暗殺作戦の顛末

……………………


 ──暗殺作戦の顛末



 シュヴァルツ・カルテルはフェリクスを爆殺するためにホテルに爆薬を運び込もうとした。だが、それが果たされることはなかった。


 爆薬は運び込まれる前にフェリクスたちに押収され、爆破を試みたシュヴァルツ・カルテルのメンバーは全員が逮捕された。もう何がどうなっているのか、ダニエルには見当もつかなかった。


 それでも彼が考えたのは情報の漏洩。


 どこからから情報が漏れている。自分の周りに麻薬取締局の内通者がいる。


 ダニエルは一度周囲を洗ったものの、それらしき人間は見つからなかった。となると、ますます誰の仕業か分からなくなってくる。


 計画を知っているのはダニエルと実行犯と、そしてアロイスだけ。


『なあ、ボス。あんた、麻薬取締局に情報を流してないよな?』


「とうとうおかしくなったか? なんで俺がそんなことをする必要がある」


『だよな。となると、誰の仕業なのか……』


「情報漏洩を疑っているのか?」


『ああ。それ以外に考えられない』


「確かに、その通りではあるな」


 フェリクスたちは事前に情報を手にしているかのごとく行動している。何かがおかしいのだ。だが、情報が漏洩するとしてどこから漏洩したというんだ?


「十分に部下を調査しておけ。怪しい奴がいたら教えろ。俺が司法取引をできなくした上で、最悪のムショに叩き込めるように手配してやる。裏切者は3日もたたず処理されるだろう」


『その前に俺が撃ち殺してやるよ』


「それができれば文句はない」


 問題は情報を抱えている人間が情報を抱えたまま、逃走することだ。その情報を元手に麻薬取締局に司法取引を求め、それが認められるようなことがあっては困る。シュヴァルツ・カルテルにはまだ生きていて欲しいし、そもそもそいつの持っている情報がシュヴァルツ・カルテルのものだけとは限らない。


「さて、どうしたものか。シュヴァルツ・カルテルにはどうにも内通者がいるようだ」


「別の奴にやらせたら?」


「別の奴なんていないよ、マーヴェリック」


 アロイスが肩をすくめる。


「いるだろ。ムショには」


「おい。まさか」


「そうだよ。適当な奴をムショから出してやろう。そして、そいつにフェリクスを始末させよう。用が済んだらまたムショに戻してもいいし、始末してもいい」


「悪だくみはまだまだ俺の方が上だと思っていたけれど降参だ」


 アロイスは両手を上げる。


「問題は人選か。誰が俺たちのためにフェリクスを殺してくれるのか。麻薬取締局の捜査官というだけで殺してくれる人間は結構いるものだが、ちゃちなチンピラに任せてもしょうがない。ここはちょっとばかり大物に出てきてもらわないとな」


「なら、こいつはどうだい? こいつとこいつのお仲間」


「正気か? こいつはフェリクスに報復するより、俺たちに報復することを選ぶぞ」


「そこはボスの腕次第だ。少なくともこいつもフェリクスに裏切られているし、今はムショの中で、苦しい思いをしているはずだ。そこを助けてやったら、あんたは間違いなく、こいつの支持が受けられるよ」


「そこまでいうのなら……。だが、どうやって脱走させる?」


「プランBを実行するべきときが来たってことだ」


「ああ。あの計画はまた生きているのか?」


「もちろん、部下に訓練を施してもある」


「なら決まりだ。こいつを脱走させよう。だが、監視はしっかりとつけておくよ」


「そうするべきだろうね。全面的に信頼のおける相手じゃないことには同意する」


「実行してくれ。俺は奴の部下を集める」


「了解」


 マーヴェリックは軽快に部屋を出ていった。


「しかし、こいつは本当に賭けになるな……」


 アロイスはマーヴェリックの記した名前を見て、呻いた。


 その間にも、マーヴェリックたちは準備を進めていた。


 プランBの。


 刑務所を襲撃するための装備が整えられ、ガンシップや輸送ヘリが準備される。


「それじゃあ、行ってくる」


「気を付けて」


 マーヴェリックをアロイスは見送る。


 ヘリが次々に離陸していき、刑務所に向かう。


 刑務所に防空レーダーはない。ヘリは悠々と刑務所に近づき、その外壁に向けてロケットポッドからロケット弾を発射する。外壁が吹き飛ばされ、刑務所の中で警報が鳴り響き始める。


 輸送ヘリはすぐに着陸し、マーヴェリックたちは降下する。


「ターゲットの確保が最優先だ。他は殺していい」


「了解」


 マーヴェリックたち『ツェット』は破壊された刑務所の外壁から中に突入していく。看守を射殺し、混乱に乗じて暴動を起こしている囚人たちを射殺し、目標に迫る。


 刑務所を制圧するのは一苦労だった。あちこちにカギがあり、それをひとつひとつマスターキー──魔導式散弾銃で破壊しながら進まなければならなかったのだ。そして、ターゲットは一番警備の厳重な場所に収容されている。


「ダメだね。この扉のカギは散弾銃じゃ破壊できない」


「ブリーチングチャージ」


 マーヴェリックの言葉にマリーが命じる。


 すぐさま『ツェット』の隊員が扉にブリーチングチャージをセットし、爆破する。扉が吹き飛ばされ、また別の扉が現れる。


「畜生。宇宙人でも収容してんのか、このムショは」


「文句言わない。次の爆薬セット」


 再びブリーチングチャージがセットされ、爆破される。


 扉の先はカオスが広がっていた。


 囚人が看守を襲い、看守が囚人に向けて発砲している。武器を奪った囚人もいるらしく、銃撃戦が起きている。


「どうする?」


「ターゲット以外は皆殺し。作戦方針に変更はなし」


「そうでなくっちゃな」


 マーヴェリックが銃撃戦の起きている地点に炎を放つ。


 囚人と看守が一斉に燃え上がり、両者が炎を消そうと必死に転げまわり、同時に火災報知異ちとスプリンクラーが作動する。


「本当に最近の建物はあたしの魔術に優しくないな。またびしょ濡れだ。クソッタレ」


「いいから。早くターゲットを確保して撤退」


「了解」


 マーヴェリックたちは囚人を射殺し、看守を射殺しながら進み続ける。


「まもなく、ターゲットの部屋」


「注意して射撃」


 慎重に、慎重にマーヴェリックたちが、ターゲットの部屋に近づいていく。この混乱の中で殺されていないといいのだが、と全員が思っていた。


「ターゲット確認」


「大丈夫だ、生きている」


 マーヴェリックたちはターゲットの顔を確認した。


「ジークベルト・シェレンベルク。迎えに来てやったぞ。あんたをここから連れだしてやる。もう安心していいぞ」


「お、お前たちはヴォルフ・カルテルの……! 殺しに来たのか!?」


「ちげーよ。助けに来てやったんだよ。はら、行くぞ」


 そう、ターゲットとはジークベルトのことであった。


「ターゲット確保。離脱する」


『了解』


 再びヘリが刑務所にアプローチし、ジークベルトを連れたマーヴェリックたちが降下地点にやってくる。


「行け行け行け。乗り込め。さっさとずらかるぞ」


『フェアリー・ゼロ・ツー。離陸する』


 マーヴェリックが全員が収容されたのを確認してから、ヘリが離陸する。


「カオスだな」


「カオスなのはいつものこと」


「それもそうだ」


 マーヴェリックたちは炎上する刑務所を見てそう言葉を交わした。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る