ウチの身の上話とかしに来たっす。
今日は、強烈な人に絡まれて疲れた。
早く寝ようとしていたら・・・
コツンコツンと、窓が鳴りやがった。
こんな遅くに人の部屋(一階じゃない)の窓を叩いて安眠妨害しやがる迷惑な輩の心当たりは、どこぞの諜報員見習いくらいしかない。
まぁ、レザンが緊急の用事で窓から訪ねてくる可能性もなくはないけど。それはかなり低い可能性だ。
無視をしても、相手をするか外にいる誰ぞが諦めて去るまで、窓が叩かれ続けることだろう。
「・・・ウルサいなぁ」
溜め息を吐いて、カーテンを捲る。と、やはりいた。黒尽くめの格好をした・・・
「こんばんはっす」
笑顔で挨拶をするアルレ嬢。
「おやすみなさい」
「人の顔見て早々それっすか!」
「毎回言ってるじゃないですか。二度と来ないでください、って」
「ヒドいっすヒドいっす、ウチがなにしたっていうっすかっ!」
「現在進行形で安眠妨害をされていますが?」
「……冷てぇ男は嫌われるっすよ?」
わたしの言葉に、へらりと笑うアルレ嬢。
「存分に嫌ってください。それでは」
カーテンから手を放すと、
「ちっと待つっす! ウチももう卒業秒読みなんでマジ時間無ぇんすよ! それに、テスト期間前後は遠慮してたんすから、ウチの話聞くっす!」
必死な声が追い縋る。
「・・・それで? 話したいこととは?」
カーテンはそのままに、聞いてみた。
「そうっすねー。まずは、今日は変態さん共に絡まれてお疲れ様っした」
「・・・見てたんですか?」
「ハウウェル様が、変態さん共の次期
「え? まともなんですか? あの人達……」
「そうっすね。シバかれたいっつー危ねぇ趣味以外は、至ってまともっす。むしろ紳士的、模範的な生徒で通ってて、教師陣の受けもいいっすね」
「模範的……」
ものすっごくびっくりだよ!
まぁ、シバかれたいという願望が全面に出てないときは一応多分、紳士的? だとも言えなくはないもかもしれない。腰が低くて、上品な雰囲気をまとっていましたし。趣味はアレだけど・・・
「つか、変態さんの現会長は公子様っすからねー。めっちゃ優等生っすよ」
「・・・は? こうし、公子・・・? 誰が?」
「だから、あのセルビア様にシバかれたいっつー人らの現トップが、っすよ」
「・・・公爵令息?」
「そうっす。ついでに言うと、嫡男っす。お偉いさんの息子に生まれると、色々大変なんじゃねーっすか? あの人、セルビア様がムチ振り回してんの見て、ある日突然はっちゃけちまったんす。考えてみっと、セルビア様もなかなか罪作りな女っすよねー」
なにやら感慨深げな声が言う。
「ま、あの人達の活動? は、非公式なものっすからね。ハウウェル様がどんな失礼ぶっこいても、きっと大丈夫っす。あ~、いや? むしろ、喜んだりしたりするかもっす」
「・・・」
確かに……思わず全力で怒鳴ってしまったけど、恍惚とした表情をされて、かなり引いた。挙げ句、ドン引きした顔や蔑みの顔がご褒美だとか言われて、更にドン引いた。ちょっとコワかったし。
・・・アレが、公爵令息。しかも、次期公爵・・・大丈夫なんでしょうか? まぁ、わたしが心配することではないのかもしれませんけどね。
「それで、本題はなんですか?」
これ以上、あの人達について知りたくなかったので話を逸らす。
「話がそれだけなら、もうお帰りを」
「は~、相っ変わらず、ウチにはつれねーっすねー。ま、いいっす。そうっすね、今日は・・・ウチの身の上話とかしに来たっす」
「全く興味無いんですけど?」
「いいから聞くっす。あれはそう……ウチがまだ、子猿の如く野山を駆け巡っていた頃のことっす」
「・・・長くなります? わたし、眠いんですけど? 手短にお願いします。三分くらいで」
「はいはい、要約するっすよ。ウチの家は、クロフト様んとことはまた違った、諜報関係の軍人の家系なんすよ」
「そうですか」
「そうなんすよ。んで、ウチはちっこい頃から、父ちゃんにド田舎の限界集落に放り込まれて、サバイバル訓練も兼ねた自給自足の暮らしをしてたっす」
それはまた、ある意味ハードというか・・・野山を子猿の如く駆け巡っていたというのも、誇張ではないのかもしれませんね。
他人の部屋の窓に張り付く身体能力は、そうやって培われたということですか。
「その、限界集落には、ウチを可愛がってくれた猟師の娘のおねーさんがいたっす。ウチは、そのねーちゃんのことが大好きだったっす。ねーちゃんには、山の歩き方や食べられる野草、野宿の仕方、狼に囲まれたときの対処法、狩りに使える罠の作り方……いろんなことを教わったっす」
可愛い系の顔に似合わず、かなりのサバイバーのようですね。アルレ嬢は。
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