第4話


 可哀想、ですか?


 ええ、そうですね。わたくしも、心よりそう思いますわ。本当に……


 ええ、ええ。途中で可哀想とお思いになるのでしたら、外に暮らしている野良の・・・動物・・なんて、最初から構っては……欲してはいけないのです。


 だって、『王族』なのですもの。


 権力を有する者が口にすれば、大抵のことは叶ってしまいますわ。


 あら、そんなに可哀想ならば飼うのをやめてしまわれる、ですか……


 そう、ですか……お可哀想に。


 え? なにが、と?


 殿下は、ご存知ないのですか? 一度人に飼われてしまった動物は、外で生きて行くのがとても困難になってしまうのですよ? 群れには戻れず、餌の取り方も忘れてしまって……


 『親切な顔をした悪い人間』に、すぐ捕まってしまうことが多いらしくて。


 ええ、ええ。可哀想に。毛皮を剥がされたり、見世物にされてしまったり、無理矢理交配させられてしまったりと……すぐに『食い物』にされてしまいますの。


 だから……そういう、中途半端に人に懐いてしまった動物を……『殺してしまうほうが親切』だ、と主張する方もおりますので……


 あら、殿下? どうされましたか? お顔の色が急に、お加減でも悪いのですか?


 え? わたくしのせい、ですか?


 ああ、『愛玩動物』のお話でお気を悪くなされたのですか? それは申し訳ございません。


 いえ、いいえ。わたくしに他意はありませんわ。


 わたくしはただ、『愛玩される側』のモノについて、少々語っただけですもの。


 それが、こんなにも殿下のお気を悪くしてしまうことだとは気づきませんで。


 本当に申し訳ございません。


 ええ、婚約解消については、わたくしは・・・・・、了承致します。あくまでもわたくし・・・・個人と・・・しては・・・、になりますが。


 お父様や陛下へは、勿論殿下の方からお話を通してくださったのでしょう?


 え? これから、なのですか?


 そう、ですか。それはまた……


 ああ、いえ。なんでもありませんわ。打診も根回しも相談もなにもせず、婚約者であるわたくしとの公式な・・・お茶会・・・の席で、いきなりこのようなお話をされるだなんて……


 ああ、いえ。これから、とても大変なことになるのだと思っただけです。


 殿下はこれから、ご自分の身の振り方をよくよくお考えになると宜しいかと。


 なにを、ですか?


 だって、この場にはわたくし達以外にも人がいらっしゃるではないですか。

 ここは、お城の一角ですよ? しかも、開けた庭園です。そんな場所で人払いもせず、婚約解消についてお話をなさるのですもの。もう既に陛下へ伝わっているに決まっているではないですか。


 え? 殿下がどうなるか、ですか?


 そんなことわたくしに聞かれても困りますわ。だって、お決めになるのは陛下でしょうから。


 それに、わたくしだってどうなるか……ああ、いえ。婚約解消をされるのですから、殿下には関係無いことでしたわ。お気になさらず。


 それでは、わたくしはこの辺りで失礼致しますね。


 ええ、ええ。もう二度と殿下にお目に掛かることは無いかと存知ますが。


 お元気で。お身体にはお気を付けて。


 殿下の幸運・・をお祈りしておりますわ。






























 さて、これからどう致しましょうかねぇ……


 殿下あの方へ嫁ぐよう育てられたわたくしは、もう用済みでしょうし。


 『病気』になってしまう前に……


 『管理された檻の中』を出て外で野垂れ死にするも一興、と言ったところでしょうか。


 ……まぁ、簡単には野垂れ死にしてやるようなつもりはありませんけど。


 『檻』の中で生涯を過ごすことを定め付けられ、そういう風に育てられたモノだとしても――――


 わたくしにだって、それなりの矜持くらいはありますわ。知恵だって、全く無いというワケではありませんもの。


 足掻いてやりますわ。


 とりあえず、『檻』からの脱出でも企てますか。

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