珈琲の実は朱くて甜い。

水守つばき

序:皮狐娘と『一緒』ということ。

青天の色が地上を明るく染める日曜日。相変わらず雀は電線の上、感電知らずで並んで跳んででは囀り回り、休日ダイヤという名前でいつも通り線路を走る電車は踏切の警報音をかき回しながら人とモノを遠くへと運んでいく。街角の景色にスキール音を響かせ、目的地の駅に止まれば数十秒後には別の駅に向けて鉄の扉を閉めて再び別の目的地へと決められた道を走り出す。

その中の優先座席が近くにある小さな二人がけのソファーに座る幼女。しかし大きすぎる胸とファスナーが電車の振動に合わせて上下に揺れ、扇情的な丘がどっぷりと、そしてそれを隠すファスナーがからりと音を立てて下がりそうになるのはある意味下手なホラー映画よりも恐ろしい。その顔をつんっと突くは柔らかな指。


「術で無関心なんだから大丈夫だよっ♪」


そういう彼女の名前は『茉莉』という。桃色の和装らしくも、中央に大きなファスナーがついた上着は見えてはいけないギリギリのラインでファスナーが止まっている。そしてその光沢が普通の人より少しあるような、しかし肌触りは人の肌そのものの生脚を見せつけるかのように朱い巫女衣装のようなスカートは後ろのみを隠す。そして首にある輪は後ろにある「とあるもの」を隠すとともに、そのとあるものに溺れさせるための欲にまみれた仕掛け。可愛い桃色の瞳の頭の上、白い髪には人間じゃ無い、むしろ神様の証といえる三角型の大きな耳と白いもふもふした毛が生えており、尻尾が後ろから包まれたら快楽に飲まれそうな勢いでもっふりと飛び出している。当然、こんな狐がいたら注目の的なのだが、さきほど彼女が言っていた通り、僕にしかほとんど見えていない、神様は神様らしくという感じなのだろうか。その気になれば無銭飲食、無賃乗車は可能であろうも神様故にきちんと切符は手にしている。


「まぁいることにはいるけれども、気にしていないって事だから『食べた人数と計算違う』なんて事はならないから平気平気」


そういいながら揺れるファスナーの金具に自分の顔が映る。その顔は目の前の『茉莉』と同じ首輪、同じ服……同じ顔。首輪を触ってみればしっかりと止められており、首輪の下に隠されたものはとれそうにない。その首輪の下に隠されたものとは、背中を支配するファスナー。僕は本当は成人男性である。しかし今はこの狐の悪戯で『茉莉』の身体に閉じ込められており、彼女に内側の肉がみっちりと締め付けられて彼女の幼い身体にさせられている。男性と女性、大人と子供の体型は違いすぎるも全てが自分の身体として動かせてしまう。大きな震える胸さえ『震えている胸』として胸元にぷるりと伝わってしまう。にやにやと術が解けないかと心配しておろおろする僕の目線をついっと向けてドヤ顔で誇り立つ。


「でも、大人一人分の運賃だけどねっ!」


子供料金は大人運賃の半額になります。


「でも端数は切り上げだからね!?」


同じ声が電車内に響いても。果たしてこの姿が周囲に見つかっても。術で締められた首輪がとれない限りは『茉莉』。でもこの幼女に締め付けられている心地は気持ち良く――げふん。

そんなこんなで僕の部屋には狐娘、茉莉が住み着いている。彼女の首輪の下にもファスナーがあり、開けばそこには入れる空間と熱い肉以外何も無い。皮のみで動いている神様、狐娘といより皮狐娘といったほうがよいか。特技はこの中に大人をいれて彼女にされたり、彼女の皮を着せて彼女にしたりすることという、フレンドリーと言うべきかなんというべきか。そんな狐娘のお話。

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