想像するだにめちゃくちゃ怖いんだけどっ!?


「やっぱアホの子じゃん」

「ふぇ?」

「つか、やっぱそんな顔して、フィールズも剣とか普通に使えんだな?」

「? はい。あんまり強くはないんですけどね」

「俺はその、自称『あんまり強くない』ってのは信用してねぇけどな!」

「?? どういう意味ですか?」

「え? だってよ、ハウウェルも、自称『自分は強くない』って奴だぜ?」

「ああ、確かにハウウェル先輩は、レザン先輩なんかに比べるとあんまり強くはないですよね。剣士としての腕は、多分二流くらいじゃないですか? それでも、僕なんかよりは強いと思いますけど」

「な、なんか思ったよりもズバッと言うな? ちっとびっくりしたわ」

「ま、騎士学校では番付があったからね。三年間不動の一位だったコイツに比べたら、真ん中辺りをうろうろしてたわたしはね?」

「ちなみに僕は、半分よりちょっと下くらいをうろうろしてました。でも剣の腕は、多分三流ですっ」

「明るく言ったっ! つか、自己評価低くね?」

「ま、番付とかされちゃうとね? それに、周囲にはガチで強い連中が沢山いたから」

「はい。上位に行けない人は、相対的にはあんまり強くないですからねっ」


 エリオットがわたしに同意すると、


「そんなことはないと思うが・・・」


 どことなく不満げな低い声。


「はいはい、不動の一位が言っても説得力無いから・・・って、もうこんな無駄話やめて、そろそろ乗馬しない?」

「え~、結構面白い話だと思うぜ?」


 なんて言いながら、厩舎の方へ向かう。


 それから、馬を選ぼうとして・・・


「エリオット。お前、いい加減にしろよ」

「ふぇ? な、なにがですかっ?」


 わたしの不機嫌な声にビクッとするエリオット。一緒に馬を選んでいるんだから、乗馬をするつもりなのだろう。でも・・・


「いきなり怒ってどしたよ? ハウウェル」

「怒っているワケじゃないんだけどね? エリオット。馬に乗らないなら、それでいい。でも、乗るつもりでここにいるなら、今すぐそれを外せ。視界が悪いと危険だし、ストールが変な風に絡まって首でも絞まったらどうするつもり? 馬場には他の生徒達もいるんだから、迷惑になるようなことはするな」

「あ、なんかストールに慣れつつあって忘れてたけど、確かに。めっちゃ危ねーよな」

「うむ。ハウウェルの言う通りだ。最悪、馬に引き摺られてずたぼろになり、かなり苦しい思いをして死ぬことになるぞ」

「うっわ、エッグい死に方っ! ま、フィールズがどうしても取りたくねーってんなら、見学してる分ならそのままでもいいんじゃね?」

「そうだね。ほら、それ取らないならあっち行きなよ」

「っ!? い、今すぐ取りますっ!!」


 それから、ストールを取ったエリオットが注目されつつトラックを軽く走ったんだけど・・・


 部員の態度が、なんだかおかしかった。


 わたしへ好意的な態度の人と、余所余所しい態度を取る人という二分化。余所余所しい態度の人の顔に、一瞬だけ怯えの色が走るような気がするのはなぜだろうか?


 まぁ、わたしに引き攣った顔を見せるのは、ケイトさんに対して友好的でない人達だという共通点があるみたいだけど。それについては、あれだ。ケイトさんに文句があるなら、わたしかレザンに話を通してからにしてもらいたい。いつでも相手になろうと思う。


 例外は、わたしに勝負を挑んで来た後輩の女子生徒とか? 別に取って食いやしないし、勝負を挑まれたことついては、本当になんとも思っていないというのに。わたしの顔にびく付くのはやめてほしいな。


「おーおー、怖がられてんなー? ハウウェル」

「ハウウェル先輩、なにをやらかしたんですかっ?」


 なぜか嬉しそうなエリオットにイラッとする。


「は? なに言ってるの?」

「やらかしっつーか、あれだろ? こないだの耐久レース。あれを走り切ったハウウェルに、みんなびびってたし。まさか走り切るとはっ!? ってな。しかも、あの全速力のラストスパート。んで、その後フィールズ蹴っ飛ばして怒鳴ったじゃん? それ見てた奴が言ってたぜ? 今まで乗馬ではレザンのが目立ってたけど、実はハウウェルは逆らったらマズい系の奴だったのかっ!? なんだとよ」


 ニヤニヤと、ここ数日で変わってしまったらしいわたしの評判を教えてくれるテッド。


「ハウウェル先輩って、敵対する相手には結構容赦しないですからねっ。騎士学校でも、相手が逆らう気も起こらなくなるくらい徹底的に潰してましたし」

「ぅっわっ、なんか今よりめちゃくちゃやべぇ奴じゃん!」

「や、言い方。わたしはそんな、狂犬みたいな奴じゃないから。単に、二度と絡んで来る気も失せる程度には心を折っただけだし」

「うむ。ハウウェルの容姿で、足腰も立たなくなる程痛め付けられた連中の中には、心が折れて不届きな行為から足を洗った奴もいたからな」

「はいっ! 無表情だったり、背筋が凍りそうなくらいの凄艶な笑みを浮かべながら、鬼気迫る勢いで相手をボコっていたハウウェル先輩は、とってもかっこよかったですっ♪」

「ヤだ! ハウウェルが馬鹿共を嬉々としてボコってる姿が目に浮かぶ! 想像するだにめちゃくちゃ怖いんだけどっ!?」

「多分、実際に見ると想像の五倍くらいは怖いですよ~? 殺気とかビシビシ放ってましたし」

る気満々っ!?」

「あのね、そんなワケないでしょ。舐められないようにちょっと……いや、かなり必死だっただけだから。エリオットの戯言たわごとを真に受けないの。というか、毎日毎日片手の数では足りないくらい絡まれ捲ったら、そりゃ心も荒むっての。色々と面倒になって、絡む気も失せるくらいに心を折る方が後々楽だっただけだし」


 本当に、あれだ。絡んで来た奴の顔も覚えてないくらいには、必死だった。あの騎士学校、品行方正な生徒はいることはいたけど、家庭やらなにやらに問題があったり訳ありだったりする連中もそれなり多かったし。しかも、基本は生徒を外に出さないという学校の方針もあって、鬱屈うっくつしている連中はかなり鬱屈していた。それこそ、手近な弱い者を甚振ってその鬱憤うっぷんを晴らそうとする奴もいて、身体的に強くない人にとって、あの騎士学校はかなり厳しい環境だと言える。


「そうですよねっ。絡まれ捲ると、色々面倒になって馬鹿共の扱いはぞんざいになって行きますよね。僕も、一々相手するの面倒になって、お祖父様の七光り使ってましたし。公爵家の権力って、すごいですよね~」

「ぁ~、そっか……フィールズの、アホの子っぽい言動の割になかなか腹黒な思考は、そうやって形成されちまったのか……苦労したんだな」

「ふぇ?」


 ぽんぽんとエリオットの頭を撫でるテッドの手。


「もういいでしょ。こんな話しても楽しくないし、そろそろ帰るよ」

「ぁ~、まぁ・・・なんつーの? ハウウェルはやっぱ、敵対だとか逆らっちゃいけない系の奴だってことがよーくわかったわ。で、なにげにレザンがハウウェルのストッパーなのなー」

「はいっ、レザン先輩が近くにいたことで、心折られずに済んだ人も結構多いと思いますっ!」

「はあ? なにそれ? どういう意味?」

「あまり気にするな。行くぞハウウェル。そろそろ夕食だ」


 と、レザンに腕を掴まれて寮へと戻った。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る