ちょっとその威力に驚いてしまっただけです!


「なんでそうなる!」


 レザンのアホな言葉に、思わず突っ込む。


「うん? 違うのか? セルビア副部長は剣を扱うのだと言っていたからな。それ以外で仲良くなるには・・・そうか、遠乗りでもしたのか」

「それも違う」


 まぁ、剣よりはマシだけど。


「ふふっ、クロフト様は面白いですね」


 クスクスと笑うセルビア嬢。今の言葉を冗談だと思っているみたいだけど、きっとコイツは本気で言っている。なにせレザンは、脳筋だから!


「実はこの度、わたくしケイト・セルビアは、セディック・ハウウェル様と婚約致しました。なので、ハウウェル様ではなくて、ネイサン様とお呼びしようと思ったのですよ」


 セルビア嬢が事情を説明すると、


「へ? マジでっ!?」


 テッドが目をまんまるにして聞いた。


「うん。わたしもまだ実感湧かないけど、この休日の間に、セディーがセルビア嬢に婚約を申し込みに行ってね。セルビア嬢とお父上のセルビア伯爵から、婚約了承の返事を頂きました」

「そうですか。おめでとうございます。セルビア副部長、ハウウェル」


 レザンの祝福の言葉。


「ありがとうございます。クロフト様」

「うん、ありがとう。まぁ、婚約したのはわたしじゃなくて、セディーなんだけどね?」

「めでたいことに変わりはないだろう」

「うん」

「マジかぁ・・・まさかのブラコン同士の婚約とは・・・ハウウェル、副部長の弟さんと仲良くしないと、そのうちおにーさん婚約解消されちまうんじゃね?」

「テッド、失礼だよ」

「ふっ、ふふっ……いえ、大丈夫ですよ。メルンさんの仰る通りですから。ええ、リヒャルトを大事にできないような男なんか、願い下げですもの。勿論、セディック様も同様。ネイサン様を大事にできないような女性は願い下げだそうですよ? この婚約は、どちらかが相手の弟を蔑ろにした時点で解消となることでしょう」


 晴れやかな笑顔で言われた言葉だけど、かなりヒヤリとする内容。これは冗談などではなく、紛れもない本気なのだと、本能で感じる。というか、リヒャルト君を大事にできない男は願い下げだと言ったときの目は、ガチでした。


「・・・そ、そうですか。肝に銘じておきます」


 セディー・・・セルビア嬢から願い下げの男って言われないよう頑張ろうね!!


「・・・なんか、すまん。余計なこと言ったわ」


 ぼそりと謝るテッド。


「うん、反省して」

「そういうワケで、ネイサン様も、わたしのことはケイトでよろしいですよ」

「あ、はい。え~と、その……ケイト、姉上?」


 気恥ずかしい思いでもごもご言うと、


「っ!?」


 「…… リヒャルト にお姉様 と呼ばれる のもいい ですが、 ネイサン様に 姉上と 呼ばれる のもまた、 違った 感覚で いいもの ですね。 セディック様が リヒャルトの お兄様呼び を喜ぶのも、 道理と言いますか ……」


 セルビア嬢が驚いた顔をして、凄く真剣な表情で小さくなにかを呟いた。


「? あ、その、お気に障りましたか? ケイトさん、の方がよかったでしょうか?」


 なんだか不安になる。今まで、あまり同年代の女の子と接したことがなかった。なにか不快な思いをさせてしまったのだろうか?


「っ、い、いえっ! そんなことは全くありませんっ!! いつもはリヒャルトに姉様と呼ばれているので、姉上と呼ばれるのは慣れていなくて、ちょっとその威力に驚いてしまっただけです!」


 慌てて否定するセルビア嬢。


「? 威力?」

「そ、その、ネイサン様が呼び易いように呼んでくださいね! また、いつでも姉上と呼んで頂いても構いませんので!」


 セルビア嬢……ケイトさんの頬が赤い。


 もしかしてこれは、照れているのでしょうか?


「はい」

「では、その、そろそろ乗馬をしに行きましょうか?」


 と促され、厩舎へ向かうことにした。


 いつもの凛とした佇まいは素敵ですが……慌てた顔や、照れた顔をするケイトさんは、少し可愛いかもしれない。


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