一度……うちに、帰らない?


 なにやら最近、乗馬クラブの女子生徒の何名かに匿名でムチが贈られたという話を聞いた。


 原因、と言っていいものか・・・とりあえず、馬鹿な新入生男子が乗馬クラブ女子に喧嘩を売って、レイラ嬢に撃沈されたあの件のすぐ後のことだそうで。


 まぁ、うん。どこぞの『見守る会』の人達なんだろうなぁ……と、一瞬遠い目になってしまった。ケイトさんはもう卒業したんですけどね。


 あのとき――――大人しそうであまり目立たない感じの女子生徒が、なかなかの口撃と蔑みの視線を馬鹿男子へ向けているのを見て、去年までは女子生徒へ舐めた態度を取っていた男子生徒達が若干青ざめていたような気がする。


 まぁ、ほら? 猫は温かいらしいからね。地……というか、キレたらああいう感じになるのかな?


 そして、女子生徒へ舐めた態度を取る男子はいなくなった。


 あと、女子生徒の一部にいい縁談が来ているそうです。お相手の方から、是非にと熱望されているのだとか・・・


 レイラ嬢はおめでたいと言っていたけど・・・本人がその縁談を受けたいなら、どうぞご自由に。


 特殊な趣味を持っていたりするかもしれないけど・・・うん。わたしは知らない。ちょっと、素直にお祝いはできそうにないだけです。


 レイラ嬢と言えば、彼女がいると萎縮する男子生徒が増えたかもしれない。


 元々、公爵令嬢ということで一目置かれてはいたけど・・・もう、そういう感じでもない。


 ぶっちゃけ、畏れられていると言っても過言じゃない。まぁ、反面、女子生徒達には尊敬の目で見られているようですけど。ある意味・・・というか、斜め上な発想と実行力がケイトさんよりも過激だからなぁ。さすがはターシャおば様のお孫さんです。


 そのせいか、レザンとわたし、エリオット、アンダーソン嬢の株が上がっているようです。


 『暴君』に言うことを聞かせることができるなんて・・・と。部長のレザンが『軍曹』。まぁ、元々軍閥の奴だし。イトコのエリオットは『暴君の小姓』。うん。力関係は見て判る。そして、副部長でレイラ嬢と仲良くなったアンダーソン嬢が『暴君の宰相』と称されているという。


 まぁ、それはいい。それは、なんだけど・・・なんでわたしが『女帝』呼ばわりなんだっ!?


 絶対におかしいと思うっ!!


「ブハっ!? ハハハハハハっ!? 『女帝』って、めっちゃ似合ってるぜっ!?」

「ハウウェル先輩の地位が一番高いですね! さすがです!」


 爆笑しやがったテッドと、とんちんかんなことを言ったエリオットを殴っておいた。


 そんな不満はありつつも、一応乗馬クラブは上手く回っていると思う。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 毎度ながらアホ共……主に二人がひーひー言いながらも、中間テストが終了。


 赤点は無事回避。


 帰省解禁。「ぜったいにかえってきてくださいね!」と、リヒャルト君に言われているので、今週末は帰省。


 日曜日にケイトさんとリヒャルト君がうちに来ました。


 リヒャルト君はアホ共が来ていないことに落胆しつつ、素振りやら筋トレを一緒にした。以前よりも素振りができる回数が増えて、少し逞しくなった様子。


「ネイトにいさま、ぼく、つよくなってますか?」

「ええ。よく頑張っていますね。ちゃんと練習しているのがわかります」

「わかるんですか?」

「はい。以前より体力と筋肉が付いていますからね。見てすぐにわかりましたよ。偉いですね」


 と、リヒャルト君の頭を撫でる。


「ねえさまよりもつよくなれますかっ?」

「それは、もっと努力しないとむずかしいかもしれませんねぇ」

「がんばります!」


 ぐっと拳を握っての宣言。


 誰かの為に強くなろうと思うリヒャルト君が眩しい。ちゃんと目標があるのなら、強くなれるだろう。


 隔週で帰省して、リヒャルト君に剣を教えて、学園でアホ共とわちゃわちゃ過ごす。


 ケイトさんは、おばあ様との仲も良好。誰かさんには次期侯爵夫人としてのやる気や気概が全く感じられなかったとのことで、ケイトさんの自分から学ぼうとする姿勢が嬉しいようです。


 お茶会に連れて行ったりして、おばあ様の人脈も着々と引き継いでいる模様。


 そして、元々領主となるように育てられていたとのことで、お祖父様とセディーに交じって経営の話もできると、お祖父様もケイトさんを誉めていました。


 ハウウェル侯爵家は安泰だと、お祖父様とおばあ様がにこにこ。


 そうして、わたしの十八歳の誕生日が来た。


 生憎と平日だったので、アホ共に祝われました。


 寮へプレゼントと一緒に『週末は絶対に帰って来ること』と、お祖父様おばあ様、セディーからの手紙が。


 週末にうちに帰ると、盛大に祝われましたよ。アホ共まで呼んで、ちょっと恥ずかしいくらいの・・・誕生日会と成人のお祝い。


 恥ずかしかったけど、嬉しかった。


 そして、誕生日会の翌日。


「ねぇ、ネイト。一度……うちに、帰らない?」


 と、意を決したようにセディーが言った。


「あ、勿論、ネイトが嫌だったら無理にとは言わないよ? でも、その……僕、ちょっとあの人達に用事があって……どう、かな?」


 気遣うような、心配するような声と表情。


「別にいいけど」

「ありがとう、ネイト」


 と、数年振りに実家に行くことになった。セディーと、二人で。


__________


 誕生日とかを何月何日と細かく決めるのが苦手なので、日付けはふわっと。(´ε`;)ゞ


 でも、ネイサンもセディーも毎年誕生日のお祝いはちゃんとしてもらってます。両親以外には……ですが。(笑)

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