はい、解せませんね。
乗馬クラブに入部して早数日。
わたしとレザンは・・・
「乗馬のこつを教えてくれないか?」
「暴れ馬を手懐ける方法は?」
「どうしたら馬に舐められなくなるだろう?」
という男子生徒達。
「馬が怖くて……」
「わたくしにも教えてくださいな」
「まぁ、素敵なリボンですね」
「今度、お茶でも如何かしら?」
という女子生徒達に、囲まれています。
はい、状況がおかしいですね。解せませんよ?
なぜレザンは男子生徒に囲まれているのでしょうか? いや、確かに。わたし以外の友人を作れとは言った。それについては、いい。
けれど、解せないのは……これだ。
「その、
「あ、ズルいですわ! それでしたらわたくしも」
「そんな、彼女の迷惑も考えなさいな」
はい、解せませんね。
なぜにわたしは、女子生徒だけに取り囲まれているのでしょうか?
しかも、ちょっと……なにを言っているのかわからない女子生徒が交ざっています。
いえ、言っていること自体はわかりますが、
「その、二人乗りはお断り致します。どうしてもと言うのでしたら、婚約者の方へお願いしては如何でしょうか?」
はい。婚約者でも身内でもない女性と、二人乗りなんかできません。切羽詰まったような緊急事態以外では、となりますが。
というかわたしは、馬に二人乗りをするなら、スピカを乗せてあげたいんだけど?
「実はわたくし……横座りではなくて、ちゃんとした乗馬がしたいのですわ」
「女が乗馬をするだなんて、と嫌な顔をされてしまわないかしら?」
「理解の無い殿方もいますものね」
憂鬱そうな溜め息を吐いて訴える女子生徒達。
「そうですわ。サロンで一緒に、お茶でもしながらお話しませんこと?」
にこりと、上級生の彼女がわたしに微笑む。
「いえ、わたしは馬に乗りに来たので」
あと、婚約者でもないし身内でもない上、親しくもない女性達に囲まれてお茶なんてしたくない。この人達とは、ほぼ初対面だと思う。名前だって知らない。
「まぁ、お断りされると悲しいですわ」
悲しげな表情の上級生の女子。けれど、その瞳の奥に冷ややかな色が見え始める。
どうやらわたしは、彼女の気を損ねてしまったらしい。同時に、他の女子生徒の顔が気まずそうに曇って口を閉じる。とそこへ、
「あなた方、そこまでにしておきなさい。ネイサン・ハウウェル子爵
涼やかな声がわたしのフルネームを言って割り入り、令嬢達がぱちぱちと瞬いてわたしを見上げる。
「ぇ?」
ぽかんと驚いたような声が上がる。
「乗馬でしたら、わたしが教えて差し上げます。順番に、こちらへどうぞ」
乗馬服のセルビア嬢が現れ、キリっとした表情で女子生徒達へ手を差し出す。
「そ、その……困らせてしまってごめんなさい」
さっと、わたしの側を離れるときに、最初に二人乗りで教えてほしいと言った女子生徒が申し訳なさそうに小さく謝った。
・・・どういうこと?
それから――――
わたしから離れた位置で、セルビア嬢が先程の彼女達へと乗馬を教えているのが見えます。
えっと・・・とりあえずわたしは、セルビア嬢に助けられたようです。
そのことについては、後で感謝を伝えることにしましょうか。助かったのは事実ですからね。
まぁ、それはいいんです。
けど、少し落ち着こうか、わたし。
深く深呼吸をして――――
「はぁ~~」
と、頭を冷やす。
でもなんかむしゃくしゃしたので、人が少なくなって来たのを見計らってから、馬を爆走させた。
「やる気だなっ、ハウウェル!!」
と、レザンが張り合って来て、暗くなるギリギリまで馬に乗っていた。
思いっきり走って、ちょっとスッキリした。そして、さすがにそろそろ夕食の時間になるのでと、馬を厩舎に戻して帰ろうとしたときだった。
「少々宜しいでしょうか? ハウウェル様」
少し硬い表情のセルビア嬢へ声を掛けられました。ああ、そうでした。彼女には、さっきのお礼をしなきゃと思っていたんだった。
「では、俺は先に帰っているぞ」
と、レザンがひらりと手を振って先に帰ったので。
「先程はありがとうございました、セルビア嬢」
セルビア嬢へお礼を言った。
「いえ。それはいいのです。それより、少し言い難いのですが、ハウウェル様は……」
どことなく、気の毒そうというセルビア嬢の視線が注がれているような気がします。
「はい、わたしが?」
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