捕えた獲物
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──捕えた獲物
パニックルームの入り口が吹き飛ばされる。
「動くな!」
「待て。撃つな。武器は持っていない」
中にはジークベルトがひとりで籠っていた。
「ジークベルト・シェレンベルクだな。逮捕する」
「ちょっと待て。何故、麻薬取締局ではなく、海兵隊が俺を逮捕する」
そう言ってジークベルトがフェリクスたちを睨む。
「お前は“連邦”のムショに入るということだ」
「畜生。殺されるぞ。クソッタレめ」
「今、“連邦”のムショを支配しているのは『オセロメー』だ。奴らに伝手は?」
「……ああ。分かった」
全てを説明せずともジークベルトにはフェリクスが何を言おうとしてるのか理解できたようだ。彼は抵抗せずに、海兵隊に連行されて行った。
「これで一段落か?」
「まだだ。どうあっても“連邦”のムショに叩き込む必要がある」
「何か手はあるんだよな?」
「ヴァルター提督頼りだ。それからジークベルトが罪を認めるかだ」
「おいおい。ノープランは勘弁してくれよ」
エッカルトがそう言って肩をすくめる。
「ノープランというわけではないが、計画通りにいくかどうかはかなり際どい」
「ううむ。お前を信じるよ」
「ありがとう」
フェリクスたちは迎えのヘリで帰投する。
それからジークベルトは“連邦”の司法にかけられることになった。
当然ながらいつものように“国民連合”は身柄の引き渡しを要求。だが、ここでヴィルヘルムがジークベルトが海兵隊員を殺傷したとして、“連邦”の刑務所に入れることを要求したのだ。
ジークベルトは罪を認め、彼自身も“連邦”の刑務所に入ることを望んだ。
彼の弁護士もジークベルトの意志に沿って行動し、ジークベルトは“国民連合”に身柄を引き渡されず、“連邦”の刑務所に収容されることになった。
これに焦ったのがアロイスだ。
「あのクソ野郎をさっさと“国民連合”で引き取ってもらいたい、ブラッドフォード」
『無理だ。我々は“連邦”の法を犯した人間を“連邦”の刑務所に収容することをやめさせる権利はない。そのクソ野郎が“連邦”で犯した罪を認め、“連邦”の刑務所に収容されることを望むのならばそうするしかない』
「だが、“連邦”政府に圧力はかけてくれるな?」
『努力はしよう』
だが、その努力は実らなかった。
ジークベルトは断固として“連邦”の刑務所から動くつもりはなく、“国民連合”の圧力も法律を前にしては流石に無理があった。
そして、ジークベルトは刑務所内で『オセロメー』の幹部と接触。
これまでの『オセロメー』との協力もあって、ジークベルトは『オセロメー』からの保護を得た。何回か、ヴォルフ・カルテルに命令された囚人がジークベルトの殺害を試みたものの、『オセロメー』に阻まれ、逆に殺される羽目に終わった。
アロイスはジークベルトがお喋りジークベルトになることを恐れていた。ジークベルトはいずれ生贄の羊に捧げるつもりだったので大した情報は与えないようにしていたが、それでもジークベルトの告発によって西部のドラッグネットワークは壊滅したのだ。
ジークベルトが何をどこまで知っているか分からないのに、安心はできない。アロイスはなんとしても刑務所内でジークベルトを消すように努力を続けた。
だが、どうにもならないということが分かると、アロイスは思い切った方法に出ることにした。“連邦”政府も“国民連合”政府も役に立たないとすれば、連中が管理してるものについても役に立たないと見做していい。
アロイスは『ツェット』に刑務所を襲撃させるように準備を始めさせたのだ。
「ムショは基本的に中の人間を外に出さないような作りになっている。つまり、外から中に入ってくる人間については警備が緩い」
「だが、“連邦”のムショを襲撃するのか?」
「これまで散々、“連邦”の警官や軍人を殺してきただろう。その延長だ」
「それもそうか」
だが、そこで黙って話を聞いていたマリーが声を上げる。
「刑務所を襲撃するよりスマートなやり方がある」
「どんな?」
「彼の弁護士はどこ?」
マリーがそう尋ねた時点で誰もがマリーの考えを悟った。
数日後、ジークベルトに弁護士が面会に訪れた。今日はジークベルトの保険を確認するために来てもらうよう、ジークベルトが前もって依頼していたのである。ジークベルトは別の弁護士に保険を託している。それが明らかになっていないかどうかを調べるために、ジークベルトはそれとない要件で弁護士を呼び出したのだ。
「来たか」
ジークベルトが面会席に座る。弁護士は黙って頷いた。
「それで保険についてだが、何か感づかれた様子はないか? お前にも保険の存在は話していないので分からないかもしれないが、最近弁護士が殺されたりした事件は起きてないか? 新聞もドラッグカルテル絡みのこととなると報道しないからな」
ジークベルトは愚痴るようにそう語る。
「おい。聞いてるのか?」
その時、弁護士が口を開き、舌を出した。
“裏切者”と、そう下には焼き印が入れられていた。
「しまった! こいつは死体爆──」
次の瞬間、刑務所の面会室で大爆発が起きた。
警報が鳴り響き、刑務官たちが慌てて駆け付ける。
刑務所のゲートは閉鎖され、武装した刑務官が立った。
「いいニュースと悪いニュース。どっちから聞きたい?」
爆発から数時間後にアロイスがマーヴェリックたちにそう尋ねる。
「悪い方から」
「ジークベルトは死ななかった。重傷だが、手当てを受けて命を取り留めている。もうこの手は使えない」
それを聞いたマリーが肩をすくめた。
「いいニュースは奴の保険の場所が分かった。処理してきてくれ。弁護士は殺し、事務所の金庫をこじ開けて、全て焼いて来てくれればいい」
「了解」
マーヴェリックたちは弁護士の下に向かう。
アロイスがこの弁護士の存在を知ったのは、死体爆弾になった弁護士が迂闊にも連絡先をメモして残していたからである。弁護士は知っていたのだ。ジークベルトの保険のありかについて。
そして、そのメモから弁護士を特定し、マーヴェリックたちが始末に向かった。
「で、保険はどこだ? さっさと言わないとミディアムレアのステーキになる羽目になるぞ。これは冗談でも何でもないからな」
マーヴェリックたちは弁護士を尋問した。徹底的に。工具を使い、痛めつけた。
最終的に弁護士は苦痛に負けて、保険の場所を吐いた。それでもミディアムレアのステーキにされる羽目になったが。
「これで保険にはさよならだ。ジークベルトも死なないにしても価値はなくなるだろうさ。ボスもご満足だろう」
「だといいけれど」
マーヴェリックたちは弁護士の事務所に火を放ち、立ち去っていった。
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