第二部 真紅のモノローグを伝えて
第13話 2-1.お転婆令嬢とボロ令嬢
第二部
真紅のモノローグを伝えて
第一話
お転婆令嬢とボロ令嬢
白いガレオン船は天国からの帰り道、こう考えていた。
エマリーも死んだ。
ローズマリーも死んだ。
エルメンヒルデも死んだ。
そして、今年、ヤスミンとヴィルヘルミーナも死んだ。
あとは、イリーゼを天国に運んだら、私の役目も終わる。
あぁ、満足の出来る楽しい船人生だったと。
***
17世紀の南ドイツ。
帝国は内部崩壊寸前、各領主が皇帝に代わり領地を好きにし、帝国の名は有名無実と化していた頃。
ここライン川の畔では、領主が今年亡くなったのだ。
その人の名は、ヴィルヘルミーナ一世。
領民に人気の領主だった。
まさに金髪の美女で、しかも、若い頃は貴族令嬢にして海賊!
しかも、スペイン海軍の無敵艦隊を敵に回し、戦うという英雄伝を持つ人であった。
そして、彼女と彼女を助けた海賊団のキャプテンのシュベルツとの恋物語は、尾ひれが付いて大衆劇となり、“悲恋の人、ヴィルヘルミーナ”は、我らのヒロインとして、領民に愛されていた。
その人が、今年、亡くなったのだ。
領地は喪に服した。
ホーエンツォレルン家は、他貴族との社交界を控えていた。
それは、ヴィルヘルミーナの孫娘、ヴィルヘルミーナ二世にとって、非常に好ましくないことであった。
何故なら。
学園を卒業し、社交界デビューした彼女に取って、ライバル達に遅れを取ることになったからだ。
なんの?
結婚レースのだ。
「公爵家も辺境伯の息子も、皆、同級生たちに抑えられましたわ。しかも、中には婚約したって」
「ちょっとミーナ、落ち着きなさいよ」
「クリスちぃ、よく落ち着いていられるわよね。私たち、もう出遅れているのよ。結婚レースに、私たちはッ」
「ミーナ、私の家は男爵なのよ。公爵家とは縁はないわよ。どう考えても」
「そんなことはないですわよ、クリスちぃ。貴女は美しいですわ」
「ありがとう。ミーナ、貴女も美しいわよ!」
と、お互い見つめ合う二人。
そう!
喪に服しているうちに、帝国の公爵家等名門の子息は、社交界で次々に相手を見つけていった。
そして、学園で同級生達は婚約する者も……
すっかり結婚レースに出遅れたヴィルヘルミーナとクリスティアーネであった。
しかし、二人とも社交界は好きではなかった。
何故なら、以前、このような事があったからだ。
二人が、とある会に出席していた時。
そこに、ある公爵令嬢が寄ってきた。
「あら、ヴィルヘルミーナ様とクリスティアーネ様。ご機嫌よう」
「「ご機嫌麗しゅうございます。マリアンネ様」」と、挨拶をした。
すると、マリアンネの後ろのお付の令嬢が、「お転婆伯爵とボロ男爵だわ」と言ったのが聞こえた。
ムッ!
「エミーリア様、失礼なことを」
「あら、申し訳ございませんでしたわ」と、エミーリアと言う令嬢は、笑いだし、その場を立ち去ろうとしていた。
マリアンヌも一礼して、ヴィルヘルミーナ達の前から立ち去るつもりだ。
「な、なんですって、この腰巾着ッ」と言ったのは、ヴィルヘルミーナだった。
「はぁ? お転婆ではございませんこと? 先日は、昔の海賊船を探していたとか?」
そう、ヴィルヘルミーナは、祖母が売却した“白いガレオン船”を探していたのだ。
それは、ただ、祖母が大海原を駆け巡ったあの白い船を見てみたいというだけの興味本位であったのだが、そう言われては、引っ込みがつかない。
「まあ、エミーリア様はマリアンヌ様のお兄様がお目当てなのでは?」
マリアンヌは公爵令嬢なのだ。
その家の長兄となると嫡男ということで、多くの令嬢のターゲットとされている。
マリアンヌ自身は、この手の話はコリゴリなので、さっさと立ち去ってしまった。
「あっ、マ、マリアンヌ様ぁ」
「ふん、
そして、クリスティアーネはヴィルヘルミーナの顔を見て、「この、お転婆ぁ」と戯けながら言ったが、悔しさもあった。
それは、ボロ男爵とは事実なのだから……
しばらく、クリスティアーネは目を閉じていた。
「なぁ、クリスちぃ。私に付き合って喪に服すことは、ないんだぞ」
「うん? 私一人で、あそこに行けと?」
「あぁ、クリスちぃは美人だ。殿方の目を引けるよ」
「今の時代、美人より家柄でしょう?」
「それは、あるか……」
今、この帝国は事実上崩壊状態だった。
帝国に皇帝はいる。
いるのだが、実態は、領主が領地を全て運営を行い、帝国から独立したようなものだった。※1
だが、名目上は帝国の領土内ということになっている。
すると、領主達は、より強い者と婚姻で結び付き、同盟関係を作っていたのだ。
だから、領地も大きくなく、財政が豊かでない領主の娘などに声などかからないのだ。
そして、ボロ男爵などと揶揄されてたのだ。
幸いにも、ヴィルヘルミーナの本家は隣国で王族をしている。
親戚の我が家は、一目置かれているが、本家へ嫁ぐのも手だ!
と言っても、まだ、この時代隣国は田舎ではあったが。
そしてクリスティアーネが言った、
「明日は、船で川を下ろうよ」と。
「川か! 良いね」
次の日、二人はヴィルヘルミーナのお付きのアンナとアガーテを連れて、ライン川に来ていた。
この二人は、船の操作が出来るので、連れてきたということだ。
なんと言っても、アンナの実家は漁師らしい。
自分の領地の中なのだ。
のんびりとしていた。
気のせいだろうか、船の下を大きな生き物が通過したような感じがした。
しかし、川にクジラなどいないだろう。
また、私は、のんびりと考え事をしていた。
私はお祖母様が、海賊をしてスペイン海軍と戦い、大西洋を駆け巡り、そして、シュベルツという海賊に大恋愛をしていたことに憧れを抱いていた。
あの鉄の様な強い意志を持つ、厳しいお祖母様が恋愛である。
しかし、お祖父様は可愛そうだよね。
お祖母様の大恋愛は領民の間では、大衆劇になるほどの人気があるなか、入り婿にくるなんて、ツラすぎるでしょうよ。
しかも海賊を妻になんてね。
実家の相続争いで、実家に帰ったりしていたけど、そりゃあ、実家に帰りたくなるのは、当然でしょうよ。
そうこう考えていると、そこに、ある商船が数隻の船に襲われていた。
略奪か?
“ザブーン”という音と共に、商船から川に一人落ちたようだ。
「誰か!」という声が聞こえてきた。
「なんだ?」
海賊ならぬ、川賊?
このままだと、この船も川賊に襲われている商船のところに流されるのだけど……
「アンナ! 回避、回避して頂戴な!」
「お嬢様、流れが早くて、あの場所を避けれませんんん」
なんですって!
このまま、賊の船へ突っ込むの?
次回の女海賊団は、ローレライと白いガレオン船。
あの白く美しいガレオン船が再び……
※1 実際、北部は、ネーデルランドの北7州をネーデルランド連邦共和国として独立を許している。
また、南部はオスマントルコ帝国の侵攻に悩まされる事になる。
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