そこのゴロツキ未満A。


 その日の夕方。


 フィンとヴァンの二人が、城門の辺りを散策しているときだった。


 若い男が城門の前で騒いでいるのが見えた。その男に、門番が困ったように対応していた。


「見に行こー!」


 と、駆け出すフィン。


 近付いてみると、どうやら近くの村の子が行方不明になっているらしい。そして、


「アンタじゃないだろうな?」


 騒いでいた男が、あからさまに疑いの目をヴァンへ向ける。更に、フィンを見て、顔をしかめる。


「チッ……黒なんて、縁起でもない」

「おいっ、失礼だぞ!」


 男の、城の客人フィンに対する態度へ門番が割って入る。


「とりあえず、村の子供がいなくなったのはわかったが……その子供が城にいる筈がないだろう」

「だから、本当にいないのか確かめさせてくれと頼んでいるんじゃないのか!」


 要は、疑っているのだ。


 吸血鬼の住むという城。そして、村から消えた子供。その子供は、吸血鬼にさらわれたのではないか? と、直接言いはしないが、男のその態度と目が、そう物語っている。


「そんなことできるワケがないだろう」


 苛立ったように答える門番。


「ヴァン」


 フィンがヴァンの名を静かに呼んだ。


 黒とエメラルドの瞳の一瞬の交錯。


「はい、わかりました。子供をお探しすればよろしいのですね? マスター」


 ヴァンは、内心で呟いた。フィンとアイコンタクトが通じてしまった・・・ビミョーに嫌だな、と。


「は?」

「え?」


 騒いでいた男と門番が揃ってヴァンを見る。


「お客人?」

「なにを言っている」

「捜しモノは得意です」


 自信満々なヴァンに、大いに戸惑う門番。


「いや、お客人にそんなことをさせるワケには」

「疑われているのは私ですので」


 それと、城の住人・・・サファイア様だ。とは、口に出さずにヴァンは言う。


「ですから、私の疑いを晴らす為に、行方不明だという子供の捜索を致します。マスター、しばらくの間、お傍を離れますが、呉々もアホな真似はしないでくださいね?」


 こんなアホを一人にするのは不安だが、疑われたままの方が煩わしいことになるのは必至。


「もー、ヴァンはいつも一言多いって。でも、うん。早く見付けて戻って来てね?」


 にこりとフィンは微笑む。城へ、ではなく、ヴァンが戻るのはフィンの隣へ、なのだと。


「ええ。では、行って参ります。そこのゴロツキ未満A。私をその子の家まで案内なさい」


 初っ端から失礼というか、無礼な態度だったので、ヴァンも相手に失礼な態度を返す。


 ちなみに、なぜゴロツキ未満・・なのかというと、男がゴロツキという程に崩れている粗野な雰囲気ではないからだ。既にクズさは漂っているが、度胸は無さそうという感じ。


「はあっ!?」


 怒り顔で口を開く男……ゴロツキ未満Aを、ヴァンは冷たく遮る。


「愚図愚図していると、日が暮れます。いいのですか? そろそろ、夜が来ますよ?」


 チラリと城を見上げるヴァン。言外に、吸血鬼が住むとされる城に、夜までいるつもりか? と。


「チッ……付いて来いっ」


 男は、忌々しげに舌打ちをしてきびすを返す。


「あ、お客人!」

「明日の朝には戻ります」


 慌てる門番へそう言い残し、ヴァンはゴロツキ未満Aへと付いて行く。


「行ってらっしゃ~い!」


 ひらひらと大きく手を振るフィンを無視して。


 そして城門から離れ、しばらくも歩かないうちに、


「俺はお前のことなど信用しないぞ。味方の振りをしようとも無駄だ。絶対に化けの皮を剥いでやるからな!」


 などと馬鹿馬鹿しいことを言い出すゴロツキ未満A。


 村の子供がいなくなり、旅人が現れた。


 もしかしたら、旅人が子供を誘拐したのかもしれない……


 必死になっていれば、そして近隣住人を疑いたくなければ、その発想になることも、ヴァンにはわからなくはない。しかし、ヴァンにはこの男が必死になっているようには全く見えない。


「大体だな、俺は最初からお前達が怪しいと思っていたんだ。そんな怪しい連中を村に入れるからこんなことになったんだ。だから俺は、最初っから反対していたというのに」


 ヴァンは、ゴロツキ未満Aを行方不明になった子供の身内ではないと判断した。


 だから愚図愚図と文句を言い、だらだらと時間を消費できるのだと、ヴァンは結論付ける。


「もういいです」

「なんだと? なにがもういいんだ?」

「遅い。私は一人で村へ向かいます。あなたはだらだらと歩いてなさい」

「おいっ!?」


 ゴロツキ未満Aを無視し、村の方角へ走るヴァン。行方不明の子供の家はわからないが、村に着いたら誰かに聞けばいいと思いながら――――

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