ま、待ちたまえ、君達っ!


 最近、なんだか浮いているような気がします。


 なんでしょうね? 様子を窺われているような感じがして……微妙に視線が気になります。


 まぁ多分、様子を窺われているのは十中八九、レザンのせいなんだと思うけど。


 気の毒そうな視線、に近いのかもしない。


 実際、アイツに絡まれるのは面倒なんだけど。


 そう、思っていたら―――― 


 ある日の放課後。


「そう言えば、知っているか? ハウウェル」


 そんなことを言って、相変わらずわたしに絡んで来るレザン。


「・・・なにを?」

「この学校には乗馬クラブがあるらしい」

「へぇ・・・それは知らなかったな」

「乗馬クラブに籍を置けば、いつでも馬に乗れるぞ。ハウウェルは馬が好きだっただろう? というワケで、一緒に入らないか?」


 好きなときに馬に乗れるというのは、確かにとても魅力的だ。


 偶に、無性に馬に乗りたくなるときがある。


 騎士学校では乗馬の授業があったけど、この学園には乗馬の授業は無いみたいだし。休日にお祖父様の家の馬に乗るまで、我慢するしかないと思っていた。


 魅力的ではある。但し、レザンが付いて来るのは・・・若干の悩みどころだ。


 勝負とか吹っ掛けられるのも面倒だ。


 あ、でも逆に。乗馬クラブに入れば、レザンにわたし以外の友人ができるかもしれない。そう考えると、なかなかいいことではないだろうか?


「どうだ? ハウウェル」

「いいよ。但し、君はわたし以外の友人を作ること。お父上からの命令なんでしょ?」


 これで、わたしにかまける時間が減るだろう。


「ふむ、成る程。ハウウェル以外のライバルを作れということだな!」

「あ~・・・うん。なんかもう、それでいいよ」


 というか、ライバルって・・・遠慮したいなぁ。


「よし、では早速行くとしようじゃないか!」


 とレザンに引っ張られていたら、


「ま、待ちたまえ、君達っ!」


 少し上ずった声で、意を決したような顔をした先輩に呼び止められた。この人は確か……セディーの後輩だと紹介された人だ。


 なんだかとても緊張しているようだけど?


「うん? なんでしょうか?」


 先輩を見下ろしながら先に口を開いたレザンに、


「ち、近頃、君はよくハウウェル君を連れ回しているようだが……い、嫌がっている人を無理矢理連れ回すのは、よくないと思うぞ!」


 若干顔色を失くしながら言う先輩。


「・・・無理矢理、だっただろうか? ハウウェル」


 きょとんと首を傾げるレザン。うん、わかってた。コイツが無自覚なのは。


「まぁ、君はいつも強引だからね。もっと人の話を聞くべきだと、いつも・・・思っているよ」

「成る程、留意しよう」

「うん。ちゃんと留意して」

「わ、わかったというのならっ、すぐにハウウェル君を放したまえっ!」


 これって、もしかして・・・?


「なぁ、ハウウェル」


 ぱちぱちと瞬いてわたしを見下ろすレザン。


「なに? レザン」


 ちなみに、レザンはわたしをファミリーネームで呼ぶけど、わたしは彼を名前で呼ぶ。

 なんでも、彼の上の兄弟もあの騎士学校を卒業した先輩で、クロフト呼びだと兄弟の誰を指しているのか紛らわしいから名前で呼んでほしい、とのこと。


「これは……もしかすると、俺がお前を虐めていると思われているのだろうか?」

「もしかすると、そうかもしれないね」


 はなはだ不本意ではあるけど。おそらくは、長身の強面男子に無理矢理連れ回されている男子生徒、という風に見られているのかもしれない。


「君っ、そんなことをハウウェル君に聞くのはやめたまえ! 脅して言いなりにさせるのはやめろ!」


 まぁ確かに、通常は虐めている側が虐められている当人に、「自分はお前のことを虐めているのか?」と聞くというのは、間違っている質問かもしれない。

 端から見れば、それはもう、虐めている側が「違うよな?」と、虐められている子に圧力を掛けているように見えることだろうし。

 騎士学校では、よく見た光景でもある。


 まぁ、レザンに迷惑しているのは事実だが、わたしは彼に虐められているワケではない。振り回されて、かなり迷惑はしているが。


 どうやら先輩は、わたしが困っていると思って、レザンを注意しに来てくれたらしい。かなりいい人のようだ。


 確かに、困ってはいるんだけどね?


 どう誤解を解こうかと思っていたら・・・


「……ぷっ、ハハハハハハっ!」


 と、レザンがいきなり笑い出す。


「な、なにがおかしいっ!?」


 レザンに怯えつつも、ムッとする先輩。


「ぃ……いや、ハウウェルを、いじめられっ子と、勘違い……するだなんてっ……ぷっ!」


 レザンがぷるぷると震え出す。いや、全く笑いを堪え切れていないんだけどね。


「くくっ……失礼、先輩。コイツは……ハウウェルと俺は、この間卒業した騎士学校の同期です。しかも、コイツは、騎士学校時代には、絡んで来た連中を片っ端から撃退していたので、素直に虐められるようなタマじゃないですよ。むしろ、集団で絡んで来た連中が、血相変えて逃げ出すまでやり返すような奴ですから」


 ニヤニヤと笑うレザンに、


「え? その顔で?」


 ぽかんと驚く先輩。


「ええ、この顔で、です」


 この顔で、ってどういう意味なんだか? なんかこう、バカにされているような気がする。


「しかもコイツ、剣の授業で主席だった俺と打ち合いができるくらいに強いんで。心配は無用です」


 いや、君が主席だったのは剣だけじゃないでしょ。しかも、三年間総合で主席独占だったし。座学は、十位くらいだったみたいだけど。


「・・・君と?」

「ええ。俺と、です」


 レザンの言葉に、わたしを見下ろしたりレザンを見上げたりと、交互にわたし達を見比べる先輩。


「ほんとう、なのか? ハウウェルくん」

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