むしさん、きらいですか?
大丈夫かな?
と、思ったけど・・・
結構楽しいものだ。
リヒャルト君を抱き上げ、速足で移動しながらあちこち見て回る。ケイトさんが一緒でないことも、寂しいとは思っていないようだ。
本当によかった・・・泣かれたら、どうしようかと思ってたよ。
レイラ嬢に関しても、わたしの速足によく付いて来ていると思う。
ちなみに、なぜ速足で移動を続けているかと言うと、セディーとケイトさんに追い付かれない為……というのもあるけど、どうやらレイラ嬢はリヒャルト君の希望した箇所をできるだけ巡るつもりなのだとか。
エリオットには少し当たりが強いイメージだけど、妹のルリア嬢をとても可愛がっているようですし、案外年下には優しくていいお姉さんなのかもしれないですね。ちょっと強引なところはあるけど。
大きな蓮の葉に乗る体験ができる温室。
温室の中に池が設置され、その中に浮かぶ幾種類ものピンクや薄紫、白、少し珍しいグリーン掛かった白色の花々が咲き乱れ、甘い香りが広がっている。
「みずのおはなさんです!」
「白かピンクだろうと思ったら、結構いろんな色があるのね。グリーンの蓮なんて、初めて見ましたわ」
辺りを見回すリヒャルト君とレイラ嬢。
池の縁の方には桟橋が架かっていて、大きな葉っぱが浮いていた。植物園の職員が誘導し、池に落ちないようにそっと葉っぱの上に立たせてくれるようだ。
「みずのおはなさんのはっぱ!」
「リヒャルト君、植物園の職員さんが葉っぱの上まで連れて行ってくれるそうですから、落ちないように気を付けてくださいね?」
「はいっ、いってきます!」
「意外に大きいのですね。・・・わたくしも乗れるかしら?」
「残念ながら、十歳以下の子供限定らしいですよ」
「そうですか……残念です」
と、羨ましそうな顔でリヒャルト君を見送るレイラ嬢。本当に乗りたかったようですね。
「ネイトにいさま~、レイラねえさま~!」
葉っぱに乗れる体験ができるとは言っても、本当に乗りたがる人は案外少なかったらしく、すぐに順番が回って来たようで、大きな葉っぱの上から嬉しそうな顔で手を振るリヒャルト君。
きゃっきゃと楽しそうな顔で戻って来て、
「はっぱさんがちゃぷちゃぷでぷかぷかしてました!」
水の上に立ったという興奮を話す。
「ふふっ、よかったですわね」
「はい!」
「ここは……蓮の繊維で作ったカードや、蓮の花のお茶なんかが売っているみたいですね」
おばあ様達へのお土産にいいかもしれない。
「これは是非とも買って行かなくては!」
と、レイラ嬢がお土産コーナーへ突撃。
蓮の繊維で作った、蓮の花の形のカード。蓮の花が描かれているレターセット。蓮の花のお茶。蓮の花のフラワーウォーター。蓮の花の匂いの香水などなど……レイラ嬢は、あれこれと注文してフィールズ公爵家に届けるよう手配。結構な量を買ったようですね。
「ネイトにいさま」
「はい、なんですか?」
「おはなさんのカード、かってもいいですか? ケイトねえさまにおみやげです」
「勿論です」
と、おばあ様とお祖父様へのお土産と一緒に購入。
「さ、次行きますわよ!」
買い物が済むなり、温室の出口を目指すレイラ嬢。
「リヒャルト君」
「はいっ」
両手を広げると、嬉しそうな顔でわたしの腕に収まるリヒャルト君を抱き上げ、またまた速足で移動。
植物に擬態する虫の観察ができる温室へ。
木の葉や花、枝に擬態する昆虫が、擬態している植物と一緒に展示されている。『擬態している昆虫を探し出せ!』という煽り文句に、ガラスケースの前に男の子達が張り付いているのが微笑ましい。
「ハッ! あ、あっちのおはなさんがうごきました!」
「花カマキリですって。蘭に擬態するとはなかなかやるじゃない」
「枯れ葉カマキリという種類もいるみたいですね」
「かれたはっぱみたいなちょうちょさん!」
「木の葉蝶は、外側の翅は枯れ葉みたいに地味ですけど、中の模様は綺麗な色をしていますのね」
「あれ? こっちは、むしさんいませんよ?」
「ああ、こっちのケースはナナフシか……リヒャルト君、あっちのぴょんって飛び出している枝がナナフシって言う、枝の振りをして隠れている虫ですよ」
「きのふりですか?」
「ええ。鳥に食べられないように、枝の振りをしているんですよ」
「かくれんぼですねっ」
「まあ! ピンクや青い色のバッタなんて、初めて見ましたわ!」
「ああ、花に囲まれて育つと、目立たないようにと近くにある花の色になる個体が出て来るみたいですね」
と、説明書きを読みながらわいわい話して擬態する虫の観察をして・・・
「今更ですが、レイラ嬢は虫が平気なんですか?」
虫を見るのも嫌だという女性は少なくない、と思い至った。
「ふふっ、本当に今更な質問ですわね? まぁ、触るのは嫌ですが、見る分には特には。ガラスケースの中から出て来なければ平気です」
「? レイラねえさま。むしさん、きらいですか?」
「ん~……そうですわね。わたくしは見ている分には平気ですが、触るのは嫌です。でも、虫が苦手で見るのも嫌という女の子もいますからね。いいですか、リヒャルト君。綺麗だとか、かっこいいと思う虫を捕まえても、女の子にいきなり見せてはいけませんわ」
「みせちゃだめですか?」
「ええ。見せたいと思っている子に、ちゃんと虫が嫌いじゃないかを確認してからじゃないと、イジワルをしていると思われてしまいますからね」
「ぼく、いじわるしないですよ?」
「ふふっ、リヒャルト君がイジワルをするような子じゃないことはわかっていますわ。でも、自分が嫌いなものをいきなり見せられたら、誰でもびっくりしてしまうでしょう? 男の子がかっこいいと思うものでも、女の子には怖いと思うものがありますもの。怖い思いをしたら、わざとではなくても、イジワルだと思われちゃうわ。女の子が可愛いと思っているものが、男の子が嫌だと思うこともありますし・・・」
と、真剣な顔でリヒャルト君を諭すレイラ嬢。まぁ、どこぞの泣き虫に長年やらかしていたせいか、かなり実感が籠っていますねぇ・・・
「わかりました。きをつけます」
真剣な顔で頷くリヒャルト君に、少し苦く微笑むレイラ嬢。
「ふふっ、では、次に行きますわよ!」
と、またまた移動。
__________
ピンクや青、黄色をしたバッタ、マジで実在するそうです。青いザリガニ的な感じですかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます