そして、またひとり
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──そして、またひとり
メーリア防衛軍の2個小隊と麻薬取締局の特殊作戦部隊は少数民族の集落をあっさりと制圧した。ほとんど抵抗はないに等しく、ここが『オセロメー』の残党の作ったスノーホワイト農園だとは思えなかった。
「メタル・ゼロ・ワンよりユニコーン・ツー・ゼロ。以下の座標に爆撃要請する──」
『ユニコーン・ツー・ゼロよりメタル・ゼロ・ワン。了解。爆撃を実施する』
スノーホワイト農園がナパーム弾の炎に包まれる。
それからメーリア防衛軍が火炎放射器で残ったスノーホワイトを焼き払い、ヘリと小型機が枯葉剤を散布していく。
全てが終わり、いざ帰還しようとなったとき銃声が響いた。
「撃たれた!」
「畜生! 『オセロメー』か!? 共産ゲリラか!?」
「違う! メーリア防衛軍の連中だ!」
メーリア防衛軍の2個小隊が突如としてフェリクスたちに牙を剥いた。
奇襲により麻薬取締局の特殊作戦部隊の隊員3名が負傷、うち1名は重傷だ。
「やれるか? 残り9名だぞ。それに対して敵は2個小隊」
「航空支援は呼べるか?」
「呼べるはずだ」
「スノーホワイトの代わりに連中の頭の上にナパーム弾を落としてやれ」
「了解」
フェリクスが航空支援を呼ぶ中、エッカルトは魔導式自動小銃で反撃した。だが、2個小隊と負傷者を抱えた1個分隊では戦力に差がありすぎる。エッカルトたちは軍用四里駆動車の影に押し込められ、反撃を許されない。
「フェリクス! 航空支援はまだか!」
「もう少しだ! なんとか耐え抜くぞ!」
フェリクスも魔導式自動小銃でメーリア防衛軍の兵士に向けてでたらめに銃弾を放ちながら、航空支援の到着を待つ。
『ユニコーン・ツー・ワン。爆撃を開始する』
かなりの至近距離で“国民連合”空軍のジェット戦闘爆撃機がナパーム弾を投下していく。それによって一気にメーリア防衛軍の戦力が壊滅状態に陥る。
「今だ! 撃て、撃て!」
フェリクスたちは残存戦力を壊滅させる。
「畜生。死んだ」
「報復は行おう。メーリア防衛軍の連中に地獄を見せてやる」
フェリクスたちは負傷者を呼び寄せた“国民連合”陸軍のヘリで後送すると、メーリア防衛軍の基地に向かう前に“連邦”陸軍の基地を訪れた。
「あなた方が推薦したメーリア防衛軍の兵士から発砲を受け、1名が死亡した」
「きっと事故だ」
「事故ではない。意図的なものだ。我々は報復を行うが、異論はないだろうか?」
「我々の関与するところではない」
「では、報復させてもらう」
それから数時間後、“国民連合”大統領の承認を受け、メーリア防衛軍の基地が“国民連合”空軍によって爆撃された。それからフェリクスたちが基地に乗り込む。
「ほとんどの兵士が逃げ出してる」
「ある程度はくたばっただろう。クソ野郎どもめ」
エッカルトは同僚の死に怒りを感じていた。
「ネーベ将軍を探せ。ジャングルに逃げたなら、追い詰めて逮捕する」
「もういっそ殺しちまったらどうだ?」
「そういうわけにはいかない。奴にはヴォルフゲート事件について証言させる」
「それもそうだったな。奴らもヴォルフゲート事件に関与している可能性があるんだった。だから、俺たちが狙われたんじゃないのか?」
「あり得るな」
フェリクスたちはメーリア防衛軍の基地を隅々まで捜索する。
時々、散発的な銃撃戦が発生したものの、爆撃でほとんどの兵士をやられているメーリア防衛軍はほとんど簡単に制圧されていった。
「ネーベ将軍を見つけたらしい」
「行こう」
フェリクスたちが現場に向かう。
「来た時は既にこうなっていた」
麻薬取締局の特殊作戦部隊の隊員がネーベ将軍の死体を見せてそういう。
ネーベ将軍の手には魔導式拳銃が握られ、それで頭部を撃って自殺のは明白だった。
「死人に口なし」
「ネーベ将軍が自殺することも計算のうちか、クソッタレ」
ネーベ将軍が何か残していないか徹底的にフェリクスたちは調べたが、何も見つからなかった。この男は死んでまで何を守ろうとしたのだろうかとフェリクスは思う。そこまでドラッグカルテルの報復が恐ろしかったのだろうかと。
「ブラッドフォードの次はネーベ将軍。ヴォルフゲート事件の関係者は次々に死んでいくな。このままだと証人はひとりも残らないって結果になりかねないぞ」
「ひとり、確実な証人がいる」
「誰だ?」
「アロイス・フォン・ネテスハイム」
フェリクスは嫌悪を込めてその名を口にした。
「奴は絶対に証言しないぞ。司法取引でもしない限り。奴にとって証言するのは自分の死刑執行書類にサインするのと同義だ」
「ああ。奴が証言するとなれば、戦略諜報省のドラゴンも奴を消そうとするだろう。奴は自分の身を守るために沈黙を選ぶ。俺たちが司法取引しなければ。奴を無罪放免にして、戦略諜報省やギャング、マフィアの手の届かない第三国に脱出させてやらなければ絶対に証言しないだろう」
「あの野郎を許すのか?」
「畜生。そんなことしたくないに決まっているだろう。だが、もう証人は次々に消されている。ヴォルフゲート事件を明らかにして、“国民連合”の中に残っている問題を取り除かなければならないんだ。戦略諜報省のドラゴンも裁きにかけられるべきだ」
フェリクスにとっては忌々しい状況だった。
ヴォルフゲート事件の全容を知っているブラッドフォードは殺された。あれは表向きは銃乱射事件と知らされたが、間違いなく最初からブラッドフォードを殺すために仕組まれた事件だ。
次にヴォルフゲート事件に近いメーリア防衛軍のネーベ将軍も死んだ。
最後に残るのはアロイスだけなのだ。
だが、フェリクスはアロイスを許せない。奴が全ての事件の背後にいたのだ。これまでの犠牲は奴のためだったのだ。
できることならばその手に手錠をかけるより、頭に1発鉛玉を叩き込んでやりたい。
「ヴォルフゲート事件は連邦捜査局に任せよう。連中がどうしてもアロイスの証言が必要だというならば、その時はその時だ。自分を納得させられるか、フェリクス?」
「させるさ。これまでもそうしてきた」
度重なる捜査への圧力に耐え続けて、ようやくヴォルフゲート事件に行きついたのだ。我慢をするということをフェリクスは知っている。
我慢を続けてきて、ようやくヴォルフゲート事件を暴いたら、その証人たちが殺される。裏にいるのは戦略諜報省か、ドラッグカルテルか。どっちも同じクソッタレだ。
裁かれるべき人間が裁かれない。それほどの不条理が他にあるか?
「フェリクス。引き上げだ。ここを探してももう見つかるのは瓦礫だけだ」
「そうみたいだな。畜生め。何か証拠の類でも見つかればよかったんだが。ネーベ将軍は自殺し、証拠はなし。俺たちの負けだ」
「仲間の仇は討てた」
「ひとりだけだ。俺たちはもっと大勢を殺されている」
報いを受けろ、アロイス・フォン・ネテスハイム。
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