っ、ほんとうに・・・おひさしぶりですっ!


 そして、お茶会当日。


 フィールズ公爵家に続々と集まる顔見知りの人達。タッタッタと軽い足音が近付いて来て、


「セディーにいさまっ、ネイトにいさまっ!?」


 ぎゅ~と手が握られる。


「あいたかったですっ!」

「リヒャルト君、久し振りですね」

「っ、ほんとうに・・・おひさしぶりですっ! おにいさまたちだけであそびにいったってききました! ぼくもいきたかったですっ」


 と、笑顔だったのが一転。今度はぷぅと頬が膨らませてそっぽを向くリヒャルト君。久々に会えて嬉しい気持ちと、長い期間会えなかった寂しさ、そしてその間にわたし達が遊びに行って、自分が誘ってもらえなかったことに対する拗ねた気持ちとで、リヒャルト君の表情が忙しく変わる。


「えっと、それは、その、寂しい思いをさせちゃってごめんなさいリヒャルト君」


 と、割り込むアルトの声。


「え?」

「あの、ハウウェル先輩とセディック様をお誘いしたのは僕なので……」

「ふふっ、フィールズ様が謝らなくても大丈夫ですよ。リヒャルトはなかなかお二人に会えなくて、ちょっと寂しくて拗ねているだけですから。ね? リヒャルト」


 しょんぼりするエリオットに、クスクスと笑うケイトさん。


「そうですっ、ぼくはおこってるんですよっ!」

「え? け、ケイト様? リヒャルト君が怒ってるって言ってますよっ!?」

「ネイトにいさまとセディーにいさまは、おやすみのあいだに、ぼくといっしょにあそんでくれないとゆるしませんからねっ!」

「ね? 大丈夫でしょう?」

「ふふっ、わかりました。では、リヒャルト君に許してもらえるよう、どこかへお出掛けしましょうか。いいですか? ケイトさん」

「ええ」

「おやくそく、ですよ? セディーにいさまっ」

「はい。お約束ですね。ケイトさんもお久し振りです。お元気でしたか?」

「ええ。セディック様の方もお元気そうでなによりです」


 ・・・これは、もしかしてセディーが倒れたことが伝わっているのだろうか? それとも、久々に会って普通に元気そうという意味? まぁ、どっちでもいいか。


「うふふ、ようこそ皆様。いらっしゃいませ~」


 と、間延びした声が掛かる。


「ターシャおばあ様、お久し振りですっ」

「本日はご招待ありがとうございます」

「お招きありがとうございます、アナスタシア様」

「わたくしの方こそ、来てくださって嬉しいですわ~。レイラちゃんとルリアちゃんが待っていますわ~。こちらへどうぞ~」


 挨拶をして、屋敷の中へ通される。


「皆様。本日は突然のお招きにもかかわらず、フィールズ家へお越しくださりありがとうございます」

「れっ、レイラちゃんがちゃんと挨拶してるっ!?」

「もうっ、人が折角せっかくちゃんと挨拶したのに台無しじゃないのよっ!?」

「あ、ごめん」

「レイラ姉様、淑女が崩れてますよ」

「っ、失礼しました」

「うふふ、レイラちゃんもまだまだね~」


 と、始まったお茶会。


「エル君は、ネイサン様やお友達の方と別荘へ行ってらしたそうね~。楽しかったかしら~」

「はいっ。長雨の影響で食料が届かなくなるって言うハプニングはありましたけど、皆さんで狩りや採集をして、充実した毎日を過ごせましたっ♪おばあ様やレイラちゃん達は、お休み中どういう風にして過ごしたんですか?」


 おお、エリオットにしてはナイスな切り返しだ。キアンのことは、本人の境遇やら変人具合、そしてあそこにいた経緯も含めて、お子様達がいるところでは諸々話し難いもんなぁ。


「うふふ、わたくし達は、お買い物をしたり、オペラ観劇、音楽鑑賞などをしましたのよ~。カフェでケーキを食べたりして、とっても楽しかったですわ~。ねえ、ケイトさん、リヒャルト君」

「ええ。休暇中、アナスタシア様にはとてもお世話になりました」

「はいっ、とってもたのしかったです♪」

「え? リヒャルト君もご一緒したんですか? 音楽鑑賞やオペラ鑑賞は、ちょっと退屈だったんじゃないですか?」

「げきはかっこよかったです」

「ふふっ、それがですね、エル兄様。活劇風のオペラで、別の日に行った音楽鑑賞は、そのオペラで使用していた曲のコンサートだったのですよ」

「なるほど」


 そういう風にリヒャルト君の興味を惹いたワケですか。それなら、小さい子でも退屈しなかっただろうなぁ。


「そうそう。男の子だけでなく、ちゃんと女の子も楽しめる内容だったんだから」


 ふふんと胸を張るフィールズ嬢。


「それはよかったね。もしかして、一番楽しんでいたのはレイラちゃんだったりする?」


 エリオットの問い掛けに、


「な、なんのことかしらっ?」


 クスクスと零れる笑い声。


 始終和やかな雰囲気でお茶会は進み――――


「さて、では今日はもうお開きにしましょうか」

「うふふ、楽しかったですわ~。そうそう、セディック様、ネイサン様」

「はい、なんでしょう?」

「次回のダンスレッスンのときには、わたくしも参加させて頂きますのでよろしくお願いしますね~」

「え?」

「ああ、そうそう。お出掛けするのでしたら、植物園なんかがお勧めですわ~」

「しょくぶつえんって、なんですか?」

「お花とか、珍しい植物をたくさん育てている場所、でしょうか? わたくしも行ったことがないのでよくわかりませんけど……」


 きょとんと尋ねるリヒャルト君に、自分も行ったことがないと答えるルリア嬢。


「おはながいっぱい……いってみたいです!」

「うふふ、こんなところにチケットがありますのよ~。皆さんで如何かしら~?」


 にこにこと、扇子のようにチケットを広げるターシャおば様。


「わ~! ありがとうございます、ターシャおばあ様♪」


 と、手を伸ばしたエリオットがチケットを配る。


「それで、いつ行きますかっ? 明日も開いてるみたいですよっ」

「いきたいです!」

「その、エル兄様がご迷惑でなければ……」

「僕なら予定は大丈夫だけど、ケイト様のご予定はどうでしょう?」

「リヒャルトが行きたいなら、喜んで」

「セディーにいさまとネイトにいさまもいっしょがいいです」

「リヒャルト、それはお二人の予定もありますから」

「わたしは休みなので大丈夫ですよ。セディーは?」

「ふふっ、予定は作るものだから大丈夫だよ。では、明日皆さんで植物園に行きましょうか」


 と、明日はみんなで植物園に行くことに決定。


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