ライアン先輩っ、お世話になりました!


 卒業式まで秒読みとなった今日この頃――――


「……様~、待ってくださいよ~」


 どこぞで聞き覚えのある高い声を、あちこちで聞くような気がする。


 カフェや学食、校庭、講堂、廊下などなど・・・


 忙しいとは言っていましたが、本当にあちこちを走り回って、高等部の全学年の男子生徒に声を掛けているとは・・・本当にあの人は、仕事熱心ですねぇ。


 まぁ、あのアルレ嬢が声を掛けているのですから、声を掛けられている男子生徒は難ありの子弟ということなのでしょうか?


 ・・・と、思ったところで思い出した。そう言えばわたしも、アルレ嬢に声を掛けられましたねぇ。あれってわたし、難あり子弟だと思われていたということでしょうか?


 まぁ、わたしの条件だけを見ると・・・


 両親には疎まれていて、高位貴族の祖父母には可愛がられている、嫡男ではない貴族子弟。という境遇になるらしい。それを傍から見ると、なにかをやらかしそう……だとか、お家騒動になりそう……に、見えるとか? その辺りを鑑みると、難ありだと思われても仕方ないかもなぁ。


 うん。あれだ。アルレ嬢に声を掛けられているからと言って、全員が全員とも人格に難ありだと偏見を持つのはやめておこう。


 ・・・一応、留意はしておくけど。


「どうかしたか? ハウウェル」

「いや、元気だなぁと思って・・・」

「ああ、アルレ先輩か。あの方も、学園での最後の任務をこなしているのだろうな」


 と、わたしの視線の先のアルレ嬢を感慨深そうに見やるレザン。


「二人共なによそ見してんだ? つか、ライアン先輩の卒業パーティーのこと決めようぜ」

「あ、うん。ごめん」


 テッドに声を掛けられ、そっちに向き直る。


「うむ。それで、いつにするんだ?」

「そーだなー。やっぱ、卒業式の前日や当日なんかは忙しいだろうし……」

「というか、ライアン先輩には知らせるのか?」

「できればサプライズパーティーにしたいとこだけど、やっぱ本人の都合とか予定とか考えると、ライアン先輩の予定を聞いて空いてる日教えてもらわないと迷惑になるよなー……って、どしたよハウウェル? そんなびっくりした顔して」


 考えながら喋るテッドに、思わずぽかんとしてしまった。


「いや、なんか……テッドが普通にまともなこと言ってるから、ちょっと驚いた」

「なんだよそれ、それだと俺がいつもまともなこと言わねーみてぇじゃんかよ」

「……自覚無かったのか」


 ぼそりと呟くリール。


「なーなー、レザン、ハウウェルもリールも俺に少し辛辣じゃね?」

「うん? 俺も少し驚いたぞ?」

「レザンまでひっど!」


 そんなことをやいやい言いながら、ライアンさんの卒業パーティーをどうするか決めた。


 そして――――


 ライアンさんの都合と、部屋に遊びに行ってもいいですか? と確認して、「はい」という了承を得てから、ライアンさんの部屋に押し掛けた。


 最初は驚いた顔をされたけど、笑って部屋に入れてくれて、持ち寄ったお菓子を食べたり、プレゼントを渡したりして、わいわいがやがやと過ごしました。


「「「「ライアン先輩っ、お世話になりました! ありがとうございました!」」」」


「ハウウェルん家でもがんばってください!」

「ええ、ありがとうございます。あなた達も、来年度は頑張るんですよ」


 にこりと微笑み、レザンとテッドへ視線を向けるライアンさん。


「うむ。やれるだけは頑張ろうと思います」


 と頷いたレザンに対し、


「ぐはっ!? ま、まさか今日一のダメージをライアン先輩に食らうとはっ……」


 胸を押さえてくずおれるテッド。


「お前な、いい加減にしろよ?」


 そして 呆れたようなツッコミを入れるリール。


「わかってるって。はい、ライアン先輩。俺もなるべくがんばりまーす」


 それから、みんなでちゃんと散らかした分の片付けをしてお開きになった。


 卒業式まで、あと――――


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


「なぁ、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」


 珍しく真剣な顔をしたテッドが言った。


「うん? 深刻な話か?」

「深刻というか・・・お前らさ、卒業パーティー。なに着てくんだ?」

「……珍しく真面目な顔してなにを言うかと思えば」


 溜め息を吐くリール。


「あっ、なんだその呆れ顔はっ!?」

「普通に制服のつもりだけど?」


 学園主催の卒業パーティーは学期末テストの後の交流会も兼ねているので、卒業生は勿論、在校生も参加できます。まぁ、参加は自由なので偶に不参加という人もいるらしいけど、大体の生徒が参加する華やかな行事になるそうです。


「うむ。テッドは盛装でもするつもりなのか?」

「あ、なんだ制服でいいのか?」

「当然だろ。学校行事だぞ」

「制服でいい、というか……基本的に、この学園はお堅いからね。卒業パーティーでも、派手過ぎたり華美過ぎる装いは教師陣に不評みたいだよ? それに、在校生が卒業生よりも目立つと顰蹙ひんしゅくを買うだろうからね」

「なるほどなー。じゃあ俺も制服にしとくわ。って、そう言やハウウェルってパーティーはやっぱ副部長と出んの?」

「あー、そっか。パーティーかぁ……」


 学校行事とは言え、パーティーはパーティー。


 ちょっと、『ケイト様を見守る会』の人達が強烈過ぎて考えたくなかったのかも。さすがにもうギリギリだし、あとでケイトさんに確認しておかなきゃ。


 なんてったってケイトさんはセディーの婚約者なんだから、しっかりとわたしが虫除けにならないとね! 仮令たとえ、わたしがケイトさんと一緒にいることで、『ケイト様を見守る会』の人達が喜ぶとしても・・・


「ハウウェル、お前なんだその返事はっ! 副部長という美人さんをお誘いできるうらやまし過ぎる状況だというのにまさか乗り気じゃないだなんてとんでも失礼なこと言うつもりかこの野郎っ!?」

「違うから。まだお誘いしてなかったことを、今思い出したの」


 ということにしておこう。相変わらず、この手の話題になるとテッドはウルサくなるな。それに、『ケイト様を見守る会』のことはあまり話したくない……


「ならさっさと行って来いよ! 全くもうっ」


 と、テッドに追い払われてケイトさんをお誘いに行くことにした。


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