルヘルミーナ二世のお話は、ここまでになります。

 お付き合い頂きまして、有難うございました。




※1 今、日本の船員保険は、年金は厚生年金保険へ統合された。

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