虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い
月白ヤトヒコ
はるばるやって来た隣国。
爽やかな青空の下。
兄上から「道中でおやつにして」と持たされた焼き菓子を摘みながら、何日も馬車に揺られ――――
はるばるやって来た隣国。
辿り着いた屋敷の玄関前。祖父母が用意してくれた荷物を降ろしてもらっている間。
「お前さ、自分ン家でなにやらかしたんだよ? なんでわざわざうちに預けられたんだ?」
留学という
同い年だという彼は、良くも悪くも男の子らしい男の子のようで、わたしのことを見定める為に、一発ガツンとかましに来たのだろう。
まぁ、初対面の男同士なら、よくあることだ。
家にいたときにも、家同士の付き合いというやつでそれなりにあったこと。兄上が虚弱なので、その弟であるわたしはどうなんだ? と、窺うような言動には慣れている。中には、少々失礼なことをして来るような子供もいたし。
いつもなら適当に、けれど舐められない程度には流してあしらっている。
けれど、今のわたしは長旅に少々疲れていて、いつもより気が立ってもいた。
だから――――
「わたしの家はね、兄上を中心に回っているんだ。ああ、いや。正確に言うと、兄上を中心にしたい母が回している、という感じかな?」
にっこりと微笑んで、彼に説明してあげることにした。
「は? なんだそりゃ」
わたしが、彼の…わざわざ隣国の親戚である、この家へと預けられた理由というのを。
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わたしには身体の弱い兄がいてね。
三つ年上のセディー…セディック兄上は特定の病気などではないけど、よく体調を崩して寝込んでしまうような虚弱体質で、あまり外へは出られなかった。
一応、わたしとセディーは正真正銘同母間の実の兄弟で、同じ家に住んでいたんだけど、小さい頃には毎日顔を合わせることはなかったよ。
彼の体調が良いときにだけ会える、ベッドの上の友人。わたしは兄上のことを、そんな風に認識していたように思う。
ちなみにそれまでは、兄上は『ベッドの上の友人』で、母はその『友人の面倒を見ている心配性な女の人』、父のことは偶に疲れた顔で、『心配性な人を慰めに来るおじさん』という認識だった。
わたしも大概だよね。
まぁ……そんな風に思うくらい、わたしと彼らとの接触は薄かったんだけど。聞いた話に拠ると、わたしは生まれて数ヵ月で祖父母に預けられて、二歳半で両親の下に戻ったんだって。それも関係していたのかな?
それで、母は兄上が心配だと、ずっと付きっきりで看病していてね。いつも疲れた顔をしていた。
兄上は母が常に側にいることで気疲れするらしく、「偶には一人になりたいんだけどね」と苦笑しながらひっそりとわたしに零していたのだけど……
母がね、「セディーのことが心配なの」と言って側から離れようとしない。
無理に兄上から離すと、「丈夫な身体に産んであげられなくてごめんなさい」と泣き出して、情緒が酷く不安定になるんだ。
父は忙しい仕事の合間に、そんな母の相手をして、宥めたりと大変そうだった。
よく体調を崩して顔色の優れない兄上も、兄上を心配して情緒不安定になる母も、その母を宥める父も、みんなそれぞれにいつも、色々と大変そうで、とても疲れていそうだったから。
そんなわたし達は、家族ではあるのだけれど、毎日顔を合わせるということがなかった。数日に一度。下手をすると、月に数度程度の接触かな?
そして、みんな自分達のことで手一杯でね。跡取りの長男じゃなくて、滅多に風邪もひかないくらい健康で、特に問題の無かったわたしのことには、あまり手が回らなかったらしい。
兄上は具合が悪くないときにはわたしに構ってくれて……ああ、わたしは兄上を友人だと思っていたけど、兄上はちゃんとわたしを弟だと認識していたよ?
けど、母が少々……ね。「ネイトは走り回れる程に健康でいいわね。ネイトの健康を、少しでもセディーに分けてあげられたらいいのに」と、兄上を不憫がってしきりとそう零していてね。
病弱な兄上と健康なわたしをなにかと比べて、兄上が可哀想だと、わたしを恨めしそうな目で見る。
わたしはあまり母に懐いてなくて……いや、『
だから母は、そんなわたしを可愛いとはあまり思えなかったのかもしれないね。
母自身にはそんな自覚は無かったのかもしれないけど、そういった母の態度に、兄上がわたしへ申し訳なさそうな顔をするんだ。
そして、兄上の元気がないと、母の情緒が不安定になるという悪循環に陥ってしまう。
それでわたしは、母がいるときにはあまり、兄上の部屋には近付かなくなった。まぁ、母が兄上の側にいない時間はとても短いんだけどね。
夜に母の目を盗んでこっそりと遊ぶというのも、なかなか楽しかったよ。
そんなこんなで、わたしは両親というより、祖父母や乳母、わたし付きの使用人、そして家庭教師達に育てられたと言っても過言ではないかもしれない。
明確になにが、誰が悪かったから
その分、お祖父様とおばあ様に気に掛けてもらっていたというのは、とても幸運なことだね。
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