☆ ポンコツバイト女性養育中
すどう零
第1話 ポンコツバイト女性の養育を引き受けちまった
私の名は奈々子。有名飲食店のフランチャイズ店で三年目の中堅バイトの三十歳。
好奇心旺盛、チャレンジ精神前向きレッツゴーなのが取り柄といえば取り柄である。
まあまあ、仕事も任され、六十歳を超えたオーナー店長からも信用されている方だろう。
しかし、この不況のため、常連客も来店回数が減少しつつあるのは事実である。
今日は、いかにも降りそうな不安気な天気。
灰色の空の下で、灰色のマスクを被った、灰色の男が店を素通りしていく。
毎日寄ってくれてた客が、週に三回になったり、酒の本数も減ったり、このままどういった方向に行くのだろう。
でも、今日を生きるしかない。その積み重ねが半年後になり、いずれは時代が変わるときが訪れる。
しかし店長は、ピリ辛エスニック風や、また反対にあご出汁をきかせた薄味などいろんな新しいメニューを考え、なんとか新規の客を獲得しようとやっきになっているが、この高齢者社会、若い客は減少の一途を辿る一方、高齢者の客をなんとか繋ぎ止めねばならない。
ある日、店長は風変わりな提案を私に持ちかけた。
「世の中っていうのは、上見りゃキリない、下見りゃキリないというが、こういう時代こそ、困った人を助け出す必要があると思うんだ。
そうでないと、行き場のない人が増加し、犯罪が増える一方。そうなると、人はひきこもりというほどでなくても家に巣ごもりし、気軽に飲食店にも行けなくなる。
そうするとますます犯罪は増加の一途を辿る。だからそうなる前に、俺はいわゆる困った女性を、バイトとして引き受けようと思うんだ」
なるほど、意見としては正しいが、実際にそれを引き受けるとなると、到底一筋縄ではいかない。
だいたい、困った人というのは、人の意見や忠告は聞かないし、こういうことをしてはダメですよと注意しても、馬耳東風で聞く意思がない。
そしてやる気があっても、かえってそれが空回りし、周りから疎外された挙
句、急に退店するー私はこのパターンを見てきているからである。
ひょっとしてそのなかには、いわゆる発達障害も含まれているかもしれない。
まあ、私は発達障害というのは、メディアのなかでしか見たことがないが、字が読めず計算もできない落語家、また高学歴でありながら、注意力散漫でうっかりミスを繰り返すアナウンサー既婚女性、こだわりの強く元看護士現在は作家などが出演していた。
身体障碍者とは違い、見た目はごく平凡な人ばかりである。
そういう人がいたとしても、私はどう対処していけばいいのだろうか?
店長は続けた。
「人生には会える人が限られている。また困った人に出会うことで、人間としての幅が広がり、新しい発見も見出せる。そこでだ、あんたにそういった人を養育し、出来たら育成してやってほしいんだ。
本来ならば、こういうことは僕がすべきだが、僕はもう若くはない。
だから、若いあんたにそれを頼みたい。あんたは将来を生きる人として、いろんな人と接し、理解することで人間関係の幅が広がり、新しい能力が生まれ
るかもしれない。その能力を生かせる場があるかもしれないよ」
えっ新しい能力?! どちらかというと苦労知らずで平凡な人生を送ってき
た私にとって、新しい能力など存在するのだろうか?
しかし、メディアに出演しているスターと呼ばれる人も、最初は平凡な素人だったという。
店長は新しい提案をした。
「君は、作家志望だったね。クリスチャン作家である三浦綾子先生のようになりたいと言っていたね。ひょっとしてこれがチャンスかもしれないよ」
私は、一筋の希望を見出した気がした。そうだ、このことをネタに日記を書いてみよう。これが小説へと発展するかもしれない。
「わかりました。私でよければ、この大役を引き受けてみます」
この即座の返答が、あとあと困惑する結果になろうとは思ってもいなかった。
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