第56話 アーサー王の復讐

第四十四話

アーサー王の復讐


 白いガレオン船は、思っていた。

 私を傷つけた!

 許すまじ!



***



 アガーテの前には、数人の海兵がいた。

 剣の勝負では、海兵では相手にならなかった。

 しかし、後ろの兵に銃や弓を持たれると話が変わってくる。


 私たちも、負けじと弓などで後ろの兵を威嚇していた。


「もたもたするな。相手は少数だ」

「ハッ、大佐ッ」


 と言っているところに、被弾したロイヤルマストの破片が落ちてきた。


 なんと、次の瞬間、大佐と呼ばれる男の胸は、マストの破片が貫通していた。


 誰もが目を見開いた!

 その時、アガーテが踊り出た。

 また、海兵が駆られたのだ。


「おい、大佐が殺られた」

 敵のトップをやったのか?

 なら退却するのか?



 いや、大佐の代わりは、いくらでもいるようだ。

 64門鑑から、誰か来るようだ。

「阻止しろ」というも、敵もそうはさせまいとする。


 少しずつ、削られていく!

 そんな感じだ。


「中佐、こちらへ」


 その時、私はもう、気がおかしくなっていたのだろうか?


 はるか彼方から、大砲の音が聞こえたような気がした。

“ドォーン”と、カルバリン砲の音がしたような。

 空耳だろう。


 また、“ドォーン”としたような。

 苦笑するしかないな。

 先程まで、目の前で大砲を打ちまくっていたのだ。耳に音がごベリ付いたのだろう。


 すると、隣の64門鑑のロイヤルマストが見張台ごと、吹っ飛んだ。

「はぁ? なんだ?」


“ドォーン”

“ドォーン”

 また、

“ドォーン” と。


 中佐は自艦に戻って行くのを、海兵たちが見て、慌てている。

「俺たち、どうすれば?」


 なので、

「お前らも、戻りやがれ!」と蹴り飛ばしてやったわ!

 ガハハ!


 遥か彼方から、ガレオン船と小型船がこちらへ向かってくるようだ。


 スペイン海軍の戦列艦たちが動き出す。


「一体、誰が?」

「キャプテン、あれはイリーゼ支店長の船です。“アーサー王の復讐”号です」


 はあ?

 “アーサー王の復讐”号って、イリーゼさん、貴女は誰の味方なんだよ!


 しかし、ガレオン船はその“アーサー王の復讐”号しかなく、後はスループ船のように見える。

 戦列艦相手に大丈夫なのだろうか?


 しかし、スペイン海軍とは、学習しないのだな。

 いつも、カルバリン砲によるアウトレンジ攻撃で撃たれている。


 大口径のカノン砲しか積んではイケないのだろうか?

 そして、カノン砲の射程に入る頃には、帆がボロけている。

 当然、速度は落ちる。


 そこに、小型で高速のスループ船が一斉に散らばった。


 なんと、一隻のスループ船が、戦列艦の前を蛇行している。

 さらに、戦列艦の速度が落ち、他のスループ船の砲撃を食らっているでは!


 他のスループ船は、時計回りと時計回りと反対周りの二隻の船が砲撃している。


 たった10門しか積んでいない小型船に戦列艦が四苦八苦している。


 やがて、スループ船は数を増やし、時計回りと反対周りというより、8の字に動いているようだ。

 そうやって、装填の時間を稼いでいるのだ。


 すると、一隻のスループ船が、こちらに近づいてきた。

 マストの修理とダブルカノン砲の砲弾の補給をしてくれた。


 助かる。


 補修程度とはいえ、ロイヤルマストが使えれば、動かせる。


 しかし、補給をしても砲術長のジャスミンが倒れている。

 これでは、正確な射撃が出来ない。


「なら、オレがやります」と、スループ船の男が手伝ってくれるようだ。


 これまた、助かる!


「修理完了です!」

「よし! Zukunft号、発進だ」


 私は、白いガレオン船が、やる気になっているのが、手にとるように分かった。


「ふふふ、もうこの船も私と一体なのね。これもマルよ」


 すると、100門鑑がもたついているのが見えた。


 そして、私は、吠えた!

「獲物はあれだ、100門鑑だ」と。



次回、最終回 この海を護るもの

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