セルビア伯爵の娘は才女として有名だからな。


「では行くか」

「ふふっ、セディーが選んだ子がどんなお嬢さんなのか楽しみねぇ」


 ピシッとしたスーツに、控えめなドレス姿というお祖父様とおばあ様。


 今日は、セルビア伯爵家へ挨拶に行く日です。


 お祖父様とおばあ様の気合は十分。


「セルビア伯爵の娘は才女として有名だからな」


 確かに。ケイトさんは有名でもおかしくない。

 むしろ、婚約を解消した後、今まで婚約者がいなかったのが不思議だ……と、一瞬思ったけど、リヒャルト君を大切にしない男は願い下げだと言っていたことを思い出す。

 それに、結婚をしないでリヒャルト君のサポートをして生きていくつもり、なんて言っている現場に遭遇してしまったこともあった。


 あの時点ではケイトさんは、結婚に関して乗り気じゃなかったようです。ということは・・・ケイトさんの独身を貫くというその決心を覆したセディーってば、ちょっと凄いのかも。


「そうですね。ケイトさんは成績優秀な上、剣も馬も扱えるそうで、文武両道な方ですね」

「あら、なんだかセディーよりも随分と頼りになりそうなお嬢さんねぇ」

「まぁ、もしも喧嘩になったら、まず僕は勝てそうにないですね」


 うん。まぁ、セディーは普通に負けると思う。ケイトさんは剣だけでなくて、ムチも扱うし。なんというか、女性にこう言っちゃ失礼だけど、ケイトさんの方がセディーよりもかなり逞しいと思う。


「ふふっ、それは益々楽しみだわ」


 クスクスと嬉しそうに笑うおばあ様。


「それにしても、ネイトは随分と静かねぇ? どうしたの?」

「いえ、なんか、緊張して……」

「あらあら、向こうにはもう何度も遊びに行ってるじゃない。今更なにを言ってるんだか」

「遊びに行くのと、改まっての挨拶とでは心構えが違うと思います」


 それに、セルビア伯爵と会うのは今日が二度目。前回は・・・セディーがケイトさんと同等? くらいのブラコンだと発覚して、なんだか疲れた顔をしていましたねぇ。


 今日は大丈夫でしょうか?


「もう、ネイトの婚約ってワケでもないんだから、もっと気楽になさいな」

「そうそう、別に向こうのご家族に嫌われているワケじゃないんだから、大丈夫だよ」


 セディーとおばあ様には、緊張した様子が見られない。顔はわたしの方がおばあ様に似ているのに、こういうところは二人共似ていると思う。ちょっとうらやましいかも。


「いつもみたいに、リヒャルト君に会いに行くんだとでも思ってればいいんじゃないかな?」

「そういうワケにもいかないでしょ」

「そうよ、弟さんのリヒャルト君に会うのも楽しみだわ。あなた達の話によると、とても可愛らしい男の子なんですもの」


 そんな話をしながらセルビア伯爵家へ向かい、両家揃っての挨拶は――――


 思ったよりも呆気なく、というか無事終了。


 お祖父様とセルビア伯爵が挨拶をして、セディーとケイトさんの婚約についての了承と同意。


 それから、お茶会になりました。


 にこやかに話すおばあ様とセルビア伯爵夫人。世代が違うのであまり交流はなかったようですが、貴族夫人の参加するお茶会などでの顔見知りだったようです。


 人脈というやつですね。誰かさん・・・・には無い……いや、考えるのはやめておこう。


 お菓子もケーキもお茶も美味しいですね。


 穏やかに微笑んでいるセディー。そして、リヒャルト君を愛おしげに見詰めるケイトさん。相変わらず、ブレませんねぇ。


 リヒャルト君は、


「ネイトにいさまとそっくりです」


 と、わたしとおばあ様を見比べて驚いていた。


 まぁ、自分で言うのもなんだけど、わたしはおばあ様にかなり似ているからなぁ。髪色は……おばあ様は金茶に白髪混じりだけど、瞳の色はペリドットで同じ色。顔の造作も似ている。わたしは男だけどね!


 それから、じっとしているのに飽きて来たリヒャルト君の相手をしていると、


「前から思っていたのですが、ネイサン様は随分と小さい子の相手に慣れていますよね? セディック様はそうでもないのに」


 ケイトさんが言った。


「ああ、わたしの婚約者が……五つ年下なので」


 小さい子と遊ぶのは結構慣れている。まぁ、スピカは女の子だけど。クロシェン家にいた頃は、ロイと二人で(偶にロイは逃げたりしてたけど)よくスピカと遊んだものだ。


「そうだったのですか」

「はい。あの子と初めて会ったときは、リヒャルト君よりも小さな……歩き始めくらいの赤ちゃんだったんです」


 懐かしいなぁ。初めて会ったときは、赤ちゃんと接したことがなくて・・・なのに、スピカがいきなりわたしの腕に乗って来て、すっごく焦った。おまけに、抱っこするのが下手くそだとロイに鼻で笑われた。


 それから、クロシェン家で一緒に暮らすようになって・・・スピカにはとっても困らされたっけ。


 赤ちゃんが、その見た目の可愛さとは裏腹に、偶に悪魔に見えることを知った。


 始めは人間の言葉が通じなかったのが、ちょっとずつ意思疎通ができるようになって行って・・・


 『ねえさま』とわたしを慕うようになって・・・


 スピカとロイに振り回されて・・・


 五年間、本当に色々なことがあって・・・


 別れたときが、丁度今のリヒャルト君くらいのとき。あれからもう、六年程が経つ。


 スピカはもう、大きくなっているんだろうなぁ。


「ネイトにいさまのこんやくしゃさんは、あかちゃんなんですか?」


 きょとんとわたしを見上げるリヒャルト君。


「ふふっ、違いますよ。わたしと初めて会ったときが赤ちゃんだっただけで、今は……そうですね。あの子は……スピカは、今年で十一歳になりますから。リヒャルト君よりも年上の女の子ですよ」

「ぼくよりも、おねえさま?」

「はい」

「かわいいおねえさまですか?」

「ええ、とっても可愛い女の子です」


 わたしのことを大好きだと言って、一生懸命に追い掛けてくれた……一番可愛い、女の子。


「きょうは、こないんですか?」

「はい。わたしの婚約者は・・・遠くに住んでいますからね」

「かわいいおねえさま、おあいしたかったです」

「いつか、お会いできるといいのですが」

「そうですねぇ」


 なんかちょっとだけしんみりした気分になって、両家の挨拶が終了。


 お祖父様もおばあ様も、ケイトさんのことを気に入ってくれたようです。


 よかったよかった。


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