第4話 大人になる1日前

トムソンさんのおかげもあったけど ダンジョンを発見した俺とジェニーは街の有名人になった。

街の外からは多くの冒険者たちが訪ねてきて、発見した時の感想やダンジョン攻略のコツなんかも聞かれて毎日が楽しくて忙しくなった。

ちなみに ダンジョン攻略のコツだけど「その通りです、よく気が付きましたね!」と付け加えればどんな酷い内容の話でも喜んで受け入れてくれる。

みんな新しい何かを発見したがっている。だから俺に会いに来るんだ。

ジェニーは相変わらずバザーは続けているけど 俺よりもたくさんの人が訪ねてくるみたいで、お花のような笑顔を浮かべて「そうなんですか?ふふふ」と話を合わせてばかりだけど、きっと 話をするのが好きなんだ、

でも お父さんが優しくなったって嬉しそうに話をしていたしバザーもうまくいっているみたいだから当然かもしれない。


だけど ごっこ遊びも出来なくて、きっと退屈をしてるだろうししょうがないからたまには 

遊んであげようと思ってジェニーの実家に直接会いに行ったんだ。

ドアを開けてくれたのはお父さんだった。

昼間からお酒の匂いが残っていたけど、話してみたらこんな人がジェニーに暴力を振るっていたなんて思えなかった。

「うちの娘に会いに来たのかぁ?ひっく・・ うちの娘は可愛いだろう。そうだろう。オレの自慢の娘なんだ。でも・・・15歳まではダメだぞ。でないとお父さんは泣いちゃうから。シクシク ははは」という感じでつかみどころがないと言うか弱々しくて川辺に上がってしまった魚のような人だった。

きっと ジェニーが家出をしたことでジェニーの大切さがわかったんだと思う。

ジェニーは 冒険者と食事をするとかで家にはいなかったけど 今のお父さんとなら俺もうまくやっていけそうだ。

「15歳までダメだぞ」ってことは、つまり・・照れ臭いな・・・へへへ


早朝のバザーの準備のときにいつものように「ジェニー」って声をかけたんだ。

「おはよう」って返してくれるけど 前よりもずっと忙しそうだな。

バザーが終わったら冒険者とダンジョンの話をしなくちゃいけないみたいで

ダンジョン話のコツを教えてあげようと思って「ジェニー バザーが終わったらたまには一緒にご飯を食べようよ」と誘ったけど「今日は 聖騎士様と会うの」と言われて先客がいたみたいだった。

有名人になった今では 「ごっこ遊びしようぜ」なんて誘えた頃が懐かしいよ。

それから数日が経ったけど

「戦士様と会うの」

「魔法剣士様と会うの」

「・・会うの」「・・会うの」

と ジェニーは人気者過ぎて予約が取れなかった。

会えるのは野菜をバザーに運ぶときだけ


「ジェニー」

「おはよう」


ドサ!ドサ!


だから 野菜のバスケットはいつもの2倍にそして3倍に増やしていった。

その分 農民として働かなくちゃいけなくなったしジェニーだって忙しいのに可哀そうだけど

だけど これが俺たちの絆なんだ。

・・・・

「メタルだ~ メタルがでたぞ!」


最近はときどき 転生者様がこの街を訪ねてくるようになった。

転生者様は魔王がいないので勇者ではないけど勇者様と呼ばれている。

何百年もこの世界を生きてきたかのごとく、豊富な知識を持っている方々なんだ。

二つ先の村にメタルなモンスターが出ると言うことで 俺たち農民に声をかけているらしい、そしてある日の夕飯に父から話があった。

「トシユキよ 聞いてほし。実はな お父さんとお母さんは勇者様たちからお呼びがかかったんだ。メタルなモンスターを倒すのに我々農民の力が必要だとおっしゃるんだ。お父さんとお母さんは勇者様のお役に立ちにく、しばらくの間 農場を頼んだぞ」

「大丈夫よ あなたならできるわ。だって 私たちが産んだ召喚士ですもの。ふふふ」


この日は すごいご馳走だった。

カラメル色のソースのかかった ピカピカのチキン

そして チーズに砂糖を混ぜた 美味しいケーキが出てきたんだ。


「お父さん、お母さん美味しいよ」

「そうでしょう。おじいちゃんから教わった伝説のチーズケーキという食べ物よ」

「そうだ お父さんからはこれをやろう!勇者様が使っていた伝説のペーパーナイフだ」

「でも おじいちゃんの形見だよね?」

「ああ 気にするな。今度の遠征に参加すれば伝説のスプーンだっていただけるかもしれないぞ がはは」

「あなたったら~ もう 伝説のスプーンなんて頂けたら私は、ペンダントにして肌身離さず装備しちゃうわよ。ふふふ」


「装備くらいしてもいいけど 勇者様は私たちとは違って個性的な御顔立ちらしいからな、ホレたりしないでくれよ」

「私みたいなおばさんなんて 相手にされないわよ。ふふふ」


両親には遠征から元気なまま帰ってきてほしい・・。

次の日の朝、両親を見送ると急に遠征の事をジェニーに話したくなってバザーに向かった。

だけど ジェニーのお店は無くなっていて殺風景になっていた。


もしかしてお店の場所を移したのかな?と思ったので話を聞きにジェニーの実家へ行くと

高そうなお酒の瓶を持ったお父さんがドアの前に出てきて「大切な娘を働かせる親がいるわけがないだろう ははは」といいながら ジェニーが働かなくてもよくなったと教えてくれた。

そんなうまい話があるはずがない。

だけど家の中から軍人かと思えるような大きな話し声が聞こえてきた。

「そうか 面白いじゃないか はっははは ひっく・・」


家の中が見たい。

お父さんを押しのけてでも家の中を覗き込もうと思ったらお父さんが目を合わせてきた。

自慢をしたい事があるかのようにニマニマと笑みを浮かべるとチャンスタイム!と言わんばかりに 

お酒をラッパ飲みし始めた。

隙間から家の中を見える。

「お父さんのラッパ飲みタイム」の始まりだ。


家の中にいたのは 金色の鎧を着た聖騎士の大男の背中。


マントが邪魔で向いに誰が座っているのかはわからない。


お父さんの ラッパ飲みタイムが終了すると俺の肩を軽く突き飛ばして「ジェニーはいない」と言ってドアを閉めてしまった。

ジェニーが居ないはずがない。 


「ほんほ 楽しそうな声が聞こえてくるようになってよかったわ 奥様」

「私 この家が怖かったのよ。奥様 ほほほ」


大男は軍人だから声が大きいのか?

外にも聞こえているようで立ち話をしている人たちの噂話にもなっていた。

でも 男の向いにジェニーが座っていたなら俺のことに気付かなかったのかな?

楽しくて気づかないくらい笑っていたとしたら俺は もう必要なくなったのか?


ジェニーの青だと思って 毎朝見上げていた空の青が、今はくすんだ色の青い空に見えた。


ジェニー・・。俺さ 明日は15歳になるよ

教会で洗礼を受けて「召喚士」になるんだ。

大人になったら本当に何かが変わったりするのかな?

大人になったらさ。魔王を召喚して ジェニーをさらいに行ってもいいよね?

いいや ジェニーの意思なんて関係ないか・・絶対にさらいに行くから!

だって そのために魔王はいるんじゃないか。

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