子供を探す手伝いに来ました。


 ヴァンがそれなりの速度で、城から約十五分も走った頃だろうか。


 村が見えて来た。そろそろ日も暮れようかという時間なのに、人がまばらに立っていた。


 子供を探す村人だろうか? と、ヴァンはそのうちの一人を掴まえて話を聞いてみることにする。


「すみませんが、子供が行方不明になったとか?」

「あ、ええ、そうですが……あなたは?」


 掴まえたのは、若い男。ゴロツキ未満Aのようなクズ臭漂うような横柄さは全くない。


「子供を探す手伝いに来ました。いなくなったのは、男の子? 女の子?」

「お、男の子です」

「いつ気が付きましたか?」

「昨日の夜だそうです」


 フィンとヴァンの二人がこの村に顔を出したのも、昨日だ。それなら仕方ないと、ヴァンは思う。


「その子の家はどちらですか?」

「こ、こっちです」


 身分を名乗らず、矢継ぎ早に質問。そして、行方不明の子供の家へと案内させる。


 着いたのは、他の家よりも少し立派な家だった。


 行方不明になったのはどうやら、村の重役辺りの子供のようだ。


「失礼します」


 と、ヴァンは勝手にドアを開けて家へ入る。


「あ、ちょっと!」

「こちらの息子さんが行方不明になったと伺ったのですが?」

「なんですかあなたはっ!?」


 いきなり家へ押し掛けたヴァンに、中年男性が声を上げる。子供が行方不明になって、気が立っているのだろうから、これが当然の反応だとは思う。しかし、


「なんですか、はこちらの台詞ですね。いきなり城へ押し掛けて来て、私を犯人扱い。挙げ句、城の中まで見せろとは・・・それが、この村・・・の総意・・・ですか? まずは、それを確認したいと思いまして」


 馬鹿が一人先走って城へ押し掛けたのだとは、十分に考えられる。しかし、その一人の馬鹿を抑え切れなかったのだ。それは、この村の責任だろう。


「し、城へっ? 誰が、そんな・・・」


 絶句する中年男性。その顔が蒼白になる。


「ち、違いますっ!? 領主様を疑うなど、断じて違いますっ!?」


 キッパリと断言するのは、ヴァンをこの家まで案内してくれた若い男性。


「そうですか。では、今はこのことは不問とすることにしましょう」

「あ、ありがとうございます」


 中年男性は、ヴァンへと頭を下げる。


「いえ、後でキチンと追及させて頂くので、安心はしない方がよろしいかと。ひとまずは、私への疑いを晴らす為に、お子さんを探す手伝いをさせて頂きます。拒否権はありません。断られても、私は私で勝手に動きますから、悪しからず」


 ヴァンが一気に捲し立てると、顔を強張こわばらせた中年男性がコクコクと頷く。


 よし、言質は取った。と、ヴァンは顔には出さず、内心でほくそ笑む。


「では、お子さんの名前、年齢は?」

「クラン、八歳です」

「いなくなってから、どのくらい時間が経っていますか?」


 この質問へは、苦い顔をする中年男性。


「昨日の・・・午後から」


 丸一日以上の時間が経過していることになる。


 八歳の子供が丸一日以上行方不明になれば、騒ぎもするのは道理。


「わかりました。では」


 ヴァンが口を開きかけたとき、バタン! と、乱暴に玄関が開き、


「っ……だ、騙されるなっ!?」


 ゼェゼェと喘ぎながら家へと入って来た男が、ヴァンを指差して言った。


 それは、先程ヴァンが置き去りにした男。


「ゴロツキ未満A」


 どうやら彼も、走って来たようだ。


「誰がゴロツキ未満Aかっ!? 俺にはちゃんとした名前がっ」

五月蝿うるさいですね。ゴロツキ未満A。黙りなさい。今は大事な話の最中です。邪魔なので出て行きなさい、ゴロツキ未満A」


 名乗ろうとした彼を、ヴァンが冷たく遮る。すると、ゴロツキ未満Aが激昂。


「っ!? おいみんなっ、騙されるなっ! 俺は知っているんだっ! コイツなんだっ!? コイツがクランをさらった犯人なんだよっ!?」


 ヴァンは、騒ぐ男へ溜息。


「と、まあ・・・こういうワケです」


 すると、中年男性が冷汗ものでヴァンへと頭を下げて謝った。


「す、すみませんでしたっ! 本当に、アイツの言うことは、一切気にしないでください!」

「お、叔父さん! 叔父さんは俺とソイツ、どっちを信用するんだよっ!?」


 情けない声を上げるゴロツキ未満A。どうやら、ヴァンの読みは外れらしい。


 行方不明の子供と、このゴロツキ未満Aには血縁関係があったようだ。しかし、幾ら血縁関係があろうとも、彼自身がマズいことを主張していることに変わりはない。


 地元の有力者に楯突くという意味を判っていれば、答えは自ずと出るものだ。


「お前は黙っていろっ!?」


 厳しい声を上げる中年男性に、


「そんなっ・・・」


 ショックを受けるゴロツキ未満A。


 それで静かになったのはいいが、こちらを睨むのはやめてほしい。かなりウザい。と、ヴァンは思う。


 そして、なんだかとても面倒な気分になって来たが気を取り直して、指示を出す。


「今から言う物を揃えてください」


 と、捜索に必要な物を準備させることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る