第8話 イギリス海峡の闘い
8.イギリス海峡の闘い
今回のスペイン商船の航路は、港では知る人こそ知る極秘の案件になっていた。
商船の中身は、スペイン王室が神聖ローマ帝国皇帝に宛てた贈り物のようだ。
スペイン王室、神聖ローマ帝国ともにハプスブルク家が支配している。
親戚なんだな。
ということで、お宝が輸送されることがある。
そこでだ!
陸路だとフランスを通らなくてはならない。
フランスは左右をハプスブルクに挟まれ敵対しているので、陸路は無理だ。
海路なら、マドリードからバルセロナへ、バルセロナから地中海へ抜け、イタリアを通り、ヴェネツィアまで行き、ヴェネツィアからウィーンまで陸路という航路が一般的だろう。
しかし、ここもフランスをやり過ごす必要がある。だからと言って、ビスケー湾を北上しフランスとイギリスの間のイギリス海峡を通ることは考えられない。
海賊の巣であるイギリス海峡やドーバー海峡を通れるはずもない。
なら、日にちをケチらず遠回り航路として、アイルランドからフェロー諸島へ抜け、北海に入るルートがあるが、現実的でない。
単に、ブリテン島をぐるりと回っただけだ。
回って着いた先は、ネーデルラントで、これまた、スペインに私掠船を認めている国なのだ。
危険すぎる。
私なら、どのルートを取るか?
普通に地中海だな!
ところがである!
なんと、敵は裏をかいて、夜間にイギリス海峡からドーバー海峡を抜けるというのだから驚いた。
そして、この情報は一部の海賊しかしらない特Aクラスの情報なのだよ!?
ならば、やるしかない!
他の海賊がやる前に我々が頂く。
作戦は、ドーバー海峡の手前のイギリス海峡の入り口で襲うことにした。
地政学的に、チョークポイトは海賊が多い。
だから、ライバルのいない、その手前でやってしまうのだ。
ただ、上手くやらないと逃げられる可能性は高い。
勝負所だ!
私達は、陽が沈む前にドーバー港を出航し、イギリス側の岸壁に張り付きながら移動した。
一度、ポーツマスとワイト島に間に立ち寄った。
ここに立ち寄ると、他にこの商船を襲うライバルがいると思ったので、一度立ち寄ったが、さすが特Aクラスの情報だ。
他の海賊に漏れていないようだ。
その後は、ブリテン島の端、ペンザンスの港で身を隠すことにした。
「獲物が来るまで、ジッと我慢だ」
そして、陽は沈んでいった。
この後、人生で最も長い夜が、やってくるとは、この時の私には、想像もつかなかった。
そして、この夜の出来事が、数十年間、私を苦しめることになるとは……
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