いや、単にコイツがアホなだけだから。


「ヤだ、不憫な子っ」

「いや、単にコイツがアホなだけだから」


 同情するようなテッドの視線に、思わずツッコミを入れてしまう。


「ふぇ?」

「エリオット」

「はい、なんですか?」

「今から外で一人で食べるか、ストールを取ってここで食べるかを選ばせてやる。どうするか決めろ」

「っ!? ひ、一人のごはんは寂しいです……」


 小さく絞り出すような声が言って、はらりとストールが外される。


 瞬間、周囲から起こるざわめきの声。


「あのストール、美少女だったのか……」

「え? 美少女? 制服、男子の着てんぞ」

「うっそ? マジで?」

「ハウウェル様達が女子生徒と一緒の席に……って、あれ? あの子、男子生徒?」

「キャー、美少年が増えたわっ」

「な、仲は良いのかしらっ?」

「ま、ハウウェルみたいな美女系の顔した男もいることだし。他に美少女みたいな男がいても、別におかしくないだろ」

「というか、同じテーブルだし。普通に知り合いだろ、アレ」

「それなら、美少女な顔にも納得だな」

「奴らの知り合いなら変人でもおかしくない」

「あ~、顔はいいのに変人か~」

「なるほどー」


 なんか、エリオットが男だということはわかってもらえているらしいけど・・・よくわからない納得のされ方が広まっている気がする。


 というか、わたし達の知り合いなら変人でも納得って、どういうこと?


 解せない・・・


「?? な、なんですか? 僕の顔、どこかおかしいですか?」


 不安そうな顔できょときょとと辺りを見回すエリオットに、


「いーや、単にフィールズの美少女顔っぷりにみんな驚いてるだけだ。気にするな」


 自信満々に応えるテッド。


「な、なんですかそれっ!? ハウウェル先輩の方が綺麗な顔してますよっ!!」

「は? なに言ってんの?」

「フッ、フィールズはわかってねぇな? 人には好みってものがあるんだぜ? だから、お前がハウウェルの美人さんな顔が好きなように、可愛い系な顔が好きな人もいるに決まってんだろ」

「おおっ、成る程です!」

「ちなみに俺は、お前らの顔で女の子じゃないことが心底残念で、めちゃくちゃもったいないと思っているっ!」

「もうっ、なに言ってるんですか!」

「あのね、アホ言ってないでさっさと食べなよね。全くもう……」

「うむ。皆も、そのうちフィールズの顔を見飽きるだろう」

「そうなんですか?」

「ま、慣れるっちゃ慣れんじゃね? な、リール」

「……俺に振るなっ」


 顔を赤くして、エリオットから視線を逸らすリール。どうやら、まだエリオットの顔には慣れていないらしい。


 さっさとごはん食べて、教室戻ろ。


✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐


 放課後。


 乗馬クラブへ顔を出すと、


「ハウウェル先輩、レザン先輩、メルン先輩っ!!」


 ストールでぐるぐる巻きの頭の怪しい奴が手を振って近付く。さっき、昼食のときに皿にダイブしたストールとはまた別のストールのようだ。


「おー、怪しい奴再びだなー」

「えへへ……グレイ先輩はいないんですか?」

「うむ。リールは乗馬クラブに所属はしていないからな。放課後は勉強をしたいらしい」

「そうなんですか」

「で、君はなんなの?」

「あ、僕も乗馬クラブに入部しようと思いまして。今朝、入部届出して来ました!」

「お、マジで?」

「はいっ」

「な、な、フィールズもコイツらみたいに乗馬上手いん?」


 と、テッドがレザンとわたしを示す。


「いえ。残念ながら僕は、お二人みたいには乗馬は上手くないです。イジワルな馬だと舐められて、僕の言うこと聞いてくれないんですよっ」

「ぁ~、なんかわかる気がする」

「??」


 うんうん頷くテッドに、きょとんと首を傾げるエリオット。


 まぁ、エリオットは相性が悪い馬以外なら、結構ちゃんと乗れると思うんだけどね。


「それにしても、乗馬クラブにハウウェル先輩とレザン先輩がいるとは・・・知ってたら、すぐにでも入部したんですけどね」

「や、別に入らなくてもいい」

「そんな酷いこと言わないでくださいよっ! 僕、ハウウェル先輩がこの学校にいるって聞いて、あちこち探してたんですからっ」

「え? フィールズ、ハウウェルがこの学校いること知ってたん?」

「はい。僕がこの学校に通うことに憂鬱になっていたら、お祖父様がハウウェル先輩がこっちに通っているって教えてくれたんです。学年が違うけど、探せば会えるかもしないって。だから、僕っ……女の子がいっぱいいて怖かったけど、がんばってあちこち行って探してたんですっ!」

「ふぅん……ちなみに、どこを探してたの?」


 新学期になってから、こないだの耐久レースの日までエリオットの姿は見ていない。


 こんな、ストールで顔をぐるぐる巻きにした如何にも怪しい姿をしているというのに、だ。まぁ、コイツ、かくれんぼはかなり得意だから、本気で隠れられると見付けるのはなかなか大変なんだけどね。


「えっと、チェス部とクリケット部と、あと男子のフェンシング部を見に行きました。女の子がいなかったので、入って行き易かったです」

「なんでそのチョイスかな?」


 わたしは別に、そんなにチェスが得意というワケじゃないし、嗜み程度。クリケットも特に好きじゃない。もしかして、女子生徒がいないというだけで見に行ったのか?


 それに・・・


「フェンシングって、入るワケないでしょ」


 思わず呆れてしまう。


「え?」

「うむ。フェンシング部は無いな」


 同意するレザン。


「だよね?」

「ど、どうしてですか?」

「や、むしろ、なんでフェンシング部にいると思ったの?」

「だって、フェンシングだって剣技じゃないですか。だから見に行ったんですよ?」

「あれはスポーツでしょ。レザンやわたしが小さい頃から習っていたのは、実戦を想定した剣だよ。全く違う」


 ルールの定められた、相手を傷付けてはいけないスポーツの剣と、実戦を想定して、害意のある相手から身を守る為に習う剣……もしくは、相手を傷付ける為の手段として使用する剣では、根本からして違うものだ。


「うむ。それに、フェンシングで使用するエペやフルーレなどは細くて折れ易い剣だからな。実戦で使用して、得意とする者もいることはいるだろうが・・・俺は、そんな扱いが難儀な上、脆い剣をわざわざ使おうとは思わないぞ」

「わたしも。剣は頑丈で折れ難くて、扱い易い剣の方がいい。君は?」

「ハッ! 言われてみればそうでしたっ!? 僕も、折れ易い剣は信用できません。あと、フェンシングのルールもよくわかりませんっ」

「やっぱアホの子じゃん」


__________



 ※フェンシングや剣道など、スポーツとしての剣をばかにする意図はありませんので、あしからず。

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