わたしにどう答えろと?


 セディーとケイトさんの二人。ハウウェル家とセルビア家の婚約が周知されてから――――


「ハウウェル先輩のご婚約、おめでとうございます」


 と、上級生の方から祝福されることが増えました。


 わざわざわたしに言いに来るということは、それだけセディーが慕われていたってことになる。

 とてもありがたいことですね。なんだか、わたしまで嬉しくなります。


 勿論、ライアンさんも祝ってくれました。


「セルビア嬢がセディック様の奥方ですか・・・なにかと話題の絶えない方ですが、彼女なら頼もしい奥方になりそうですね!」


 なにかと話題の絶えないってなんなんでしょうか? 次期伯爵だったことか、才女だという評判か、はたまた『ケイト様を見守る会』のことだったりするのか・・・確かに、話題性はありますね。『ケイト様を見守る会彼ら』は非公式にケイトさんを、本当にただ見守っているだけの存在ですが、インパクトはかなり強いですから。


 でも・・・


 こう、あからさまに睨み付けて来る人はなんなんでしょうか? もしかして、フリーになっていたケイトさんとの婚約を狙っていた人……だったりするのかな?

 まぁ、遠くから睨み付けているだけで、特になにかして来るでもないし。危害を加えられるワケでもないので、放ってますけど。


 そして・・・


「ケイト様が婚約したとお聞きしました。ケイト様を幸せにしてくださいね! 絶対ですよ!」


 と、なぜかわたしに突撃して来る女子生徒がいます。上級生だったり、同級生。偶に中等部の女子生徒が来たりします。


 まぁ、これはケイトさんが慕われているのだから、いいことなのでしょう。彼女は面倒見が良くて女子生徒達に人気があるようなので。


 ただ、ケイトさんはセディーの婚約者なんですけどね? わたしにどう答えろと? 百歩譲って、セディーが既に卒業していて、学園に在籍していないから、わたしに言いに来るのだと思っておこう。一応、


「兄に伝えておきます」


 そう返すことにしているけど。


 わたしに突撃して来る女子生徒にテッドが、


「モテ期かこの野郎っ!!」


 なんて言ってたけど、突撃の内容を知ると、


「ま、副部長って女子に人気あるお姉さま系の美人さんだからなぁ。ま、がんばれ。でも、ハウウェルのおにーさんはうらやましいような、ブラコンな副部長に婚約解消されないか心配な気もするぜ」


 と、励まされ? た。


 あとは・・・


 ケイトさんとわたしが並ぶと、なんというかこう、なにかを期待するような熱が籠った感じの視線で見て来る人達がいるんですよね・・・


 そういう人達が不思議で、どこか既視感がある。と思ったら・・・アレでした。ふと、アレは『ケイトさんを見守る会』の人達なのかもしれない、と思い至って、かなり微妙な気分になりました。


 なので、『ケイトさんを見守る会』の方々と思われる人達については、気付かなかった振りを続けていますが。


 そんな感じで人が寄って来ることが多くなったので、近頃アルレ嬢の姿は見ていません。


 このまま何事も無く、三年生の卒業を迎えてほしいものです。


✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐


 そして――――


「……そろそろ、だな」


 お昼を一緒に食べていたリールが、溜め息と共に重々しく呟いた。


「ああ……そう、だったな」


 いつもはノリが軽くて騒がしいテッドが、沈痛な面持ちで低く頷いた。


「……それで、首尾はどうなんだ?」

「範囲が広いと思うぞ!」


 ヤケクソのように応えるレザン。


「一年分、だからねぇ……」


 わたしも思わず、遠い目になってしまう。


 遂に、やって来ましたよ。


 学生という身分では絶対に避けて通ることのできない、宿命とも言うべき通過儀礼。この一年間、学んだことの集大成を確認する・・・学年末テストがっ!!


 学年末のこのテストは進級テストも兼ねているので、テストの結果次第で、来年度のクラス分けに響きます。


 九割以上から八割程の正答率で、大体上位クラス。八割以下から五割程の正答率で普通クラス。五割以下の正答率で下位クラス。


 更には、規定の最低点数を取れなかったりすると、長期休暇前にあった赤点補習なんて親切なシステムは無く、容赦無く留年が決定してしまう重要つ重大なテストです。

 ちなみに、卒業(見込み)生は留年できるのは二回までだそうで、卒業試験に三回落ちると退学になるそうです。


 勿論わたしは、留年はするつもりは無い。それはお祖父様達に申し訳ないから。


 範囲広いけど、勉強頑張らないとなぁ・・・まぁ、上位クラスに入れるような自信は無いけど、とりあえずは普通クラスから落ちないようにはしたいなぁ。


「……言っておくが、俺は自分の成績が優先だからな。お前らの面倒なんて見ないぞ」


 ギロリとわたし達を見回し、レザンへ視線を留めるリール。


「うむ。俺とて、特待生の邪魔をするつもりは無いからな。俺のことは捨て置いて、リールは存分に励むといい」

「おう、とりあえずの最低目標は留年回避っつーことで・・・頼りにしてるぜ、ハウウェル!」

「なんでわたしに言うかな?」

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