お会いするつもりは無いそうです。


 窓越しに見上げた空は、青い。


 雲がほとんど無く、カラリと晴れている。


 この陽気が続けば、数日で・・・いや、もしかすると、明日にも道が乾いているかもしれない。


 どうする、か・・・


 吸血鬼だと疑っていたサファイアに手厚くもてなされ、非常に複雑な気分が募る。


 有りていに言えば、酷くうしろめたい。


 ぼんやりと階下を見下ろすと、晴れ渡る空が遠くまで見渡せて眺めがいい。その景色の中、


「・・・あれは?」


 ぽつんと城へと荷を運んで来る一行が見えた。


 気になったので下へ降り、城門の方へ向かう。


 しばらくして強い風の中、村人達が荷車を引いてやって来た。この間、話を聞かせてくれた人もいる。


 なにか城へ用事だろうか?


 そう尋ねてみると、数日前に行方不明になった子供の親族だという。

 子供を見付け、無事に保護してくれた人が城へいるから、そのお礼をする為に来たのだと話す。

 しかも、その際に城の人間が子供をさらった筈だから城の中を見せろと言った馬鹿がいた。その馬鹿な発言せい……というかお陰で、結果的に城の人間が子供を見付けてくれたが、その言動の非礼も領主へと詫びねばならない。と、村長が苦い顔で語った。


 ちなみに、その子供は森の中で無事見付かったそうで、城の人間は全くの無関係だったらしい。


 村人達の顔色が悪い。


 領主へ楯突くような言動への謝罪に訪れたのだから、それも当然だが。


 不満そうな顔をした若者が、


「吸血鬼の城だから疑ったんだ……」


 と、小さく零した瞬間、即行で村長へ殴られて失礼なことを言うなと叱られる。


 もしかして、騒ぎ立てた馬鹿というのは・・・


 ・・・わたしも、他人事ひとごとではない。


 むしろ、この若者と同じ・・・


 というか、領主のサファイアが吸血鬼かどうかを確かめる為に城へ滞在している。この若者のように失礼な態度は取っていないが、動機は十二分に失礼だ。自覚している。


 今は・・・まあ、どちらかというと村長達寄りの意見で、サファイアを疑ったことを申し訳なく思う。


 村長が門番へと話し、門番の一人が城の中へと報告しに行った。


 しばらくして、門番が通るよう伝えると、村人達が荷車を押し、城の敷地へ入る。


 中身を聞くと、上等な蜂蜜、蜜蝋みつろう、ワイン、チーズなどといった村の特産品だという。


 なんとなく、村人達と一緒に城の中へ。


 通された部屋でお茶が用意され、恐縮する村人達。そして、その中で一人だけ警戒している若者。


 少しして、出て来たのは執事のレガット。彼が対応するようだ。


「荷物は受け取ります。そして、領主様はお怒りではないそうです」


 ホッとする村長達。


「あの、息子を見付けてくださった方へお礼を言いたいのですが、あの方は」


 一人の村人がそう言うと、若者があからさまに不快そうに顔をしかめた。


「お会いするつもりは無いそうです。あくまでも、誘拐犯だという濡れ衣を晴らしただけなので、感謝される謂われは無い。との仰せです」

「そんなことはありません! あの方は息子の命の恩人なんです! どうか、あの方へお礼を言わせてはくれませんかっ!?」


 村人は訴える。しかし、


「感謝はお伝えします」


 レガットは首を振る。


「直接お礼をしたいのです!」


 だから、


「子供を救った方は、城にいるのでしょう? なぜ、会うつもりが無いと?」


 そう口を出してしまった。


「村の子供を発見し、保護したのはフィン様の従者の方なので、わたしには答え致し兼ねます」


 思わぬ答えが返って来た。


「フィン君の?」

「ええ。村の子供の捜索をしたのは、フィン様のご厚意によるもの。どうしてもというのでしたら、フィン様へ話をお通しください。但し、フィン様は、こちらの村の方々へ宿を断られて、この城へ来ています」


 レガットの鳶色の瞳が冷ややかに眇められる。


「それは・・・」

「黒は死を呼ぶ不吉な色だと言われたそうですが、神父様にはフィン様がどのように見えていらっしゃいますか?」


 ハッキリ言って、そんな風には全く見えない。

 フィン君は能天気で食い意地が張り捲った、ぽやぽやとした少し抜けている感じの子供だ。


「髪と瞳が黒いだけの、普通の子供です」


 そう答える。と、


からすみたいなガキなんか、不吉なだけだ」


 ケッと吐き捨てる若者を、鳶色の視線が冷ややかに一瞥。慌てて若者の頭を下げさせる村長。


「そういうワケですので、互いに不快な思いをしないよう、会わない方が宜しいという判断ですので、悪しからず」


 低温の声がキッパリと告げる。


 若者の態度と、ハッキリ拒絶された後では、もうなにも言えない。


「大変、申し訳ありませんでした」


 村人達が頭を下げるが、レガットは冷ややかな態度を崩さない。


「謝罪はお伝えします。用件は以上ですか?」


 そう言われ、村人達は帰って行った。

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