メーリア防衛軍との共同作戦

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 ──メーリア防衛軍との共同作戦



 共産主義者を殺すとなれば、喜んで殺す連中をアロイスは知っている。


 メーリア防衛軍だ。


 今は共産ゲリラとドラッグの取引もしていない。ネーベ将軍は“国民連合”がメーリア防衛軍のドラッグ取引に気づいた時点で手を引いた。彼らのご主人様は“国民連合”だ。裏切りがバレると不味いことになる。


 だから、共産ゲリラと同時にそれを取引している人間を殺すのに、メーリア防衛軍を動員することに何の問題もなかった。


「あの連中が本当に役に立つのかは疑問だけどね」


「そういうなよ、マーヴェリック。俺たちは少数精鋭の『ツェット』を中心に抗争を進めていった。ピンポイントで敵の首を刎ねる。今まではそれでよかったが、今回はそうはいかない。『オセロメー』の連中にトップを殺して後釜争いで分れるってことはできない。『オセロメー』はドラッグカルテルじゃない。ただのテロリストだ。後釜は粛々と決まるだろう。そして、ガキどもの指揮能力はどいつもどんぐりの背比べのはずだ」


「そして、ジャングルで対ゲリラ戦をやるには頭数がいる、か。確かにそうだよな。まあ、連中が足手纏いにならなければいいんだけどな」


「そこは期待するしかない」


 アロイスも無駄にメーリア防衛軍に大量の資金を投じてきたと思いたくはない。投じてきただけの戦力が揃っていることを期待していた。


 アロイスとマーヴェリックたち『ツェット』を乗せたヘリがメーリア防衛軍の滑走路に着陸する。


「ようこそ、ミスター・アロイス」


「久しぶりだな、ネーベ将軍」


 今の改革革命推進機構軍とやり合っているネーベ将軍がアロイスを出迎えた。


 もうアロイスが資金を投じ始めてから数年経つが、一向に改革革命推進機構軍が壊滅したという話を聞かないのだが、本当にこいつらは戦っているのだろうかと思った。まあ、改革革命推進機構軍がいなくなって困るのはこいつらだけではなく、アロイスも同じなので、その点の利益は一致している。


「それで、協力はしてもらえるのか?」


「もちろんだ。共産主義者は我々の敵だ。その『オセロメー』というのも共産ゲリラなのだろう? 喜んで叩こうではないか」


「それは素晴らしいことだ」


 アカのレッテルを貼ればなんだろうと殺してくれるのはありがたい限りだ。


「ジャングルで掃討戦を行う。こちらも装甲車やヘリ、COIN機を投入して相手を叩く。協力してもらおう。この手の作戦は人数が必要だ。そして、あんたたちには戦果が必要だ。そろそろ“国民連合”も痺れを切らすかもしれないだろう」


「そ、そうだな。戦果は必要だ」


 ネーベ将軍が偉そうにしてられるのも、ひとえに改革革命推進機構軍が存在するからである。共産ゲリラがいるからこそ、反共民兵組織が必要になる。“国民連合”もその観点からアロイスに支援を要請したのだ。


 だが、メーリア防衛軍はジレンマを抱えていた。改革革命推進機構軍とは戦わなければならないが、改革革命推進機構軍がいなくなっては自分たちの存在理由がなくなる。だからと言って戦いを避けてばかりいては、“国民連合”がいい顔をしない。


 そこに降ってわいたのが新生『オセロメー』だ。


 改革革命推進機構軍と取引しており、共産ゲリラの疑いがある。そして、こいつらを潰しても、改革革命推進機構軍は残るので、自分たちの存在理由はなくならない。


 “連邦”に混乱をもたらしている新生『オセロメー』をメーリア防衛軍が叩く。これは“国民連合”も満足する話だろう。


「まずは航空偵察だ。流石に対空ミサイルまでは持ってないだろう。連中の武装に重装備はない。主に小火器と対戦車ロケット、そして手榴弾と火炎瓶の類だ。上空を飛行して連中の形跡を見つけたら『ツェット』をヘリボーンで投入し、そして同時に地上部隊としてそちらの装甲車に動いてもらう」


「任せてくれ。そちらの作戦を完全に支援して見せよう」


「頼むぞ。『ツェット』はこっちの切り札なんだ」


 まさか『ツェット』が新生『オセロメー』の子供兵程度にやられるとは思っていないが、物量は脅威となるときがある。相手がいくら練度不足の子供であっても、まとまった数がいて、武器が揃っているならば脅威だ。


 ヘリボーン部隊が投入されたらすぐに地上部隊が駆け付けられるようにしておかなくてはならない。メーリア防衛軍の装甲車にも鉄籠がつけてある。ある程度の対戦車ロケットの射撃には耐えられる。


 装甲車と『ツェット』が揃えば負ける可能性は皆無だ。


「早速だが、航空偵察を始めよう。ジャングルは広い。どこに敵が潜んでいるか分からない。偵察機はこちらで準備した。まもなく到着する」


 アロイスがそう言ったころ、ターボプロップ機のエンジン音が聞こえ、それが滑走路に着陸してきた。


「“国民連合”製の最新鋭のターボプロップ偵察機だ。これなら文句なしで、上空から敵を捉えてくれるだろう」


「期待できますな」


 偵察機を操縦するのは元“国民連合”の空軍パイロットだ。


 機体もパイロットの腕前も問題なし。後は写真を解析する技術だけだ。


 それについてはマーヴェリックたちが知識を持っている。


 彼女たちは傭兵であると同時に、戦略諜報省の工作員でもあるのだ。


「給油を済ませたらこの地図の区分通りに偵察を実施する。ネーベ将軍、あんたは地上部隊の準備を」


「分かった」


 メーリア防衛軍の所有するジャングルでも行動可能な装軌式装甲車は10台。うち3台がメンテナンス中で、1台は交換部品を取るための共食い整備の対象になっている。よって動ける装甲車は6台だけだ。


 それでも十分だろうとアロイスは思っている。ここで包囲殲滅が完了すれば、もう新生『オセロメー』に悩まされることが亡くなるという思いが、アロイスの中では大きかった。この作戦の成功をアロイスは信じて疑わなかった。


 航空偵察が始まる。


 あらかじめ、改革革命推進機構軍が存在するエリアは確認していた。そこには潜伏してはいないだろうというのが全員の見解だった。新生『オセロメー』は共産ゲリラではなく、ただのテロリストだ。共通の目標のために支援はすれど、仲間とは認めない。そう結論されていたし、それは正しい。


 偵察機が上空を飛行していき、怪しげな場所で写真を撮影する。いくらジャングルがあっても完全に人間の痕跡を消すのは不可能だ。野営をしているならばなおさらのこと。焚火の痕跡や、野営地のテントなどを上空から見つけることができる。


 前の戦争でジャングルを偵察飛行した経験を持つパイロットなので、その点は十分に知識がある。怪しげなところでカメラを作動させ、写真を撮影する。


 そして、航空偵察が完全に終了したのは2日後のことだった。


 航空偵察写真がマーヴェリックたちによって解析される。


「これは規模が小さすぎる。違うね」


「こっちのは怪しいと思うけれど」


「ふうむ。引き払った後だ。ここじゃない」


 マーヴェリックたちは念入りに航空偵察写真を観察し、ようやく見つけ出した。


「ここだ。この地点に『オセロメー』のクソガキどもは集まっている」


 マーヴェリックはそう言って地図を指さした。


「では、早速ヘリボーンだ。ネーベ将軍、地上部隊を」


「了解した」


 滑走路がにわかに慌ただしくなり、『ツェット』2個小隊を搭載したヘリが新生『オセロメー』が潜んでいると判断された場所に飛んでいく。


 同時に地上部隊の装甲車も速度を上げて、現地に向かっていく。


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