メンタル強いなぁ、この人。


「その、ここではちょっと・・・もっと人が少ない場所はダメ、でしょうか?」


 きょろきょろと辺りを見回す彼女。


 ハハっ、そんなの当然・・・駄目に決まってんじゃん。要注意人物確定だな。


 さて、どうしようか・・・?


「人目をはばかりたいようなお話がしたいのでしたら、わたしではなく同性の方とお話しては如何でしょうか?」


 まだ、名乗られてすらいないし。


 わたしは、歴とした婚約者持ちの男だ。スピカは隣国にいるとしても。見知らぬ女性と二人きりで話すことなんか無い。


「わたくしは、ネイサン様とお話がしたいのです」

「すみません。わたしはこれから、クラブがあるので失礼します」

「えっ?」


 いや、えっ? って、なんでそんな驚いた顔しているんですかね? というかそもそも、名前すら名乗らないような不審者と話すことなんてありませんよ。


「待ってください!」

「なんですか?」


 う~ん・・・言外に、話をするつもりはないと言ったんですけどねぇ?


 メンタル強いなぁ、この人。


 まぁ、学年の違う男子に一人切りで話し掛けて、それも初対面のクセにいきなり他人の家のセンシティブな話題(セディーが身体が弱かったとか)を振って来るような人ですし? お茶会の席でも、もっと婉曲な表現でのいやみを言うものなんですけどねぇ?

 更には、こちらが警戒しているというのに、親しくなりたいだとか、「二人っきりでお話をしましょう?」それも、「人目の少ない場所で」と来ましたよ? きっとこの人は、繊細さとは無縁な人なのかもしれませんね。


 まぁ、アレですね。彼女は淑女ではないのかもしれません。淑女とは言えないような女性と親しくしてはいけないと、お祖父様とおばあ様から言い付けられていますし。


 うちはただでさえ、あの人がアレな感じなのに。これ以上、変な女性はお断りです。


「では、失礼します」

「え?」


 え? って、なんでまたそんな驚いた顔しているんですかね? それはもう、しっかりキッパリとお断りしたのに。

 というかそもそも、一応制服から判断すると先輩っぽくはありますけど、未だ名前も名乗らないような不審者と話すことなんか無いし。そんなの常識では?


「待ってください、ネイサン様っ!」

「・・・なんでしょうか?」


 しつこい人ですね。なんなんでしょう? ホント。思わず溜め息が出る。


「遅いですよハウウェル様! 早くこちらへいらしてください!」


 どうしようか? と少し迷っていたら、涼やかな声にピシャリと呼び付けられました。


「すみません、副部長! それでは失礼」


 と、名乗りもしない不躾ぶしつけな女子生徒から逃げ、わたしを呼んでくれた副部長の方へ向かう。


 まぁ、乗馬クラブは基本、参加は自由なのでこんな風に呼び付けられることは無いそうなんですが。


「呼び出しありがとうございます、セルビア嬢。助かりました」


 わたしを呼んだ声の主にお礼を言うと、


「いえ、お困りのようでしたので。ですが……まだこちらを見ていますね、彼女。差し出がましいかと思いますが、もう少しお話でもしていた方がいいかもしれません。勿論、ハウウェル様が宜しければ、ですけど」


 相変わらずのキリっとした表情。それでいて、気遣いが利いています。


「差し出がましいなんてとんでもないです。・・・では、セルビア嬢。あの方は、乗馬クラブには?」


 乗馬クラブの部員なら、今後も馬場で絡まれる可能性がある。その場合は、早朝に時間をずらして馬に乗るしかない。


 まぁ、騎士学校は偶に朝の四時とか五時くらいから、抜き打ちの早朝訓練とかあったし。実は、今もあんまり朝は得意じゃないけど、七時くらいならまだなんとか・・・イケる、かな? ああ、でも馬に乗っていられる時間は短くなりそうだなぁ。


「大丈夫ですよ。彼女は部員ではありませんので」

「そうですか。それは助かります」


 朝にバタバタするのは、やっぱり大変そうだし。放課後にはゆっくりと乗馬ができる。


「ええ。ですが・・・ハウウェル様は、彼女には気を付けた方が宜しいかと」


 セルビア嬢の表情が曇ります。


「そうですね。失礼ですが、セルビア嬢は彼女とはお知り合いで?」

「知り合い、と言いますか・・・彼女はある意味有名ではありますね」


 この口振りからすると、十中八九は良くない意味での有名なんだろうなぁ。まぁ、あの不躾ぶしつけさからして、お察しという感じではあるけど。


「あの方は高等部三年生の、裕福な平民の方なのですが・・・」

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