この子ってばハウウェルとは別の意味で不憫な子っ……


「ケイト様はとっても優しいんですね!」


 感激したようなアルト。


 ケイトさんが優しいというか……いや、ケイトさんは実際に優しいんですけどね?


 姉君達におもちゃにされたとは聞いていたけど……エリオットは、想像以上のおもちゃ・・・・扱い・・をされていたようだ。そしてエリオットの様子からすると、姉君のご友人達にも遊ばれていたみたいですねぇ。


 「…… ミラベル様は、 一番下の 弟君を とても 可愛がって いるのだと 仰って いたの ですが……」


 零れる、怪訝そうな呟き。


 まぁ、ある意味とても可愛がっている、と言えなくもない・・・本人の意思を丸っきり無視して。


 可愛がられて? いる方(男のエリオット)からすれば、とんでもなく酷い可愛がり方だと思うけど。


 そんな扱いを十数年間(騎士学校に入るまで)もされていれば、女性を怖がるようになるのも無理はないのかもしれない。


「……ヤだ、この子ってばハウウェルとは別の意味で不憫な子っ……」

「……そんなに恐ろしいのか。年の離れた女兄弟というものは……」


 と、同情するようにエリオットを見やるテッドと青褪めた顔のリール。


 まぁ、不憫と言えば不憫……かなぁ?


「ほら、ケイトさんは君に酷いことはしないから、それとってちゃんと挨拶しろ」

「・・・はい」


 少しの逡巡の後、はらりとストールを外すエリオット。露わになったその顔は……


「び、美少女な顔っ!!」


 汗ばんで張り付いた少し長めの髪、上気した白い肌、長い睫毛、涙に濡れる潤んだ瞳、赤くなった鼻、赤い唇。


 わたしが言うのもなんだけど・・・騎士学校でエリオットは、女顔だと評判だった。わたしとは系統が違うらしいけど。


「なっ!? ひ、酷いですよっ!! だ、誰が女の子ですかっ!?」

「あ? 女の子だとは言ってねーじゃん。けど、部長もハウウェルも美女系な美人さんだけど、フィールズは可愛い系の美少女顔かー。そっかそっかー。いやー目の保養目の保養♪」

「ハウウェル先輩っ、なんですかこの失礼な人っ!?」

「ああ、ここで知り合った知人。というか、エリオット。鼻垂れてる。拭きなよ」


 ポーチの中からハンカチを出して渡す。


「あ、ありがとうございます」

「もー、ハウウェルってば、そんな照れなくっていいんだぜ? 親友だろ、俺達」

「ほ、本気ですかハウウェル先輩っ!? 前のハウウェル先輩なら、女扱いされた瞬間、その無礼な奴に即行で腹パン食らわせて黙らせてたじゃないですかっ!?」


 エリオットの言葉に、ぎょっとしてわたしを見るテッド。


「え? マジ? ・・・謝ろうか?」

「や、わたしはそこまで暴力的じゃないから。勝手に記憶の捏造するな? エリオット」

「捏造なんてしてません! 初めて会ったとき……僕が同級生にいじめられてるときに、そうやって助けてくれたじゃないですかっ!!」

「そんなことあったっけ? 覚えてないな」


 う~ん・・・女顔だって絡まれている下級生を見掛けて助けに入って、絡んでいる輩が、わたしにまでウザいこと言って来たからムカついて、黙らせた・・・・ようなことは何度かあるかもしれないけど。


「ひ、ひどいです! 僕、ハウウェル先輩に助けられて、すっごく嬉しかったのに・・・」

「はいはい、適当な捏造話はいいから。ちゃんとケイトさんに挨拶する。君は、姉君のご友人に挨拶もできないの?」

「っ! そ、そうでしたっ!? 改めまして。僕はミラベル・レトゥナの弟のエリオット・フィールズです。宜しくお願いします、ケイト様」


 ぐしぐしと顔を拭い、挨拶をするエリオット。


「はい。宜しくお願いします、フィールズ様」

「レトゥナ? さっきはフィールズって……あ、そっか。ねーちゃん、もう結婚してんだ?」

「はい! 僕が騎士学校に通ってる間に、姉様達はみーんなお嫁に行きました♪」


 にこにこと嬉しそうな顔。


「そりゃよかったな」

「はい! ……でも、油断はできないです。姉様達、偶に里帰りするんで……こないだも、僕の卒業祝いだって、うちに帰って来て……ぅうっ……」


 どうやら、姉君達に可愛がられたようです。


 そんなことを話していると、馬場を閉めた顧問にまだいたのかと驚かれ、もう暗くなるから早く寮へ戻りなさいと言われた。


「ああ、そう言えばそろそろ夕食だな」

「そうですね。では、失礼します」

「あ、ケイトさん」


 と、行こうとしたケイトさんを呼び止めると、


「セルビア部長、寮までお送りします」


 レザンが言った。


「え?」

「もう大分暗いので。学園内とは言え、女性の一人歩きは控えた方が宜しいかと。おそらく、ハウウェルもそのつもりでセルビア部長を呼び止めたのでしょうが……疲れてもいるだろうから今日は俺が代わりに。いいだろう? ハウウェル」


 ケイトさんへ言い、わたしへと確認。


「ぁ~、じゃあ、ケイトさんを頼む」


 疲れてもいるし、服はよれよれの汗だく。今はちょっと、人には近付き難い格好だ。


 おまけにエリオットの乱入でストレッチもまだできてないし。それに、タックルをかまされた脇腹と倒れたときにぶつけた背中も痛い。あと、すっごくお腹空いた!


「うむ。では行きましょう」

「わかりました」

「れ、レザン先輩っ……」

「はい、君はこっち」


 レザンの服を掴もうとしたエリオットの襟首を掴んで止める。


「ぐえっ!? な、なんでっ……」

「女子寮に行きたいなら止めないけど?」

「は、ハウウェル先輩と行きますっ!!」

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