……子供じゃあるまいし。はしゃぎ過ぎじゃないか?



 ふと目が覚めて、ぼへ~っと天井を見上げていると・・・


「あ、起きましたか? おはようございますハウウェル先輩っ」


 にこにことエリオットに覗き込まれた。


「……ん」


 なんでエリオットが……?


 ああ、そうだ。


 ここはエリオットの家の別荘で、わたしは昨日……というかさっきまで、拾い食いしたキノコに当たって具合が悪くなったというアホなキアンの為に寝ずの番をしていたんだった。


 ここはキアンに割り当てられた部屋のソファー。


 時計を見ると、九時前くらい。


「……身支度、して来る」

「はい、キアン先輩は僕が見てますねっ」


 のそのそと起き上がり、キアンの部屋を出て自分の部屋へ向かう。


 その途中で、


「よう、ハウウェル。なんだ、寝起きか~? 相変わらずぼ~っとしてんのな? 俺もさっき起きたばっかでさー。リールはまだ寝てんぞ。やっぱ、馬車移動は疲れるよなー」


 賑やかな奴と会った。


 ちなみに、リールが貴族の屋敷で一人部屋はどうしても嫌だと言って、テッドとの二人部屋にしてもらったそうだ。ウルサいテッドがいる方が一人よりもマシなのだとか。


「朝食なに出るかなー……って、そっち食堂じゃないぜ? まーだ寝ぼけてんの? ホントしょうがない奴だなハウウェルは」

「……寝惚けてない。部屋に戻る」

「え? なになに? もう朝ごはん食ったのかよ? 美味かった?」

「……まだ」

「あ、やっぱ寝ぼけてんだな、さては忘れ物かー? 早く取って来いよなー」


 と、部屋へ戻って身支度。


 それから食堂へ行くと・・・


「遅いぞー……って、ハウウェル服着替えた?」

「うん」

「え? なにそれっ? じゃあ、さっきのはもしかしてあれかっ!? 俺達に黙って、誰かの部屋でみんなでお泊り会した帰りかっ!? 俺とリールを除け者にするなんてヒドいじゃねーかよっ!? 誘えよなっ!?」


 お泊り会って・・・


 まぁ、実は結構気配に敏感で、追手を警戒して浅くしか眠れていなかったキアンの為に寝ずの番をしていた……と正直に言うよりは、キアンの部屋でお泊り会をしていた、と思わせた方がいいのかもしれない。


「ズルいぞー! 今日の夜は俺も参加してやるからなっ! 全くもうっ」

「なにに参加するのだ? 仕立て屋よ」


 ひょいと割り込む悠然とした声。


「おおっ!? イケメンにーちゃん!」

「おはよう、麗しき同志と賑やかなる仕立て屋よ」

「おはよう、キアン」


 挨拶を返すと、艶やかな琥珀の流し目が向けられた。どうやら、昨日よりは体調がいいらしい。それはいいとして、なぜに流し目を寄越すのか……?


「おはよー。な、な、聞いてくださいよ。ハウウェルってば、昨日は誰かの部屋でお泊り会なんかしてやがったんすよー? 俺とリールをほっぽってさー。フィールズの部屋かレザンの部屋か……ハッ、それともイケメンにーちゃんの部屋だったりっ!?」

「ふっ、よくぞ気付いたな、仕立て屋よ! そうだ、昨夜は二年振りにあった我が同志達とつもる話があってな……ついつい夜更かしをしてしまったのだ!」

「えー、ズルいっすよー」

「フハハハハハ、羨ましかろう!」

「……朝っぱらからなんの騒ぎだ?」


 高笑いに、怪訝そうな声。


「お、リール! 聞けよ、ハウウェル達ってば、昨日俺らに内緒でイケメンにーちゃんの部屋でお泊り会してやがったんだってよ! ズルくね?」


 どうやら、キアンの呼称はイケメンにーちゃんで定着したようだ。


「……子供じゃあるまいし。はしゃぎ過ぎじゃないか? そんなことより、俺は朝食を食べに来たんだ。静かにしろ」

「えー、リールが冷たいー」

「眼鏡は冷静だな」


 と、ブーブー文句を言ってウルサいテッドに飄々としたキアンが適当に応じ、わーわー話す賑やかな朝食となった。


「そう言やさ、フィールズとレザンは?」

「小動物ならば、周辺を散歩して来ると言っていたぞ。剣士の方は朝方に出たと聞いた」

「散歩?」

「ああ」


 散歩というか・・・まぁ、どちらかと言うと哨戒しょうかいに近いと思うけど。


「いいなそれっ。な、な、俺達も探検行かね?」

「……お前、本当にはしゃぎ過ぎだぞ」


 探検と言い出したテッドへ冷ややかな視線を送るリール。


「麗しき同志よ、どうする?」

「ぁ~……まぁ、悪くないんじゃない?」


 なにかあったときの為に、周辺の様子をちゃんと自分の目で見て把握しておくのは大事だ。地図上だけでは、わからない情報がある。


 確認、めっちゃ大事!


「……ハウウェルまでそんなことを言うのか?」


 テッドに同意するな、と非難するような視線。


「おー、なんだなんだハウウェルも探検したかったのかよー? それじゃあ、早速行こうぜ!」

「ま、探検というよりは、避難経路の確保かな? 長雨で土砂崩れとかしてもなんだし」

「なっ、おまっ、そんな不吉なこと考えてんのっ!?」

「……それはそれで、予想外な返答だな。まあ、単なる探検よりは意義があるだろうが」

「さすがは我が同志。安全確保に余念がないとは素晴らしい心懸けだ!」


 それをキアンに言われると、なんだかかなり複雑な気分になるけど・・・


 それはかく、フィールズ家別荘付近を探検? することとなった。

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