第8話 これは所謂プロデュースというものですわね
――それからも、私は度々ラングレー商会のスイーツ店を訪れて店内のお部屋で美味しいスイーツをいただいて癒されておりました。
邸内で居ましても私を嫌うお義母様やモニク、そしてモニクの元を訪れているフェルナンド様に会えば皮肉を言われ疲れるだけですし。
唯一の肉親であるお父様でさえ私を腫れ物扱いで、皮肉を言うことはありませんが助けてくれることもありません。
「ここでの時間が唯一の休息の時間ですわね。」
給仕をしてくださるメイド達も、顔見知りの方が増えましたわ。
「ヴィオレットお嬢様がこの店で癒されることが、会長と私共の喜びでございます。」
「ありがとう。このお店が我が領地にできてからというもの、私の生活にゆとりが生まれましたの。本当に嬉しいわ。」
親しくなったメイドのアンはソバカスの浮いた可愛らしい笑顔で答えてくれました。
「これはヴィオレット嬢、本日もいらしていただきありがとうございます。」
「ラングレー会長、ご機嫌よう。相変わらず美味しいお菓子がたくさんあって、飽きませんわね。」
「貴女にそう言っていただけるとこの店を作った甲斐がありますね。」
相変わらず整ったお顔は人好きのする笑顔を浮かべて、ラングレー会長がわざわざご挨拶に来ていただけましたのね。
「ところでお菓子に目がないヴィオレット嬢にお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」
「あら、私でお応えできることであれば。」
「実は、ご存知の通りこのブラシュール領でもスイーツ店は数多くありまして、この店も他の店と差別化を図ってもっと繁盛させたいと思っています。」
たしかに、果物や穀物など材料になるものが豊かなこのブラシュール領には多くのスイーツ店がありますわ。
ここラングレー商会の経営するお店も、沢山のスイーツを扱ってはいますが他店にはないものとなると、他国から取り寄せたお菓子を含めても数が知れておりますわね。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「ドレスや宝飾品よりもスイーツに価値があるとおっしゃったヴィオレット嬢に、新しい商品のアイディアをいただきたいのです。」
「私がですか?」
「はい。ヴィオレット嬢がお気に召すような商品であれば、きっとスイーツ好きのお客様の琴線に触れると思われますので。」
どうせ邸内でいても嫁入り前の教育と社交だけで、気が晴れることもないですし……大好きなスイーツのことを考えるのは楽しいかも知れませんわね。
「承知いたしました。私でお役に立てるか分かりませんけれど、精一杯頑張らせていただきますわ。」
「ありがとうございます。それでは早速なのですが、新しい商品のアイディアが思いつきましたらお知らせください。こちらのお店でも、邸宅でもいつでも伺います。」
サラサラの銀髪を零しながら、ラングレー会長は慇懃にお辞儀されました。
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