13. 小さな冒険
テントを出て二人で支流を遡った。あまり人が入っているようには見えない細い支流は、左右の岸からトゲのある下草が大きく張り出していた。
トゲを避けて飛び石を飛ぶ、この近くで育ったくせに秋子はこうした場所に慣れていないらしい。石に飛び乗ってふらつく彼女の手をとるだけで、俊彦はいっぱしの男になれた気がして誇らしかった。
流れが突然途切れ、水が枯れた。耳を澄ますと丸い石の下からかすかに水が流れる音がする、音をたどって先まで行くと流れがまた現れた、膝上まで浸かる沢を二人は靴を履いたまま進んだ。急に秋子の気配が消えた気がして俊彦が振り返ると、秋子は岸でジーンズを脱いでいた。
「女の子ってさ、制服のスカートの下とか絶対それ穿いてるよね、蒸れないの?」
秋子はジーンズの下に夏の体操着を穿いていた。
「見えても平気だし体育の着替とか楽じゃないですか、帰ったら部屋着にもなるし、冬はスカートでも暖かいし。今日はバイクでお尻が痛くなるかなって」
「なるほど、尻パット代わりか」
秋子の素足が澄んだ水に吸い込まれるように沈んでいく、白い運動靴と畳んだジーンズは岩の上に置いた。そこから沢は細くなったり太くなったりを繰り返した、出合は小さな支流にしか見えなかったのに上流はずいぶん変化に富んでいる。二人は最初の冷やかし気分も忘れて、先へ先へと争うように遡っていった。
小さな滝を越えたところで少し先に広い淵が見えた、人の背丈ほどある滝が流れ込む淵は直径が十五メートルほどもあって、丸い形は池のようでもあり、大きな滝つぼにも見えた。淵は左右を急な崖に挟まれていて、その先へ行くのは簡単ではなさそうだった。俊彦が腕時計を見ると四時半を指している、夏とはいえあと二時間もすれば日が暮れはじめる。谷に充満した青白い空気も、もうすぐここが漆黒に包まれることを知らせていた。
「せっかくここまで来たんだし、この先がどうなってるのかだけ、分かんないかなあ」
独り言を言いながら俊彦は手早く服を脱いだ、視線を感じて横を見ると秋子が目を丸くして一点を見つめていた。こんなもの君は見慣れているはずだろ?――そう思ったが、考えてみると秋子は俊彦の普段のものをあまり見慣れていないのだ。
だが俊彦のそれはまだ若いロシア胡瓜のように頼りない、たまに風呂で驚くほど立派な長茄子を下げている男を見ると俊彦は羨ましくなる。そんな男に限ってそれを堂々と晒して歩くものだから、周りにいる普通の男たちは自分のものを隠しながら居づらい空気を味合わなければならない。
だがこの時、もしかして女の子同士でも同じなのではないだろうかと俊彦は思った。湯小屋で会った三人組の女の子を思い出す、一人だけ胸の大きかったみずきという娘はそれを隠さずに堂々と歩いていた、だが残りの二人は終始自分のそれを隠そうとしていた。
もし自分が女の子で秋子やみずきのような立派な胸を持っていたらどうだろう、長茄子をぶら下げた男のように、誇らしくて晒して歩きたくなってもおかしくない気がする。
もしそうならそれは男女の間にも通じるのかもしれない、秋子と初めて会った時から年下の彼女になんとなく引け目のようなものを感じていた理由は、もしかしたら……。
俊彦は秋子に尻を向けて滝を目指した、水に削られて底なしになっていてもおかしくない滝つぼも、注意して近づくと水は臍の辺りまでとそれほど深くはなかった。
真下から見上げた滝は岸から見たときよりもずっと高く見えて、苔が張り付いた岩肌には指がかかりそうなところが見つからない。
越えるのは無理そうだと思いながら俊彦が振り返ると、秋子がエリートの証を大きく揺らしながら淵を渡って来るところだった。秋子は俊彦のすぐ手前まで来ると、滝の音に負けない大声で叫んだ。
「両手を腰の前で組んでください! 上に乗って見てみます!」
俊彦は滝を背にして言われた通り両手を組んだ、秋子が俊彦の手に片足をかけた。
「いきますよぉ!」
秋子がそう叫んで俊彦の肩をつかんだ、その瞬間、秋子は俊彦の手の上に一息で乗り込んだ。
「上手いじゃん!」
「体育祭でえっ、やったんですぅ!」
俊彦の目と鼻の先に秋子の”林”がある。いや、もう高校生なのだから茂みとでも言わないと怒られるだろうか? 見た目は初めて会った時と対して変わらないような気がするのだが。
滝に両手を付いた秋子は右足を俊彦の肩に乗せた。秋子のそれが目の前で見たことも無い形にゆがむ、山崎が高校に持ってきた数々の本にも、こんなものは載っていなかった。
秋子はバランスをとりながら残った左足をゆっくりと俊彦の肩に乗せた、俊彦は彼女の足首を両手でしっかりと掴んだ。
「どう! 見える?」
様子を訊こうと俊彦が上を向くと、茂みの先から一滴の雫が頬に落ちた。舌を目一杯伸ばして舐めると、ただの水なのに顔が熱くなった。頭のずっと上のほうから秋子の声が聞こえる。
「この先は普通の川になってますう! 見えるところだけですけどお!」
「じゃあここだけ越えれば、まだ先に行けそうかなあー!」
「たぶんー!」
「降りていいよう! 手を放すよおー!」
離した手をまた腹の前で組んだ。秋子の左足がゆっくりと手の上に降りてきて、さっき見た光景が逆回しで再生された。
秋子の両脚が俊彦の手の平に乗る、その瞬間俊彦は体を反転させた。秋子は振り落とされまいと俊彦の頭を掴んだ、そしてそのまま背中を滝に押し付けられた。
滝が秋子の体を境に左右に割れた、俊彦は目の前の茂みに思い切り鼻先を突っ込んだ。そのまま俊彦が舌を目一杯伸ばすと、俊彦の頭を秋子が両手で激しく押さえつけた。押し剥がそうとしているのか、押しつけているのかは判然としない。
秋子が何か言っている、だが水の音にかき消されて聞こえない。そうだ、今ならきっと何を言っても彼女には聞こえない。
「秋子、好きだ。愛してる! 君が欲しい! 欲しいんだ!」
俊彦は叫んだ、声の限り何度も叫んだ。叫び終わると喉から千切れるかと思うほど舌を伸ばして、辺りかまわず這わせた。舌先が憶えのある突起を探しあてた、秋子は体を前に折って俊彦の頭を今度ははっきりと自分のそこに強く押し付けた。
望まれている――確信した俊彦は、それまでの激しさから打って変わって、いとおしむように舌先を動かした。
俊彦の髪を鷲掴みにしたまま、秋子は拳で何度も俊彦の頭を叩いた。秋子の声は今度も水音にかき消され、俊彦には頭を叩かれる音と髪がプチプチとちぎれる音が骨を伝って聞こえてきた。
突然、秋子の体が若いバナナのように反り返った、そしてそれきり動かなくなった。しばらくすると彼女の手は俊彦の髪を離し、力なく垂れさがった。手の指に引きちぎられた俊彦の髪が何本か絡んでいた。
滝に背を擦るようにしてゆっくりと崩れ落ちてくる秋子の体を、俊彦は優しく受け止めた。小石ばかりの河原まで運ばれて寝かされた秋子は、膝を抱えて体を丸めた。目をつぶったまま右手の親指の爪を噛む秋子、表情も息づかいも穏やかに見える。その代わり腰だけが時折はじかれたように動く。
心配になった俊彦が声をかけると秋子は無言のまま小さく頷いた。俊彦は秋子の体を仰向けにして両膝をつかんだ、膝は何の抵抗なく蛙のように開いた、俊彦は開かれた場所の上に重なって硬くなったものの先を当てた。
このまま腰を沈めればいい、そうすれば僕の願いはかなう――。
秋子は目をつぶったまま穏やかな表情をたたえていた、すぅすぅと聞こえる息も一定で、俊彦を心から信用している事が分かった。俊彦は腰を引いた、両手で強く握りしめただけで、それが河原の石に散った。
秋子の隣に横たわって肩を抱いた。日が届かなくなったと言うのに小さな谷はまだ蒸し暑かった、素肌に当たる小石が冷たくて、そこだけ気持ちが良かった。
谷の底から見上げた空には、青と紅色の混ざった複雑な色合いの雲が浮いていた。西の空はたぶんもう紅く染まっているだろう。
俊彦は力の抜けた秋子の手足をとって服を一枚ずつ着せた、ブラジャーの着け方はわからないから体操着に押し込んだ。肩を貸して歩かせ、途中でジーンズと靴を穿かせて手を引いた。自分で歩けるようになってからも秋子の目はずっとうつろで、飛び石がうまく飛べずに何度も靴を濡らした。
テントに着いた頃には辺りは薄暗くなっていた、バイクが動き出すと秋子が俊彦の背中に思い切り体重を預けてきた。途中で気になって何度か声を掛けても、秋子はただ眠いのだとだけ繰り返した。
「手だけは離さないように」俊彦はそう念を押して店の裏のカーブまで秋子を送った。そしてまだどこかおぼつかない足どりの秋子がアトランティスの裏に消えるのを見届けてから、来た道を引き返した。
次の日の朝早く、秋子はいつもと変わらない元気な姿であのカーブに現れた。
「あの後大丈夫だった?」
俊彦がそう訊くと、秋子はばつが悪そうな笑顔を見せながら黙ってうなづいた。
この近くではどこへ行っても秋子を知る者に見られてしまうかもしれない、二人を乗せたバイクはいつもの林道を砂煙を上げながら進んだ。
バイクを傾けなくても済むように、ゆっくりとカーブに入った。カーブを抜ける時は秋子の重さの分だけアクセルを多めに開けた。
舗装道路と違って林道のカーブは後ろのタイヤを滑らせながら走る、運転している本人は平気だが後ろに乗る秋子は違う、秋子はカーブに入るたびにしっかりと俊彦の背中にしがみついた、俊彦の背中で大きな肉まんが二つつぶれる。
峠が近づく頃には秋子もなんとか重心を合わせられるようになっていた、二人とバイクに一体感が生まれ始めた頃、長い上り坂は終わった。
「ここで東北地方が終わるんだって思うと、いつも不思議なんだよね。ここから突然、東京と同じ関東地方になるなんて、地図では当たり前の事なんだけど実際に見ると信じられない」
県境の標識の前にバイクを停めて俊彦が言った、バイクを降りて「せーの!」と声をかけながら二人で県境を跨いだ。里のある方を見ても峰々にさえぎられて人家の気配はまったくない。標識とガードレール以外にここには文明を感じさせるものが何も無い。
「あっちゃんはこの道、通る事あるの?」
「小さい頃にお父さんの車で。でもいつもすぐに寝ちゃってたんで、覚えてないんです」
「村の人は?」
「土建の人とかならたぶん。後は役場の人とか山菜取りとか、隣の県の温泉に用がある人ぐらいかな。崩れて通れなくなる事があるから、あんまりあてにできないし。一番通ってるのは釣りとか登山とかツーリングの人じゃないかと」
「じゃあ、この先の事はそんなに知らない?」
「隣の県ですからね、もう。用もないしこんな坂、自転車じゃ無理だし。昔、下の河原で宿題の自由研究とかやったはずなんですけど、途中からお父さんにやってもらったんで、さっき見ててもどこだったか分からなかったです」
「ズルだよね、それ」
「みんな同じですよ、たぶん」
秋子は笑いながら軽く口を尖らせてみせた。優等生のくせにと思ったが、考えてみればこうして俊彦と会っている事の方が、よっぽど優等生らしくない。
風が秋子の髪を揺らした、この風は西の尾根を越えてくる、その先の尾根を何本か越えれば新潟だ、この風はたぶんそのさらに先の海を渡ってくる。
海からの湿った風は丁度今二人がいる辺りで太平洋側の空気とぶつかる、ここの風に毎回なんとなく海を感じるのは、そうした知識からくる気のせいなんだろう、こんな内陸の山の上に来るまで、空気に海の香りが残っているはずがない。
だが秋子はどうだろうか、ここの麓で育った彼女なら、西の風と東の風の微妙な違いを感じる事が出来るのではないか?
迷ったが俊彦は訊くのをやめた、二人の違いなんてこれ以上知りたくない、でももし彼女がそれを分かるとしたら、何年あの里で暮らせば自分もそうなれるのだろう。
関東側から白いライトバンが砂埃を上げて登ってきた、工事関係の車だろう。車が前を通り過ぎる間、秋子は俊彦の後ろに隠れていた。里の方に下りていくライトバンが見えなくなるのを待って、二人はまたバイクに乗った。
今しがたライトバンが登ってきた急な坂道を下りて行くと、路面に大きな石が目立つようになった。急に悪くなった道を激しく揺られながら降りると、秋子がまた強くしがみついてきた。背中で肉まんが潰れる。
時折滑りそうな石が現れると俊彦は慣れない秋子のために片足をついて越えた。鼻先に違和感を覚えてバイクを停める。
「コロンつけてるの?」
「うふ、気が付いてくれました? 少しだけ。だってお父さんのヘルメットって油みたいな臭いがするんだもん。この香り、気になりますか?」
うん、すごく気になるよ、困った意味でだけど――。
「僕は好きだよ」
「お父さんの匂いが?」
「あのね、僕がおじさんの匂いに興奮する男でもいいわけ?」
「えへぇ」
秋子がヘルメット越しに、いたずらっぽく笑った。そして何の予告もなく俊彦の腹の肉を絞るように、ぎゅうっと両手で掴んだ。どうやらこれを気にいってしまったらしい、すごく痛いのだけど。
背中に当たる肉まんは完全につぶれているのに凄い反発力を感じる。腹の痛みに耐えながら俊彦は狼狽していた。
男って生き物はこの柔らかい感触と、その甘い香りにとても弱いんだ。もしそれを分かってやっているのなら秋子は小悪魔どころか大悪魔だ。後で注意しておかなければいけないけれど、いったい何て言えばいいんだろう「女の子がその匂いをさせてると、男は困った事になるんだ」それじゃあまるで誘惑の仕方を教えるようなものだ――。
荒れた下り坂が終わると、大きなダム湖が目に入った。道が平坦になってダム湖の周囲に沿って続く。いつもならバイクを寝かせてカウンターを当てながら走り抜けるカーブを、今日は秋子のためにゆっくりと通り過ぎる。
眼下に見える広い河原は俊彦が関東側でテントを張る場所だ、降りる道が急でバイク以外に下まで降りる車は少ない。里の近くの河原よりずっと広くて、川も数本に分かれて穏やかに流れている。
「そのうちこっちにも来ようね」俊彦はそう言って走り続けた。高い樹々に遮られて湖が見えなくなると、道の先に踏切の遮断機のような黄色と黒の縞模様に塗られた棒が見えた、関東側の入り口だった。開け放たれたゲートを過ぎると目の前に大きな鉄の橋が見えた、二人の小さな冒険はここで一旦終わる。
舗装路に入ってバイクは奥鬼怒に向けて走った。しばらく行くと大きな温泉宿が見えた、その手前から左に伸びる道は中禅寺湖に抜ける道だ。時間帯によって一方通行の方向が切り替わる珍しい林道。
「この道は結構大変だから」俊彦が言った。「道が悪くて急なんだ、エンジンがすっごい五月蠅いと思うよ」
出だしから思い切ってアクセルを開けた、先で工事でもしているらしくダンプカーのためなのか敷かれた砂利が他の林道よりも大きくて、バイクの細いタイヤは潜ってなかなか前に進まない。
いくら悪路を走るのが得意なオフロードバイクでも、250ccに二人を乗せてここを登るのは簡単ではない。何度かダンプカーに追いつかれてバイクを路肩に寄せた。
バイクが大きく揺れるたび、ここまでさんざんつぶしたはずの二つの肉まんが、まるで作りたてに戻ったような弾力で俊彦の背中に当たった。その弾力が人間の生命の逞しさに思えて、俊彦はあらためて女の体の不思議さに感嘆した。
半クラッチとアクセルワークを駆使してバイクは八百メートルの標高差を駆け上がった。唸り続けた空冷エンジンから油が燃えるような匂いがしはじめた頃、二人は峠を抜けた。しばらく下ると舗装道路になり、俊彦は戦場ヶ原まで走ってバイクをとめた。
「わー、ここひさしぶりー。あんな道があったんですね」
秋子が大きく伸びをした、胸の肉まんは作りたてに戻っていた。
「お尻、痛くない?」
「ブルマは万能です」
秋子が自分の尻をパンッと音をたてて叩く。やめてよ、そういうの男はたまらないんだけど。
「でもあの道って本当に嘘みたいに近いんですね、音が凄かったけど」
「そう、いろは坂まで行ったらすごい遠回りになるからね。でもあそこを二人乗りはかなりキツいんだ、400ccならもう少し楽かもしれないけれど。それにしてもあの道を女の子と二人で走る日が来るなんてなあ」
「ほぉんとーですかぁ?」
またあの上目遣いだ、疑っているらしい。
「あの……女の子と二人乗りしたのって、もしかして私が初めてですか?」妙にもじもじしながら秋子が訊く。
「始めてだよ、ほんとにほんと」
俊彦がそう答えると、秋子はにやつきながら言った。
「それって男の人とはあるって事ですか? トシさんって、そういう趣味?」
「あれだけ自分の体をまさぐった男にそれを言う? でも女の子どころか林道で二人乗りをするのが初めてだから、実は大事なあっちゃんを乗せる前に部屋の近くの河原で練習してきたんだよ、友達を乗せて」
「そのお友達は、いいんですか?」
「大丈夫、死んでも誰も困らなそうな奴を選んだ」
「あーひどいー!」
言葉とは裏腹に、秋子の顔に山崎を心配する様子はなかった。たぶん本気にしていないのだろう、それなら奴を多摩川の河原に振り落とした事は黙っておこう、三度目で怒って足を引きずりながらバスで帰っていった事も。ただそれも次の日のナポリタン一杯で片が付くのだから、もしかしたらあいつは思っていたよりもいい奴なのかもしれない。いやそんな事ないか。
戦場ヶ原の売店でソフトクリームを食べた後、中禅寺湖の温泉街を歩いた。
「これ、あげるよ」
売店で毛がふさふさとした猫のキーホルダーを買って秋子にプレゼントした。
「眠り猫、かわいい!」
彼女の「車に乗るとすぐに寝る」という話で目にとまっただけだから、喜んでもらえて安心した。それに秋子の臍を曲げたときのつれない態度と、じゃれついてくる時のしつこさは猫っぽい。
秋子は眠り猫の鼻先を何度か突っつくと、なぜかそれを俊彦に持たせて売店に走って行った。しばらくして戻ってきた秋子は、手に小さなキーホルダーを持っていた。
「これ、トシさんに」
近くの日光東照宮で有名な”言わざる”を模したキーホルダーだった、猿が目を剥いて口を隠している、だが”見ざる”でも”聞かざる”でもないのはなぜだろう? 良く考えずにものを言う癖がある誰かへの当てつけだろうか?
「ありがとう」と礼を言いつつ、どこか釈然としない気持ちが残る。俊彦は秋子を乗せてバイクを走らせた。
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