1.雨の如月で新曲を披露
今日もまた駅前だ。如月だけどそんなに寒くはない。
けれど雨が降っているので、昨日までとは違う屋根のある場所を選ぼう。
会社帰り・学校帰り・買い物帰り、そんな人たちが行き交う賑やかな所だ。みんな思い思いの方向につま先を向けている。ゆっくりだったり小走りだったり。
甘い顔・辛い顔・苦い顔・渋い顔。それから、酸い顔、かなあ。でも多くは無表情と云う、カラーで喩えるなら限りなくピンクに近い肌色の顔だ。
ときどき楽しげに会話をしながらのふたり連れも通り過ぎる。カラーで喩えるならレッドそのもの。形で喩えるならハートだな。
広げている傘もそれぞれ、色・形・大きさ・絵柄、様々だ。
おやおや、ひとつの傘にふたりで。まあとにかく、
オレっちは何者であるべきか。
まあ、その、歌手だ。と云うよりもシンガー・ソングライターと云った方が良いのだろうか。でも本当は、単に路上で自作の歌を弾き語りしている、振りをしているだけである。
さあて、始めるかな。聴いてくれ、オレっち、渾身の新曲を。
いっぽん、
にほんも、
さんぼん、しぇんえぇ~ん
だったら、ぜったい
さんぼん、買うわぁ
ひとつで、
ふたつで、
みっつで、ひゃっけ~ん
ほんなら、やっぱり
みっつぅ、買うでぇ
二番のオワリまで歌い終えた。その間、誰も立ち止まることはなく、足早にオレっちの前をただ通り過ぎる。
まあそれでも良いのだ。オレっちのことが有名になって地上に知れ渡ることは、まだまだ避けておきたい。これからひと月くらいは、こんなふうにして地上の人たちを観察する日々を送らなければならない。兄様から頼まれたとても大事な任務だから。
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